絞殺刑
「だ、誰に雇われた!か、金なら払う!殺さないでくれ……!」
「あのなあ、さっきも言ったろ?誰かに依頼されたわけじゃない。俺の意思だから、どう頑張っても俺のことは買収できないぞ」
「も、目的はなんだ?―――い、言うことなら何でも聞く!だ、だから……」
「もう、命乞いはいいわ。というか、まだ俺のことがわからないの?」
「は、え……?」
俺がそう言って聞くが、箱崎はなにがなんだかという顔をする。
こいつ、綾乃のことを地獄に落とすような真似をして、綾乃のことを調べていなかったのか?
「あのクソアマになにも聞いてないのか?」
「く、クソアマ?」
「姫ヶ咲家の長女だよ。あいつからなにも聞いてないのか?」
「お、お前……もしかして椎名家の……!?そ、そうか―――だから、中井を倒せたのか!」
「お前が質問できる立場ではない。質問は俺がしてるんだ」
「ひっ!?わ、わかった。知ってることは全部話す!―――だから殺さないでくれ!」
そう懇願しながら箱崎は洗いざらい全部話した。しかし、俺たちが調べた以上の情報は一向に出てこない。綾乃のことも聞いてみたが―――
「お、俺は知らない!そもそも、姫ヶ咲家の次女を犯したのは俺じゃないんだ!」
「そうか……なら、もうお前に価値はないな」
「ま、待って……!」
「大丈夫だ。この会社はお前が死んでも続くことになるさ」
言いながら俺は相手に近づくと、のど元に俺の手刀を突き刺した。
「ぐえ……!」
瞬間、力ない断末魔が部屋の中に響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ん……ここは?」
「ああ、起きたか」
「葵ちゃん!?大丈夫なの!?」
「大丈夫なわけないだろ。クソッ、やっぱり私ら二人ともやるつもりだったんだ」
「え、どういうこと?」
「ここは峰岸の隠れ家みたいなやつだよ。これでわかんないか?」
「ま、まさか……」
「連れ去られたんだよ。ちっ……!」
目を覚ました中野を前に、すべてを察していた新島が教える。
中野は自分が走れば彼女を救えると思っていたが、それは間違い。彼女が走ろうが走らまいが二人を男の毒牙にかけるつもりだった。しかし、ケガをした中野が驚異的な回復をしたことに、峰岸の頭には二家のことがよぎった。ただでさえ学校のことで二家の存在がどこかにいるかもしれないのにと、心労が尽きず、時を待たずに行動に出てしまった。
本当はもっと遅くするつもりだったが、計画を早めることに支障はないうえに、先に新島を犯して許し懇願をし続ける中野も大会が過ぎて泣き崩れるところを。というシナリオに変えた。
現実がこのように同人のように進むかは別だが、彼女たちに大きな傷をつけるには十分なこと。
だが、彼女たちには気になることがあった。
「こ、この爆発音はなに?」
「わからない。ただ、さっきまで峰岸の野郎がいたんだけど、部下みたいなやつが来て話を聞いた瞬間にどっかに飛んで行っちまった」
「なんて言ってたの?」
「わかんない。ただ、二家がどうのとしか」
「二家―――なんのことだろう?」
聞いたことのない単語しか聞き取れず、なにもわからない彼女たちには不安なことしかない。だが、その時、問題の峰岸が吹き飛んできた。
ただ吹き飛んできたのならまだわかるが、勢いよく部屋の天井をぶち抜いてきた。
「ぐぼっ……!?」
「な、なに!?」
「上でなんかあったんだろ。おい、峰岸なにがあったんだ?」
「ごほっ、ごほっ……なんだ、あの女は……」
彼女たちを無視しながら峰岸は自分の落ちてきた天井を見る。すると、天井の穴から顔を出したのは、この場にいる誰もが知らない人物だった。
だが、中野にはなんとなくその人物の正体が見えた気がした。
「し、椎名君!?」
「ば、バカ!明らかに女だろうが!」
「で、でも、椎名君に似てる気が……」
「私のこと知ってるの?」
「い、いや人違いだと……」
「おい、中野!あの女のこと知ってるのか!」
「いや、だから人違いだって……く、くるし……」
「やめろ!首締まってるじゃんか!」
「早く言え!あの女は何者なんだ!」
新島が必死に中野を助けようとするが、峰岸の馬鹿力は拘束されたままでは太刀打ちできない。そのままどんどんと中野首が締まっていき、段々と彼女の意識が薄れてくる。
だが、それを許さない人物がいた。
ストン
上にいたはずの翔一似の女が真横に移動した。その動きをその場にいた三人は見れなかった。ただ、その理解できない状況を超えることがまた起きる。
「なっ……!?―――ゴバッ!?」
首を絞めていた男が吹き飛んだのだ。彼女は指一本触れていなかったのに。
「な、なんで!?」
そう、この女は先ほどから峰岸の雇っていた男たちを手を振れずに殺して回っていた。近づこうとするだけで頭が破裂し、四肢が弾け飛び、常識では説明できないほどのことが起きていた。そう、それは超能力者のように。
吹き飛んだ峰岸に向けて女は手をかざす。
―――殺される。そう思った瞬間に目を背けてその場に丸くなる。情けないが、人が死に直面したらそうなる。
しかし
「みお姉、どいて……そいつを殺せない」
「やめなさい、結乃!あなたはここにいるべき人じゃない!」
「関係ないよ」
峰岸が顔をあげると、目の前には結乃の攻撃を防ぐように美織が立っていた。
普段のおちゃらけた様子はなく、怒りの形相で結乃を見ていた。
そんな美織の姿に驚いていたのは、結乃や峰岸だけではない。
新島や中野も同じ。普段は少し怖くなることはあっても、ここまでの表情を見せることがない彼女の姿に驚いている。
「まさかあなたが器だったとは思わなかったわ」
「だから、私もみお姉たちと―――」
「それはダメ。翔一があなたのその姿を望んでない。だから―――」
「そう……」
「あなたは人を殺しちゃダメ!私たちの後を付いてきちゃ……」
「じゃあ、殺せばみお姉とお兄ちゃんについていけるの?」
「なに言って……」
「ぐ、ぐえ……」
美織に言った瞬間に結乃は自身の手を何かをつかむ形に変える。そうすると、美織の後ろにいた峰岸が首を押さえて苦しそうにしながら、宙に浮きあがった。
「やめなさい!」
「イヤだ。私はあや姉の仇を取るの」
パチパチパチパチ
そんなやり取りの中拍手が鳴り響く。
「いいねえ……これがあの出来損ないが作ったアーカーシャの力か」
「げほっ……せ、先生……!」
「お、お前……!京谷!?」




