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強襲

 ウイィィン


 俺はとある会社のオフィスに入っていく。

 1階は当然というか受付で、そこに入る部外者はそこで手続きやらをしないとまず警備員に連れ出されてしまう。―――のが俺の認識だがあってるだろうか?


 まあ、あってても間違ってても、俺には関係ないんだけどな。


 そう自己完結させると、俺は受付に迷わずに行く。


 「社長ってこれから会える?」

 「―――アポイントはお取りでしょうか?」

 「ねえよ。逆にあると思った?」

 「では、お引き取りください。アポイントのない方との―――」

 「まあ、そうだよね。普通そうだよねえ……にしてもお姉さん手綺麗だよね」

 「……お引き取り願いますか」


 俺が不躾に受付嬢の手を触ると、露骨に嫌そうな顔をして帰るように言ってくる。

 だが、そろそろ気付くはずだ。


 「このままでは警備員に―――ぐっ!?」

 「やっとかな?―――早く答えろ。社長室は何階だ?」

 「な、なんっ……!?」


 俺―――というより、二家の人間全員が法力を完全に体外へ放出することはできない。まあ、簡単に言うなら波動拳はできないってことだ。

 だが、接触していれば流し込むことはできる。


 俺のように法力を纏うように扱えるものならなおさらのことだ。


 一般人にやれば、猛毒といかずとも全身に行きわたる体中の違和感が体を蝕む。

 ただの不快感でしかないが、同時に息苦しさや倦怠感など立っているのも苦痛となるレベルのものだ。


 「な、なに、これ……?」

 「早く答えろ。今までやったことないからわからんが死にはしないと思う。だけど、正気ではいられなくなるぞ」

 「し、社長は50階の社長室に……」

 「そうか」

 「げほっ、げほっ―――け、警察を……」

 「無駄だぞ。この会社からは出れないし、通信もできない。対策なしに突っ込んでくるわけないだろ、バカが」


 そう吐き捨てると、俺は近くにあったエレベーターで気長に目的階に向かっていく。その場には何人かいたが、開かないオフィスの扉。外界につながらない携帯と、俺のことを気にしている場合ではなく、すぐに不審者がいたという情報はパニックでかき消えてしまう。

 途中、エレベーターもなんどか止まることがあり、ここの社員らしき人物が出入りしたが、ここに来たということは社員的には許可があって入ったことになる。それがたとえ袴という違和感強めの格好であってもだ。


 そんなこんなで50階についたが、いたのは社長室の前に二人の警備員だけ。

 部屋の中には二つほど気配がある。おそらく社長とその秘書だろう。


 俺はその部屋の中に入ろうとするが、前の警備員に止められた。


 「ここは社長室だ。商談は別室のはずだが?」

 「逆に聞くけど、商談の格好?」


 俺がそう煽ると、警備員二人は同時に殴り掛かってきた。

 ―――やっぱりだ。二人の視線やまき散らす殺気。ただの一般人ではなさそうな雰囲気を感じ取った俺の予感は正解だったようだ。だが、二人の見せたアクションは叫ぶのではなく無言の拳。ならばと、俺は二人が振りぬいた隙を使って掌を二人の腹に当てる。


 すると―――


 「ぐふ……!?」

 「ごえ……っ!?」


 ―――警備員たちは悶絶しながらその場に倒れ伏せた。

 二家の関係者だから、もう少し強固なセキュリティをしてるかと思えばそうでもないらしい。まあ、俺からしたらセキュリティもクソもねえんだけどな。最初にシステム的なところは全部ダウンさせてるし。今俺のほうに向いてる監視カメラも何も見えていまい。


 バンッ!


 「だ、誰だ!?」


 俺がドアを蹴破ると、中には俺の予想通りの人物がいた。

 情報にあった箱崎信也。そして、その秘書の中井京子。社長を見つけた時点で、どうにかしてもよかったのだが、なんだか秘書のほうがなにかしそうだったので待ってみた。


 「誰だ、お前は!」

 「俺か?俺はお前を殺しに来ただけだ。名乗るほどじゃないさ」

 「そうか。まあ、命を狙われるのはよくあることなんだ。京子!」

 「はい」


 今回の一件で最も注意すべき一般人の一人。中井京子。

 確か中国武術を扱えて、足技が凄まじいとか聞いたけど、どれほどのものか。というか、そのタイトスカートで動けるのだろうか?


 そう思っていたら、それを見透かしたかのように相手は俺をあざ笑うと、自身の履いているスカートの横側をビリビリと裂いた。

 おっと、ちょっと刺激が強すぎるぜ。


 無言で足を見せつける彼女は、俺に挑発的な表情を見せて煽ってくる。


 「いくぜ、セクシーガール」

 「ふんっ……!」


 女は持っていた色々を全て捨てて俺に向かってくる。だが、相手は見誤っている。俺をただの子供だと。負ける要素なんてそもそもから存在はしていないが、彼女より実力が下の者であれば、ここが勝ち筋になるだろう。


 鋭い突きや裏拳。様々な技が俺を襲うが、そのすべてを避けて弾く。


 腹やのどに食らえば致命傷にもなりかねない威力のそれは、当たらなければどうということはない。

 軽くいなしていると、社長がキレる。


 「なにをしてるんだ!そんなガキ一人!」

 「ちっ……これだから素人は」

 「ようやく俺の実力がわかったか?」

 「そうね。坊や、私たちに雇われない?」

 「へぇ……?」


 俺と女が組合いになったとき、相手のほうから取引じみたことを切り出してくる。

 その言葉も面白そうなので、少し聞いてみる。


 「給料は年で億越え。この社長のセクハラと自慢話に耐えて、命を守るだけの仕事でよ」

 「ほぅ……簡単そうじゃん」

 「坊やみたいに腕は立つけど、殺しの依頼に乗っちゃう孤児にはいい話だと思うのだけれど?」

 「残念、俺は孤児じゃないんだな」

 「あら、それは失礼。でも、悪い話じゃないでしょう?私たち自身は社長の悪事には一切干渉しない。だから危なくなったらすぐに尻尾切できるのよ。これ以上においしい話はないわよ」

 「まあ、確かに楽に稼げそうではあるな。セクハラと自慢話に耐えるのは楽か知らねえけど……!」


 俺は相手の話を切って、組んでいた手を放して相手側の肩に置く。

 そして、そのまま躊躇なく肩に置いた手のついている腕を思いっきり振り下ろす。すると、撫でるように肩に設置したまま下に落ちていった手は、相手の肩を攫って行く。


 ガコッ!


 「んっ!?」


 彼女は苦悶の表情を浮かべて脱臼した肩を庇うようにするが、俺のことを再度睨んでくる。


 「悪いが、俺には大事なものがあって。守るべきものがあってここにいる。依頼ってのはなんの話だ?俺は自分の意思で来てるんだ。わかるか?」

 「そう……交渉は決裂って、わけね!」

 「そういうこった!」


 女が見せてきたのはここ一番の鋭く素早い蹴り。俺の胸板めがけて飛んでくる。

 しかし、俺はこんなところで止まるつもりはない。


 仕向けられた足を足首のほうから鷲掴みにして止める。そのことに彼女は驚いたが、そのまま俺は相手を引き寄せるように引っ張る。

 グンと引っ張られたことにより、だらんと脱臼した腕が彼女の意思とは関係なく垂れて、俺はその腕をつかむと、彼女の後頭部に腕を敷く。そのまま反対の手で顔を鷲掴みにして床に腕ごと叩きつける。


 実際彼女は社長の悪事とは無関係。ならば殺す必要はない。


 ただ、今の攻撃の衝撃はすさまじかったらしく、彼女の腕は後頭部に押し当てられて粉砕し、気絶してしまった。

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