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 「付近の防犯カメラ―――柊の集めた情報と照合して、今回の薬のルートはギャング集団ね」

 「ギャング……?暴力団じゃないのか?」

 「海外取引から直接受け取っている人物がいるみたいね。そして、その体育教師の峰岸良平の弟がそこのメンバーみたいね。まあ、ギャングというよりも半グレ集団みたいなものだけれど」

 「年は?」

 「メンバーの構成はバラバラ。プロ格闘家を追放されたやつとか毒親から逃れてきた者。ざっと見て、平均は23歳くらいかしら?最長はアラサーかしら。ちなみに峰岸良平の弟の名前は、『峰岸勝也(かつや)』24歳のフリーターね。高校時代に花火の火薬を弄って爆発物所持で書類送検。その後に高校を退学。家を出てから、表立った話は皆無。この時点でギャング入りしていて間違いなさそうね」


 美織の報告は薬物の入手ルートだった。

 正直、体育教師と弟がいつどこで再会することになったのかは正直どうでもいいこと。つまりは力押しになってしまうが、暴力団と想定していたものがギャングに変わっただけ―――皆殺しにすればいい。


 しかし、そうもいかないと美織は言う。


 「ここで問題なのは、こいつらの親族に当たる箱崎信也の存在よ」

 「箱崎―――この間島に出入りしていた男か?」

 「よく覚えてるわね。まあ、手引きがあったとはいえ二家に入れるほどの権力者。こいつは警戒するべきね」


 そう言ってその男の情報が書かれた紙をポンと机の上に置く。

 扱いは雑だが、二家とのつながりがある。そこが非常にネック。だが、そことかかわりがあるということは―――


 「どうせ、不正かなんかもやらかしてんだろ?」

 「ご明察!こいつは結構前からいろんなことを隠ぺいしてた形跡があってね」

 「そらそうだろうな。二家に関与できる権力者。その中に、不正を―――隠し通さなければならないような事をしないやつはほとんどいないからな」

 「だからこそそこを突いて攻撃する。これくらいなら、殺しても問題なくことは進められるわ」

 「二家は基本秘匿主義。そうなれば、事後処理は簡単に済ませてくれるだろうしな」

 「なら……」

 「ああ、こうなれば後は体育教師の殺り方だけだな」


 そうして俺たちが考えるのは峰岸への対処の仕方。殺すも殺さないも俺たちの一存。

 いや、今の段階では殺す一択なのだが。


 それでも今回の対処する相手を考えると、どうにも体育教師にのみかまうというわけにもいかない。


 今回の目的は生徒二人を助けることが最優先事項であるため、俺たちの私怨もほどほどにしなくてはならない。とは言ってみるが、結局俺たちは自分を押さえ込める自信がない。結局俺たちも十分な心の闇を抱えている。


 それだけ手にした綾乃という婚約者より、失った綾乃という婚約者のほうが存在が大きい。

 一緒にいればいるだけ、その存在は肥大化するものだ。


 「それにしても翔一。このことは結乃に伝えなくていいの?」

 「……あいつには黙っておこうと思う。二家出身といえど、俺の妹に手を汚してくれなんて口が裂けても言えない」

 「それもそうね」


 そう言って、俺たちは二人で行動を起こすのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 お兄ちゃんの気持ちは痛いほどわかる。


 お兄ちゃんに人を殺してくれと言われても、私はやりたくない。

 でも、それは普通の人相手の話。私だって守りたいものくらいはある。義姉さんもみお姉もお兄ちゃんも、みんな傷ついてほしくなんてない。


 でも、私にはそれを実行できるだけの力がない。


 お兄ちゃんのような才能も、みお姉みたいな才能も―――私にはない。

 なにもない私は本家筋の人間からひどく嫌われた。なにもできないんだから、性奉仕をしろと言われたこともあった。


 こんなひどい扱いも受けても、お兄ちゃんたちは優しかった。


 その優しさが、多分私の想いを生み出したんだと思う。

 お兄ちゃんたちは私の言われた悪口の数々は把握していると思う。頭もいいし、そんなことに気付かないほど鈍感でも、予測能力がないわけでもない。


 それ相応の優しさをもって接してくれて、妹として愛してくれた。

 そんな兄には感謝してるし、玲羅さんっていういい人と結ばれたのは祝福している。


 でも、それとこれは別の話。

 私だって、家の中では弱っちぃけど、それでも一般人よりは強い。なんせ、お兄ちゃんと同じ修業をやっていた期間だってある。才能がなくて、3年ほどでついていけなくなっちゃったけど。


 お兄ちゃんたちの助けようとしている人たちのことは知らない。でも、お兄ちゃんたちが助けるのだから、絶対に悪人のはずがない。


 しかも今回の相手はお兄ちゃんの婚約者を追い詰めたうちの一人。あや姉を殺した奴らの一人。


 居ても立っても居られない。


 私もやる。自分手を汚してでもあや姉の仇を取る。

 たぶん私は今までそのためだけに生きてきた。こんな意味もなく生まれてしまった私の意味は、ここで初めて証明されるだろう。


 待っててね。絶対に報いて見せるから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここ最近結乃の様子がおかしい。


 一人で笑ってることがあるかと思えば、とんでもないほどに怒りに身を任せたような顔をするときがある。

 私と会話する時は特になんの変化もないのだが、そうでないとき―――一人でふとした時に怖い顔をしている。


 だからと本人にそのことを言えるわけでもない。


 だが、絶対によくないことをしている。―――いや、考えている。というのが正しいだろうか。

 翔一の妹だし、家のこともある。犯罪すれすれというか、完全にそのラインを越えてもねじ伏せられるのだろうから、私が変に口出しするのも違うだろう。


 だから、私は翔一にだけは伝えておくべきだと思って、彼と少しだけ時間を作った。


 最近の結乃の状況を説明すると、ただ一言


 「玲羅の勘は正しいかもな……」


 と、言って結乃の部屋に向かっていった。

 もう何が起きても構わない。驚くことがあれば驚くし、不安になるときはなる。どうしようもない心の揺らぎを心配するくらいなら、私は翔一たちが無事に帰ってくることを願い続けよう。


 私と翔一の幸せ。―――そして、私たちを支えてくれるすべての人たちが幸せになれる。そんな世界が訪れれば、この世界はたぶんハッピーエンドを迎えられる。

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