血まみれの大義
俺は探した。
綾乃を輪姦した奴らを。だが、どうにもこうにも証拠がすべて綺麗に消されていて追跡が不可能と言っても差し支えないくらいには行き詰っていた。
しかし、明らかに犯人であろう人物はいた。
それが綾乃の姉だ。
彼女の姉は、行ってしまえばイカれてる女だ。貞操観念は綾乃と血縁関係があるとは思えないほどゆるゆるだし、目的のために手段を選ばない節がある。しかも、それが妹が死ぬことになっても。と言うより、自分の命さえあればほかのすべては破壊しても構わないと言っているような人物だ。
はっきり言って、俺たちの家の人間も奴に数人魅せられている。
結局、二家の男どもは生殖本能―――言い方はよくないが、肉欲にあらがえなかったのだ。
結局彼女を抱き、力を貸し続けている。
そのせいで証拠が見つからない状態では殺せなかった。いや、殺すことは簡単でもみ消すことも簡単だった。しかし、俺の殺人に正当性がないと姫ヶ咲家のようなデカい家はねじ伏せられない。一般家庭程度ならねじ伏せるくらい訳ないのだが。
まあ俺はこの世のクズしか手をかけていない。この程度は許してほしい。
話は戻るが、それくらい綾乃の姉はヤバい人物なのだ。そして、その彼女は求めていたもの―――妹を犠牲にしてまで手に入れたかったもの。
それは俺だ。
彼女は俺を手に入れるために婚約者である綾乃を追い詰め続けた。
家にいる間は自分の男たちに何度も抱かせて、男のいないところでは綾乃に「そんな汚れた体を翔一君は愛してくれないよ」と言い続け、体も精神もどちらも蝕み続けた。
これを知っているのは綾乃が残した遺書のおかげ。
これを提示すればいいじゃないかと言うかもしれないが、俺と婚約していること以外家でなんの役にもたっていなかった綾乃は、家の中で人権らしいものは与えられていなかった。あの外面の良いだけの家は、そんな綾乃の遺書などゴミに捨てようとした。
娘の妄言と切り捨てた家を俺は問答無用で一家皆殺しにしようとしたが、ジジイに止められた。
証拠がないから、それほどの家をつぶすには時間がかかり過ぎると。
俺はジジイだけは俺のことを二家で理解できる人だと思っていた。なんだか裏切られた気がした。
ぶっ殺してもいいじゃないか。そんあクズいなくなれば障害はなくなるから。と、なんども訴えた。それでもジジイは首を縦に振らなかった。
そんな中、美織は違った。
二家の全員が綾乃の存在―――俺の婚約者など最初からいなかったとばかりにしゃべる奴らとは違って、彼女は一切綾乃のことを忘れることなくパソコンに向かい続け、なにも見つからないとわかったときには、その悔しさから泣いていた。
当たり前と言えば当たり前だった。
綾乃は、結乃と美織と仲が良かった。親友と言ってもいいくらいには仲睦まじかった。
中でもすごかったのは、綾乃が美織の俺への気持ちを知ったときに泣きながら誤ったことだ。まさか親友の好きな人を知らぬ間に奪っていたなど考えもしていなかったからだ。それに対して、美織は終わったことだと綾乃をなだめ続けてようやく泣き止ませたということがある。
そのくらい美織は綾乃を大切な友達だと思っていた。
それを失った苦しみは俺と同じくらいあっただろう。
だというのに、ほかの人間は誰も助けてくれない。だから俺たちはあの日、誓いを立てた。
『俺たちの運命は決まっている。綾乃の仇を取って幸せになるか仇を取れずに死を選ぶか』
俺たちは綾乃の仇を取れないくらいなら、死を選ぶ。互いに命を奪う誓いをした。
だが、俺も美織も死ねない理由が―――俺には恋人、彼女には大事な友人ができた。
ならば、俺たちには仇を取る以外に選択肢などない。
俺たちは俺たちの手で姫ヶ咲家の愚行の数々を見せて、ジジイの首を縦に振らせて見せる。まあ、その直後にその動きを感知した姫ヶ咲家が報復なのかなんなのか意味が分からないが、俺の両親を殺した。
それすらの証拠もなく、実行犯がつかまっただけ。その時点で俺の心はボロボロで、結乃の精神も限界だった。
だからこそ俺たちは島を出て、俺たちを知らない場所で息をひそめることを決めた。―――最近は派手にやることも多かったため、そろそろ奴らに動きを感知されるだろうが。
まあバレるのも時間の問題だった。早いか遅いか―――そのくらいの差。ならば、思いっきりやる方が俺たちらしいというものだ。
どんなことがあっても、あいつらと同じにはなりたくない。
善人を苦しめるような人間になりたくない。善人が苦しいと思うことを、俺たちが代わりにやっていく。
たとえそれが偽善だと言われても、俺たちにとってはそれこそが正義なのだから。
誰になんと言われようが、俺たちは歩みを止めない。絶対の正義―――いや、大義を成し遂げるまで。
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最近お兄ちゃんの様子がおかしい。
家のご飯を全部私任せにして四六時中部屋にこもっている。たまに出てきたかと思えばすぐに外に行き、当分帰ってこない。
なにも言ってくれないが、これは何かしていると自白しているようなもの。
なんで義姉さんは聞かないの不思議仕方ない。こう言うのはなんだが、本当にお兄ちゃんを好きなのか疑ってしまう。
だが―――
「私は真司を心から愛してるから―――信じてるから、なにも聞かないんだ」
まあ義姉さんらしい答えっちゃ、そうだった。
お兄ちゃんが私たちが不幸になることはしない。それはわかってはいるが、どうしても気になる。
「義姉さん、恥ずかしげもなく、愛してるとか言えるようになったんですね」
「なっ!?なにか悪いかっ!」
「いえ、ただお兄ちゃんが羨ましいなあ、って」
「なんだ?私は真司も結乃も愛しているぞ。二人とも大事な家族だ」
なんだか嬉しい言葉。気分が高揚するし、抱きしめたくなる。
ああ―――お兄ちゃんが毎日義姉さんを抱いて寝てる理由がわかった気がする。
これは抱きしめられずにはいられないわ。
しかし、兄のしたいことは気になる。そんな私は、自分の兄の部屋の前に陣取り扉に耳を当てる。
そして、中から聞こえてきたのは―――
「こいつが……綾乃を……追い詰めた……」
その瞬間、私の頭の中が真っ白になった。