データトリップ
「総合優勝は―――」
ドゥルルルルルル!
体育委員長の言葉に合わせてドラムが叩かれる。
そしてたっぷり数秒ためた後に結果を言う。
「―――2組です!」
「「「「わああああああ!」」」」
無事、1、2、3年の全体総合優勝を果たした。
各学年ごとは、順番に1位、2位、2位であった。ほとんどほかの学年の競技は見ていなかったが、うちの学年以外は、2組自体は運動神経がいいみたいだった。
そうしてみんなが喜んでいる中、俺は一人考えにふけっていた。
いや、正確には騒ぎきれない人物はうちのクラスに二人ほどいるが、それ以外がバカ騒ぎしているためさほど目立っていない。
まあ、近くにいる仲のよさそうな人たちは少々心配しているようではあるが。
「……?どうしたんだ、翔一」
「ん……なんでもない。ちょっと、全力で細かい調整したから疲れてな」
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。寝れば治るから」
「本当か?私はその言葉を信じていいのか?」
「当たり前だろ。俺が玲羅に嘘なんて―――」
「言うだろ。私を危険を遠ざけるためには、やむを得ないとか考えるタイプだろ?まあ、教えてくれないのは苦しいが、私のことを想ってくれてるだろうし、詰め寄ったりはしないが」
「助かるよ」
「―――やっぱりなんか隠してるじゃないか」
「ノーコメントで」
最近の玲羅は物分かりがよくて助かる。
もう少し前の時は、俺のことが心配だと詰め寄ってくることもあったが、なんだかんだ頭の良い彼女は俺の行動の原動力を理解してきている気がする。
―――今回のは頼まれたからってだけだけどな。
玲羅に直結こそしていないが、同じ学校の問題なら片付けておくに越したことはないはずだ。
その後は体育委員と校長からの表彰と記念品の贈呈。その後の解散までの流れを先生が説明して今年の体育祭は幕を閉じた。
ただ、俺のシリアスが今幕を開けてしまった。
―――辛いです……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「薬物使用の疑い……?陸上部が?」
「正確には、部の顧問が生徒に配っている―――または、知らぬ間に吸わせたりしているのかもしれない」
「へー、警察に通報すればいいんじゃないの?」
「そういうのが通用しないから、俺が問題にしてるのわかってるだろ?」
「そうね。でも、八方塞がりと言うわけでもないんでしょ?」
「そりゃそうだろ。でもな、対処の数がとんでもないことになるんだよ。顧問の抹消、そのバックの権力者もろとも―――もしくは、顧問の親族皆殺しにするか。それに、薬物を流した人物の処理、場合によってはそいつの後ろについているであろう、暴力団関係の排除。数え上げたらキリがない」
「それを手伝えと言っているのね?」
「そうだ」
「―――わかったわ。私は、顧問の薬物の入手ルートを……」
「いや、それは柊のおっさんに調べてもらってる」
「そう……なら、私は親族の権力者とやら調べてみるわ。その及ぶ影響の範囲まで」
「頼んだ」
そう言って真司は私の部屋を出ていった。
たぶんあいつはまだ私に伝えていないことがある。
陸部の薬物使用という大きな話題に隠れてなにかがあるかもしれない。
あいつがなにか隠し事をするときは視野が狭くなるというか考えることが多くなって、ツッコミが減る。
現に、今の私はノーブラノーパンだというのに、一つもツッコんでこなかった。
それだけでも私からは不審だったが、それ以上に彼の目が怖かった。
普通の人には絶対にわからない機微―――法力が漲っていた。そんな彼を見るのは、過去1回だけ。すべてを壊すのではないかと思うくらいに大暴れしたあの時だけ。そして、あの時ほど彼に頼もしさを覚えたこともない。
たぶん、あいつは誰かを守ろうとしてる。しかも、だいぶ危ない状況にいる人を―――たぶん、無理やり肉体関係を迫られている生徒がいるとかそんな感じだろう。
普段温厚なあいつが、あそこまでキレると言ったら、トラウマを誘発するこれしかない。
―――さて、私もそれなりにやりますか。
「まずは陸上部の顧問の情報を、っと」
そう考えて私はパソコンを開くと、希静高校の人事管理データの中に侵入した。ただ一介の高校程度のセキュリティなら、このようになんの苦労もなく突破できる。
来年は行ってきそうな名前や、これからやってくる実習生の名簿。果ては退職やほかの学校へ異動となった先生の名簿―――削除された痕跡のある名前も簡単に見つけられた。その中で陸上部の顧問の情報などすぐに見つかった。
「峰岸良平、27歳……教育学部卒業の体育教師―――履歴書から卒業高校のデータベースに侵入―――親類関係者の名前を特定並びに、学生時代の対人関係と素行の確認、っと」
卒アルから奴の当時の同学年のメッセージのやり取りの履歴や掲示板、SNSの特定も完了し、それを閲覧する。
するとそこには、学校の評価とはだいぶ乖離の見えることが書かれていた。
学校側の評価としては素行もよく頭もいいという評価を受けており、先の大学への推薦も渡している。
顧問の周辺情報を探っていき、親類も簡単に特定。
そして、かなり親等の離れた場所にかなり力の強い人物を発見した。
「箱崎信也、どこかで聞いたことが……」
そう思った私はそいつのことを調べると、あることが分かった。
「こいつ……昔、一時的だけど島に入った記録がある。ってことは―――やっぱりだ。顧問の峰岸も島に入った記録がある。しかもこの時期って、ちょうど1年前……なんでこのタイミングだけ?」
そんな違和感はあの時の事件をつなげた。
ちょうど一年前、私と結乃と翔一―――この三人が島をでることを決めた事件が起きた。
私たちの大切な幼馴染が自殺した一件。心を壊す出来事がその手前だとするのなら、次期がかみ合う。
箱崎のことを調べてはみたが、やはり社会的影響力は大きいが、それでも二家に接触できるほどの力はない。ならば、なにかの手引きだと思ったが、そこには姫ヶ咲の文字が……
「まさか、そんなわけ……でも、時期も手引きしている家からもそうとしか……だとするなら、私は―――」
つながってしまった。
陸部顧問の峰岸には、親族に権力者と言う強い力を持っている。しかし、それ以上にその親族の後ろについている姫ヶ咲家と言う大きすぎる家がいたのだ。
そうなると対処は容易ではなくなる。と言うわけではない。
ただ、この一件私は
「先に謝っておくわ翔一……今回の一件、私も剣を使わせてもらうわ」