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脅し脅され

 逆転は不可能かと思われたところから俺は状況をひっくり返し選抜リレーの1位をかっさらっていった。

 この時点で7組は予選敗退。うちは選抜優勝―――総合の優勝も確実なものとなった。


 しかし、俺はそんなことに目もくれず、トラックから少し離れていた俺の前の走者の女子をおんぶするとすぐに保健室に向かおうとする。

 すると、審判が俺を呼び止める。


 「ちょ、ちょっと、旗の前に行ってもらわないと!」

 「別にいいだろ。結果はなにも変わんないんだから。代役でも置いとけ―――俺はこいつを保健室に連れいく」

 「わ、わかりました……じゃあ、総合発表の時には戻ってきてくださいね」


 まあ運営的にはけが人はほかの先生に任せて結果発表の場にいてほしいのだろうが、今はどの教員も俺の抉った地面の整備でトンボをかけている。さすがに、この状況なら俺が出たほうが早い。


 そう思っていると、背中の方から声をかけられる。


 「ごめん……ありがと」

 「なにを謝ってんだ。お前は全力で走ったろ?」

 「ごめん……ごめん……」


 なにをそんなに謝るのかがわからないが、そんな彼女を保健室に連れて行った。


 そういうビデオでは、こういう展開になったとき迷わず手を出したりするが、俺はしない。

 するメリットもなければ、必要もない。そんなことを想像してるからオタクキモいとか言われるのだ。


 到着した俺は、すぐさま彼女をソファにかけさせてけがをした部分を見やすくする。

 患部はドロドロと血を噴き出しているということはなく、せいぜい切り口程度だった。


 まあ、治るのにはあと1週間から2週間ほどかかりそうではあるが。


 「ごめん、葵ちゃん……」

 「―――どういうことだ?」

 「あ、いや、なんでも……」

 「新島がどうした?」


 応急処置中に気になる発言をする女生徒。葵と言えば、以前一度だけ話したことがある生徒だ。

 あの小柄なギャルがどうしたというのだろうか?


 「ほ、ほんとになんでもないの!―――きゃっ!?」


 そう言って逃げようとした彼女を、俺はソファに組み敷いて逃げられないようにする。

 なんだかスルーしていいような話でもなかったから。


 「なにがあった」

 「それは……」

 「それとも盗聴されてるのか?」

 「ち、ちが……でも、バレたら―――あっ」


 その言葉で、彼女になにかあったことは馬鹿でもわかる。

 先の言動でただの女子のいさかいとも思えないので、いったん詰めて……いや、同性同士で美織に聞かせた方が確実か?


 その場での対応を困っていると、俺に組み敷かれていた彼女はゆっくりと話し始めてくれた。


 「私、陸上部に入ってます……」

 「それは知ってる」

 「監督が薬を部内の一部の生徒に配ってます……」

 「は?」

 「希静の陸部が強いのは、半分くらいの生徒が薬欲しさに結果を出しているからなんです……」


 衝撃の事実だった。

 だが、合点がいくところもある。


 なぜうちのクラスから多くの薬物使用者を出したのか。


 今回逮捕された生徒は、ほとんどが陸部の生徒だった。そうでない者も、少なからずそのメンバーとのかかわりがあった。

 入手ルートは闇取引だったと聞いてはいるが―――なら、きっかけはなんだったのか。彼らが薬に手を出すきっかけは何だったのか。


 おそらく最初は陸部の監督に渡されたのが始まりで、短期間に結果を求めて、何度も摂取したんだろう。部内の供給だけでは追い付かず、取引で薬を手に入れ、検挙された。


 おそらくこういう流れだ。


 陸部顧問がどういうルートで手に入れたかはわからないが、こうして生徒がつかまった以上警察も調べないはずがない。


 「なら、なんで顧問はつかまらない?」

 「その、身内に権力者がいるらしくて……」

 「またか……―――それで、新島がなんで関係してくるんだ?」


 彼女の話を聞いてもわからないのは新島との関連性。まあ、なんだか想像はつくが……


 「その、それに気づいた葵ちゃんが陸部でもないのに、このことを社会に晒し上げる、って脅したんだけど……」

 「だけど?」

 「逆に権力を逆手に彼女のお母さんの職を奪ってやるって……返り討ちを受けちゃって」

 「脅されたのか?」

 「うん……母親に迷惑をかけたくないのなら、誠意を見せろって言われて」

 「そうか」


 誠意―――まあ、肉体関係だろう。ろくでもないことするな。


 「もう手遅れな感じか?」

 「ううん……私も友達だからっていてもたってもいられなくて―――そういうのはしないでくださいって言ったんだけど、期間まではなにもしないって約束してくれたけど、再来週の大会で結果を出さないと……」


 つまり要約すると、この女生徒が大会で走れないと新島と彼女の貞操が傷つけられるということだ。

 だから彼女は、転んでけがをしたとき、わけもわからず涙を流して、謝罪を続けていたのだ。


 しかし、そういうことを言う部活の顧問はろくでもない人間なのは明白だ。となると、結果を出したところで結末は変わらないはず。ならば、始末してしまうのがいいだろうな。


 そしてただ殺すだけではない。

 社会的に逃げ場を奪ってから殺す。またどこかで蘇生なんてしても、どこにも行けないようにだ


 普通の人から死んだ人間がよみがえるなど考えもしないが、ある一定の条件を満たしていればうちの家での蘇生が可能。陸部顧問の身内が権力者なら、うちの家とのつながりも否定はできない。

 つまるところ、すべての計画が台無しになる可能性もある。


 「こんな足じゃ走れないよ……」

 「いや、まだできる。俺たちに任せてくれ」

 「え……?」

 「お前の足を大会までに万全の状態にしてやる」

 「でも、この怪我が治ってもコンディションとか―――」

 「それ込みで万全にするって言ってんだ。任せてくれないか?」

 「私―――大会で結果残せるの……?」

 「―――残せるさ。一緒に新島を助けよう」

 「お、お願いします……」


 なんだか、体育祭をしていたというのにうちのクラスの男子の尻ぬぐいじみたことをしないといけなくなってしまったな。しかも、うちの学校で薬物を使っている部があるとは……

 せめてドーピングでとどまっておけばよかったものを。いや、よくはないか。


 だがまあ、薬を使うなんて野球やってた俺からしたらスポーツマンシップのかけらも感じられない行為だな。


 そういうビデオみたいな展開なんて起きないとか言ってたけど、意外と身近にあるもんなんだな。


 さ、久々に派手に行くぞ。

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