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193/222

赤旗

 あれからしばらくたち、騎馬戦の3年の部が終了し、ついに体育祭も終了を迎えようとしていた。残りはあと2種目と言ったところだ。


 体育祭最後の2種目は、全員リレーと学級選抜リレー。ルールは言わなくてもわかるだろうが、一応説明すると、前者はクラスの全員が出ているリレーと後者はクラスの選抜男女4人ずつの計8人が出場するものだ。


 どちらもトラック数の関係上くじ引きで決められた編成で予選を行い、決勝をする。

 その関係で、毎年一回は2ブロックある予選のうちの一つに体育強豪クラスが集まって、そこが実質決勝みたいなことになるらしい。


 ちなみに、今年は2年でそれが起きているようだった。


 そして、全員リレーの初っ端は俺たち1年だ。早くも、俺たちは最後の競技に向けてトラック内に入場する。予選の相手は、1,3、7組だ。このクラスは運動の出来る奴もいればそうでもない奴らがいい感じに散らばっているらしい。逆に完全肉体派の4組と5組は、別ブロックにある。どうせ、奴らが決勝に上がってくるだろう。


 その後は、だいぶ肩の力を抜いて走ったが、なんの危なげもなく俺たちは予選ブロックを1位で通過するのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 リレー終了後、俺たちのクラスはもう一つのブロックの走りにビビっていた。


 自分たちのクラスは人数も少なく、走る回数が多いため体力ギレの選手が多いのだ。すでに疲労困憊の生徒は何名かおり、肉体派の走りを見せつけられて辟易している。


 「うちのクラスが元気がないな……」

 「いや、疲れてるのに、あんな走りを見せられたら無理もないよ」

 「私はがぜんやる気が出てきたぞ」

 「まあ、玲羅はな」


 彼女は運動お化けだ。体を動かすのも好きだし、走るくらいはそう苦にならないのだろう。俺も美織も、この程度は大したことじゃないが、結局ほかの奴らがそういうわけでもない。


 『ただいまのレースの結果は―――1位5組、2位4組……以上の結果より、決勝への進出は5組と4組になります。全員リレー1年生の部の決勝は、この後に行われる2年生と3年生の予選の終了後に行われます。しっかりと水分補給をして休憩をとってから、3年生の予選が終わる前までに入場できる形を作ってください』


 放送部のアナウンサーが言うと、ブツッとマイクの電源が落ちる。


 ここからはしばしの休みとはいえ、3分後には決勝の開始―――しかし、明らかに疲労の見える人物が多い。これは優勝は厳しいかな。


 「ほら男子、シャキッとして!選抜リレーの人はもっと辛いんだよ!」

 「うるせえよ……」

 「だからって、俺たちがきつくないわけじゃないんだよ……」

 「はあ……?だったら私たちだってキツイんですけど!」

 「まあまあ、そうカリカリすんな」


 俺は喧嘩の起こりかけたところに仲裁に行く。疲れてるとイライラするもんな。ここは我慢だ。選抜に出る奴が必ずしも辛いとか思わなくていいぞ。だって―――


 「全員リレーの優勝はいただきね!」

 「そうだな。私たちがいれば、百人力だ!―――なんせ、翔一もいるからな」

 「そうよ。翔一がいれば、まあ負けることなんてないわ」

 「楽しみだなあ。私、地味に体育祭で優勝した経験がないんだ」


 そう言って盛り上がる俺の恋人と幼馴染。

 本当にあいつらはトラックを1周したのか?周りとの温度差がえげつないぞ。と言うか、俺への期待感えぐすぎだろ。


 「あ、あの……あんま期待されても……」

 「なにを言ってるのかしら、あなたはそう言って、いっつも周りを圧倒するじゃない」

 「そんなこと言われても……」

 「翔一、頑張ろうな!」


 冷めたような目で俺を見る美織に対して、玲羅は無邪気だった。本当に楽しんでいるようだったので、次に備えて流そうと思ってるなんて口が裂けても言えそうにない。

 まあ、玲羅の初めての体育祭の総合優勝をプレゼントするために頑張ろうか。


 頑張るぞ、俺。


 しばらくすると、3年の予選が終了し、ついに俺たちの決勝が始まる。


 『第1レーン、7組菅野正樹君。第2レーン、5組大東文尚君。第3レーン、2組天羽玲羅さん。第4レーン、4組飯島俊樹君』


 ほかのクラスが男子を先頭に起用する中、うちのクラスの先頭は玲羅だ。

 ほかのクラスは女子が先頭だよと笑っているが、あいつらは知らないだろうな。決して全国レベルじゃないにしろ、部活の助っ人に入ったときはたいていの試合など勝ちに導けるほどには、彼女の身体能力は一般人のそれとはわけが違うというのに。


 元中が少ないことで、彼女の暴力事件のことを知らなければ、彼女の中学時代にひそかに呼ばれていた通り名など知る由もないだろう。


 「位置について!よーい!」


 パァン!


 そう、彼女が助っ人に入った部はどんな弱小でも必ずと言っていいほどの勝てる。その上に、ラブコメ漫画のヒロインになれるほどの美少女だった彼女は中学の運動部の人たちの間でこう呼ばれていた。






 ―――『勝利の女神』と。


 号砲とともに走り始めた彼女は、完璧なスタートダッシュで駆け抜けた彼女は後続の男子を思いのままに引きはがしていった。

 ここでうちのクラス以外の人たちは誰も予想だにしなかった玲羅の快走に歓声をあげた。


 後ろについてきている男子は必死にくらいつこうとしているが、それでも彼女は徐々に差をつけていく。その爆走ぶりに、俺たちのクラスの奴らは大爆笑だった。

 まさか、こんなにもうちの秘密兵器が他クラスへと牙をむくとは思っていなかったからだ。


 そのあとは、淡々と進んでいき中盤ほどまで美織や俺の活躍もあり玲羅の確保したリードを守り続けた。

 しかし、そこで事件が起こってしまった。


 あまり運動の得意ではないクラスメイトが疲れているのかバトンを取りこぼしてテイク・オーバー・ゾーンを超えてしまった。それだけなら、まだ戻って受け取りなおせばいいのだが、テンパった彼はほかのみんなの制止を振り切って走り出してしまった。それのせいで、審判が赤旗をあげてしまった。


 ファールだ。


 この時点でうちのクラスは、レース失格となり結果がどうなっても得点は最下位分も入らない。完全な0だ。


 『ただいまのレースの結果を発表します。初めに、2組のファールを確認したため、この時点で2組は失格―――得点も0になります』


 そのアナウンスのせいで、クラスメイト達はほとんど結果なんて聞いていない。これのせいで優勝はかなり厳しくなった。

 いや、選抜リレーで優勝すれば総合優勝の可能性は高いが、俺たちのクラスは早い奴らだけがメンバーと言うわけじゃない。とりわけ男子は、一人だけ場違いなほどに足が遅いものが混じっている。どうしてもクラス内の平均を考えたら仕方なく参加するしかなかったのだ。


 「ごめんんさい……!」


 それが失格になった生徒が観戦席に戻ったときに言った言葉だった。全員言いたいことはあったが、ここまでしっかり謝られると、責めるに責められなかった。

 しかし、美織は違った。彼女は、自分の言いたいことをその生徒に言った。


 「あなたねえ。まだ私たちには選抜リレーがあるのよ。そういうのは総合で負けてからにしなさい」

 「でも……僕があんなことしなければ……」

 「勝負の世界ならよくあることよ。くよくよすんな。全部翔一がなんとかしてくれるから、見ておきなさい」

 「ふぁ!?―――俺っ!?」


 急に話を振られる俺……

 いや、どうしろと?


 「ほら、なんか言ってあげなさい」

 「あ、あの……暴言でも僕、受け止めますから……」


 美織に無茶ぶりをされるが、なにを言えばいいのか迷っているとクラス中の視線が俺に集まっていく。その目は、明らかに言いようのない怒りが支配しているように見えた。

 俺が下手をすれば、この怒りがすべて放出される。だとするのなら、俺はこのヘイトを違うものに―――


 「だああもう!めんどくせえな!勝てばいいんだろ勝てば!」

 「え、椎名君……?」

 「リレーで勝てば、総合優勝して、こいつの失敗も危なかったなって笑えるようになるんだろ!だったら、変えてやるよ笑いによ!お前ら、全員見とけよ?―――」

























 「―――勝ってきてやるから」

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