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リレー前に少々

 綱引きを終えた俺たちのクラスが残した競技は、全員リレーと学級選抜リレーのみとなった。


 このままいけば優勝と言いたいが、意外と接戦となっていて簡単には行かない。

 力をかなりセーブしているとはいえ、クラスの目標は優勝。つまり、加減して勝つとか舐めプもいいところの行為をしなければならない。


 言ってることは頭で理解できても、意味が分からないとしか言えない。なんだこれ……


 正確には騎馬戦などもあるが、俺はその競技に参加していない。本当は出る予定だったのだが、俺とほかの生徒との間に身体的なスペックの差が開き過ぎて誰も俺の力についてこれなかった。


 騎馬戦の上をやれば、上の俺の動きに下が振り回されて騎馬が形を成さないし、正面になっても後ろがついてこれず結果は同じ。後ろに回っても、俺のほうが力が強すぎて騎馬が回転を始めて前に進めなくなる。


 騎馬としての最低限の形を保てない以上、俺は参加しても意味ないと言って初回の練習で騎馬戦は辞退した。そして、うちのクラスの結果は惨敗もいいとこだった。


 やはり、力の強い男子がいなくなったのが大きく、開始数秒で全滅してしまう。


 「うちのクラス弱すぎだろ……」

 「まあ、男子は翔一くらいしかいないしな」

 「女子が羨ましいよ。玲羅も美織もいる。負ける要素がない」

 「私はともかく、美織は異常だな。どんなに差をつけられていても、絶対に巻き返す。と言うか、翔一もあれくらいできるんじゃないのか?」

 「いや、俺は美織ほど精密に力を制御できないんだよ。だから、あいつができても、俺にできないことは結構あるんだ」

 「そ、そうなのか?あんまり翔一がぶきっちょなとこ見たことないのだが……」


 そう言って疑問に首をかしげるが、俺は彼女にそういうことではないと弁明する。

 しかし、あんまりピンとこないのか首は傾げっぱなしだ。


 「もういいや。そのまま首を傾げといて、可愛いからそれでいい」

 「な、なんだそれ!?」


 俺が言うと、玲羅は猛抗議をしてくる。小首をかしげる姿は可愛かったのに……


 「あら、二人とも楽しそうね」

 「あ、美織」

 「げ……」

 「なによ、げ、って……ぶっ飛ばすわよ」

 「小学生かよ……」


 美織の高校生とは思えない発言にそうツッコむが、そんなことよりもと、玲羅が質問する。


 「美織が翔一より得意なことってなんだ?」

 「んー、ハッキングかしら?」

 「えぇ……」

 「まあ、翔一もできるけど、私はもう年季が違うわ年季が」

 「言っても5年くらいだけどな」

 「私には結構な差が開いているように見えるのだが……」

 「まあ、種の1000万年に比べたら秒も秒だよ」

 「そう言ってしまったら、そうだが……ん、1000万……?」

 「よし美織、次のリレーの練習すっぞ」

 「そうね」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!それよりも今の1000万とかなんとか……」

 「「……」」

 「な、なんで黙るんだ!」


 玲羅―――触れちゃいけないこともあるんだよ。


 「玲羅、俺と恋人でいたいならそれ以上は聞くな……」

 「し、翔一……それはずるいぞ」

 「そうよ翔一!あなたが口を滑らせたせいなのに、恋人の関係をちらつかせるなんて最低よ!」

 「お、お前はどっちの味方なんだ―――美織……」

 「翔一の人でなし!―――ほら、玲羅も」

 「わ、私もか!?」

 「困らすなよ……」

 「し、翔一の―――」

 「いいや、無理して言わなくてもいいんだぞ」

 「翔一のあんぽんたん!」

 「「―――……すぅ」」

 「ふ、二人とも、どうしたんだ……?」


 今のはヤバかった。

 ほほを赤らめてその言葉を放たれた瞬間、俺の意識が―――というか、美織までもが意識を飛ばしかけた。今の破壊力はすさまじいものだった。


 そして俺と美織が声がハモってしまうほど息ピッタリに叫んだ。


 「「―――可愛いかよ!」」

 「ぬわあ!?口を閉じろ!あ、あれ以外思いつかなかったんだ!」

 「「やっぱ可愛いじゃん!」」

 「だああああ!この流れ嫌いだ!どうやっても私だけ一人負けじゃないか!」

 「「クッソかわええ!」」

 「だ、誰か―――誰か助けてくれ……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 私はいつも翔一と美織に辱められている。

 そんな状況を受け入れている自分も嫌なので、反撃に出てはみるのだが、それ以上の羞恥が襲ってくるため、もうなにもしないほうがいいような気がしてきた。


 だが、それでも私は翔一に一方的に恥ずかしくなってほしい。

 もっと彼の羞恥に満ちた顔が見たい。だというのに、いつも私がその表情を見せてしまっている。どうしたらいいのだろうか。


 美織もそうだ。

 彼女が顔を真っ赤にさせたのなんて、先のクラスメイトの発言だけだった。


 私では到底かなわない。


 彼女は私と違って積極的だ。リスクを考えて動ききれない私と違って、彼女は活発に動いて翔一との距離を縮めてきたのだろう。彼らの過去など知る由もないが、それくらいはどうしようもないほど想像できてしまう。


 彼女が翔一の恋人だったら、もう体の関係を持っただろうか?

 私だって一人の女なんだ。好きな男に抱かれたい気持ちなんか普通にある。


 それでも前に進めないのは、翔一が辛そうにしているからだ。美織なら、無理やりにでも関係を結んで矯正をしそうだが、さすがにそれをできるほどの勇気は私にはない。


 別にそれが不満とは思わない。それをはるかに凌駕する愛を注いでくれるのだから、誰が文句を言うものか。


 いや、私から押し倒して顔を至近距離に持っていけば、彼も顔を真っ赤にするか?―――いや、それでは私も顔が赤くなってしまう。これでは両者相打ち―――私の求める結果ではない。


 どうすれば翔一を辱められるか……誰に聞けばいいのだろうか?美織は論外だ。どうせからかわれる。結乃もあんまり期待できない。翔一本人に聞くのはもはやなんの意味もないし……


 翔一のことを知っている人物が少なすぎる。と言うより、翔一の羞恥への耐性が高すぎる。

 もし羞恥に襲われても、カウンターをするのが本当に良い性格をしてる。―――皮肉だぞ?


 とはいえ、私の大好きな彼氏であることに変わりはない。だからこそ、彼の全部を知りたい。彼の悩むことのすべてを一緒に考えていきたい。

 そんな願いくらい、思ってもばちは当たらないはずだ。

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