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借り物のお題は

 うちの学校はなかなかイカれてるところがある。

 過激な宗教団体に襲われるのは例外にした方がいいが、それでもうちの学校はジンクス的なのが多い。まあ、忘れがちだが、この世界は一部漫画の世界に豹変している。そんな展開があってもおかしくはない。漫画的にはな。


 ただ、現実的に考えたらありえないものばかりだ。


 まあ、玲羅みたいなザ・理想の彼女みたいな女の子なんていねえよとばかりに指摘されてしまいそうではあるのだが、漫画の世界だから許される。


 ただ、同時に現実を生きていた俺には、このギャップに戸惑いを覚えることはある。

 美織もこの世界のことについてわかっているのか、それとも彼女がもとから漫画の世界の住人だとしたら―――すでにこの世界に来て半年強。わからないことが多すぎる。


 本当に俺は死んでこの世界に来たのか。それとも、死ぬ直前に意識を失ってこの世界に転移したのか。それすらもわからない。―――はあ、ミステリー要素なんていらないんだけどなあ……

 まあ、今は目の前の競技に集中するか。


 「椎名君、本当に大丈夫?」

 「全然大丈夫―――それに玉入れのミスもカバーしないと」

 「え、もしかして玉が全部飛び出したのって……」

 「あ、やべ」

 「ちょっと待って!やべってなに!?」

 「さ、頑張るぞー」

 「待って!話して!なにしたの!?」


 そんな感じに、俺はクラスメイトの言葉を完全にスルーするのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 希静高校の借り物競争は、アニメや漫画などでよくみられるものと変わりない。もはやテンプレ過ぎて説明することがない。


 簡単にルール説明をするなら、お題が書かれた紙のところまで走り、その題の通りのものを手にしてゴールする。判定は、実行委員の独断による。つまり、実行委員に嫌われていたら詰みの競技だ。


 借り物は毎年違って、得点は個人競技のため低いが、例年盛り上がる競技。

 新入生の1年もこれが盛り上がることくらいは知っている。


 ちなみに、漫画の舞台だった中学でも借り物競争は存在する。

 ラブコメらしく、学校で美人だと思う人的なお題もあったりする。


 『これより借り物競争を開始します。参加する生徒の皆さんは入場門から入場してください』


 と、まあ俺が代理出場する競技の説明はこれで十分だろう。

 あとは、お題の書かれた紙をどの順番で取るかだが―――これが悩みどころだ。いの1番に取りに行くか……それとも、無難に中間あたりでとるか。


 しかし、残り物には福があると言うし……


 悩むなあ。


 そうこう悩んでいると、俺の番が回ってきた。


 『第4走者の皆さんは準備してください』


 俺が出るのは第4走者―――相手は、同学年一人に上学年2人ずつ。各学年2人ずつの編成で争う。

 各人でクラスが違うものの、6クラスしか出ていない。しかし全体でみると、クラスの出場数はどこも同じ。公平性は保たれている。


 と言うより、トラックが最大で6レーンしか用意できないためこれは仕方がないのだ。

 だから、リレーも4クラスずつと言うわけのわからないことになっている。その昔は8クラス全部を無理やり出していたが、接触によるけが等事故が多すぎてそうなったらしい。


 「位置について!」


 まあ、もう始まるし、なにが来ても対応できるようにしないと……


 「よーい……」


 パァン!


 「「「「うおおおおおおおお!」」」」

 「えぇ……」


 俺が適当にスタートすると、ほかの全員は一斉に雄たけびを上げながら走っていった。

 これは、俺が手を抜いてても特になんの問題もなかったのかもしれない。


 俺が意気込みすらもおいていかれている中、もうお題のところに到着したようだった。


 「よっしゃああ!1番だぜ!」

 「クッソオオ!負けたああ!」


 そう言って大声で勝ちを宣言したり、悠長に負けを悔しがったりしている。まあ、ここまでの順位はほとんど関係ないけどな……


 この競技はお題に早くたどり着くかではなく、どれだけ早く借りられるかだろうに。


 そして、お題を見た選手たちは一様にすっ飛んでいき一心不乱に探し始める。

 そんなにお題辛いの?


 そう思いながら、俺もゆっくり代が置いてあるテーブルに近づくと、余った最後の一枚を手に取って開いた。

 そこに書かれていたお題は―――


 「あれ?翔一、こっちに来てるわね」

 「そうだな。うちのクラスにお題があるのか?」

 「もしかしたら、玲羅、あなたを持っていくのかもね」

 「なんのお題だそれ……」

 「うーん……この世で一番愛している人、とか?」

 「なっ!?」


 俺は二人がそんな会話をしているとは知らずに、ガッと玲羅の腕をつかむ。


 「へっ!?ほ、本当に……?」

 「玲羅、来てくれ」

 「玲羅、これマジのやつよ」

 「ふえぇ!?し、翔一、本当にわた、私でいいのか?」

 「ほかに誰もいない。一緒に来てくれ」

 「わ、わかった……―――って、ひゃあ!?」


 俺はどうにか押し切ると、玲羅をお姫様抱っこで走り出した。

 さすがに彼女はこれに驚いていたが、ゴールすれば俺のほうが恥ずかしい思いをするのだから許してほしい。


 『あーっと、これは早い!1番にゴールしたのは、一番最後にお題を手にした、1年2組の椎名君だあ!なお、今回のレースは一つ地雷が紛れており、一体誰の手に渡ったのでしょうか!』


 地雷―――そういうことか……だからこんな漠然として、難易度の高いお題が俺のところに来たのか……


 『持ってきたのは―――いや、連れてきたのは、先日の文化祭で一躍有名になった彼の恋人の天羽玲羅さんですね。では、椎名さんのお題を確認してみましょう!』


 そう言う司会にお題を渡して確認してもらう。すると、司会の人は本当に驚いたように目を見開いて俺を見る。色々と驚きなのだろう。

 こんな初っ端に地雷を踏みぬいたやつが来て、それで玲羅を連れてきたことに。


 だが、司会はなにかに納得したようにすると、マイクに向けて話し始めた。


 『では、今回の椎名君のお題は―――なんと!先ほど言った地雷のお題でした!お題は……!』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 この時、玲羅は内心バクバクだった。

 もし、スタイルが一番いいと思う人や一番美人だと思う人―――などと言われたらどう反応すればいいのかわからない。普段から翔一に言われているため、無い選択肢ではないと思っている。

 まあ、好きな人と言われても恥ずかしくて死にそうなのだが……


 すでにお姫様抱っこでゴールされているので、そんなことは気にならないかもしれない。


 しかし、一番の懸念点は翔一が一言も言葉を交わしてくれないことだ。


 こういう時は翔一は彼女の手を握ったり話しかけたりするのだが、いつもと違ってそういうことをしない。


 つまり、彼も相当いっぱいいっぱい―――そう考えると、なんだか嫌な予感がする。


 そんな不安をよそに、ついにお題が発表される。


 『椎名君のお題は……「自分の生きがい」です!』

 「へっ!?」


 発表の瞬間、体育祭の時間が止まったような静寂に包まれて、なにがおきたのか一瞬理解できなかった。

 しかし、玲羅が翔一の真っ赤になった耳を見ると、なにを言われたのか嫌でも理解できて―――死にそうなほど、恥ずかしくなってきた。

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