痴話喧嘩?
玉入れが終わると、俺たち2組の総合順位は2位に落ち込んだ。
1年のリレーの得点取得料が多く、全体で1位に躍り出る快挙だったが、逆に1年の玉入れが大きく響いて順位を落としてしまった。
ただ、まだ体育祭は始まったばかり。ここからならまだまだ巻き返しはきく。―――さっきからこれ言って馬鹿だな。バトルものじゃダサすぎる決め台詞だな。
ものすごい佳境に立たされて主人公の放つセリフが……
『大丈夫。まだ巻き返しはきくさ!』
―――すっげえ腹立つ。これがアニメでやってたら、テレビの液晶を殴っちゃう。
そんなことは置いといて、玉入れが終わった俺たちはしばらく競技に出ない。
ここからは上学年の競技だったり、俺たちが出場していない個人競技だったりする。
というわけで、選抜リレーに出場する人たちは軒並みお休みだ。
だから、美織たちも隣にいる。
「はーっ、あっつ……」
「美織、おっさんみたいだぞ……まあ、確かに暑いがな」
「暑いだけならいいのよ。すっごい胸元が蒸れるわ」
「あー、わかる……」
話しながら二人してシャツの胸元をパタパタと仰ぎ始める。
なんか、玲羅は美織の影響を簡単に受けるようになってきちゃったな。
「二人とも、そういうのをやるのはいいけど、一応男子がいるのを―――」
「翔一はいいんだ。今は、翔一がいは誰も見てないから……」
「私は翔一に裸を見られてもなんとも思わないわ」
「玲羅はともかく、美織の貞操観念終わってるな。それじゃあ恋人の一人もできないぞ」
「そんなことないわよ。このプロポーションでお金持ち―――私の武器を使えばセフレくらいは作れるわよ」
「俺は恋人って言ったんだ。誰がそんな関係を作れっつった」
とまあ、いつもの感じだが確かに暑いな。
異常気象というわけではないが、普通に今日は気温が高い。二人が巨乳あるあるをやるくらいにはしんどいものがある。
そういうわけなので、俺は二人に水筒を渡した。
「飲むか?」
「ああ―――いいのか?」
「大丈夫大丈夫。玲羅なら間接キスもどんどん来いって感じ」
「私はどうなのよ」
「美織は気にしないな。昔からそういうことしてたろ?」
「まあ、そうね。ムカつくけど、結局間接キスなんか死ぬほどやってきてるし」
「むぅ……」
俺と美織の会話を聞いた彼女は、なぜか不機嫌になり、ゴクゴクと勢いよく水筒の中身を飲んだ。
さすが飲み干しはしなかったが、結構な量を飲んでいった。
どうしたのかと、俺と美織の2人が唖然としていると―――
「私は、二人のような距離になれない……翔一の恋人だというのに、美織のようにいるのが当たり前みたいなものすごく近い距離にいれない……」
「あーあ、玲羅の面倒モードのスイッチが入っちゃったわね」
「なんだそれ」
「ほら、玲羅ってヤンデレっぽいところがあるでしょ?」
「まあ、そこも可愛いとこだな」
「ヤンデレスイッチが入ったら、私はいつも心の中でそう言ってたわ」
「また二人とも―――仲よさそうに……」
美織の言う通り、玲羅が面倒くさくなることはたまにある。俺は、それが彼女の恋人として俺のことを本気で好きだからこその現れだ。嫌なことなんてなにもない。むしろ、そんなに俺のことが好きなのかと嬉しくなる。
俺は、玲羅の隣に座ったまま、彼女の腕を引き寄せて抱きしめる。
俺の胸元に引き寄せられた彼女の顔は、一切の拒絶の色を見せようとはせずにうずめてくる。
「ひゃっ」
「たしかに俺は美織と仲がいいよ。でも、本当にそういう関係じゃない。むしろ、玲羅のほうが大事だと思ってる。大事だからこそ、あんなずけずけ相手に踏み込むような関係になれないんだ」
「でも、私は……翔一と冗談を言える間柄に―――」
「もう言えるだろ?それにな、俺は玲羅に思ってること―――本気で伝えたいことを伝えてるから。美織とは違う“特別”なんだよ」
「特別……えへへ。そうか特別かぁ……」
ちょろいとは思う。でも、それ以上に可愛い。
普段の彼女は見せないにへらとした笑顔。世界中の男を虜にするであろう綺麗な笑顔。
俺の彼女は愛おしい。狂ってしまいそうなほどに……
「ちょっと二人の世界に入らないでくれる?彼氏がいない私への当てつけかしら?」
「ち、違うぞ!わ、私は翔一にあっためてもらってただけだ」
「なんだその言い訳……」
「そうよ!さっきまでおっぱいが蒸れるとか言って胸元パタパタするくらいには暑がってたじゃない!」
「蒸れるって言ったのは、私じゃなくて美織だ!私はそんなはしたない女じゃない!」
「なんですって!翔一、放しなさい!喧嘩よ喧嘩!」
「落ち着け落ち着け」
今にも取っ組み合いを始めそうだったので、胸元にいる玲羅を押さえ込むように強く抱きしめる。
そうすると、色々な矛先が俺に向かってきて―――
「この際だから、翔一に決めてもらいましょう!私と玲羅でどっちが変態なの!」
「1択でお前だよ」
「なんでよ!」
「じ、じゃあ、私と美織で大好きなのは?」
「玲羅だよ」
「~~~っ!」
「あなた、わかり切ってる質問をよくできたわね!―――これで終わりよ!翔一、この件についてどっちが悪い!?」
「いや、ドロー」
「「なんで!」」
いや、この件に関して言えば、どっちも悪いだろ。客観的に見たらそう思うはず。
恋人として玲羅は悪くないということを期待されていたのかもしれないが、そんな曲がったことするくらいならちゃんと指摘して直してもらった方が将来的に良い。
俺は玲羅と幸せになりたいからな。お互いのよくないところは、今のうちに直しておくべきだ。
そう考えていると、体育祭の入場門のほうから女子生徒が駆けてきた。
「あ、あの……遠藤君が、熱中症で……!誰か、借り物競争に!」
どうやら、欠場者が出たらしい。
あいにく個人競技はリレーと違って代役を作られていないのだ。当日にでも立てられるし、ポイントもそこまで高くなく、全体的に見れば必要とは言われない競技だから。
しかし、借り物競争―――やるか。
「いいよ。代役で出るよ―――まだまだ体力に余裕あるし」
「し、椎名君……いいの?」
「うん、さっきも言ったけどまだ体力は―――」
「いや、後ろの二人、なんかすごい私をにらんでくるんだけど……」
「よし行こう!すぐ行こう!さっさと行こう!」
こうして、俺の借り物競争への出場が急遽決まるのだった。