体育祭開始
「宣誓―――!」
今日は体育祭当日。昨日にリハを終わらせて、このだだっ広い校庭に保護者、生徒、教員―――そのすべてが集められている。
ちなみに生徒が登校するよりも保護者が学校に来る時間が早い。よりいい席をとろうと必死なのだろう。現に玲羅の父も張り切って朝早く出たらしく、早苗さんが眠そうにしながら会場がよく見える席を陣取っている。―――小学生の父親かよ。
俺たちはというと、宣誓も終わり準備運動が終わったところで生徒各自で応援席に戻っていった。
最初のプログラムは応援合戦だが、知ってるやつは一人もいないので割愛だ。
そして、次の種目―――もとい、最初の競技は男女別リレー。そして一番最初に走るのは、1年生男子だ。ちなみに、俺は先頭だ。
まあ、すでに不安要素がすでにいくつかある。それは1週間ほど前に遡る。
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「は?退学!?」
うちのクラスの男子が6人一斉に逮捕―――からの退学措置を受けたらしい。
あまりにも寝耳に水な情報に生徒全員が驚いた。
退学を受けたのは、体育祭の練習にろくに参加しなかった数名。事情を知っているのは、その仲間うちにいた生徒なのだが、内容がひどかった。
「ちょっとどういうこと!」
「お、俺たちに言われても……あ、あいつらが面白いところ見つけたって言ってたけど、あんまりにも怪しいから俺たちは行ってなかっただけなんだ!だから、事情はよく知らねえよ!」
「そんなわけないでしょ!あなたたち、バカなことでも絶対つるんでやってたでしょ!」
「本当だって!現に、逮捕されてねえだろ!」
女子の攻めに対してもっともなことを言う男子生徒だが、もはや誰も信じていない。
そんなカオスな状況に、俺は止めるために間に入った。
「まあいいじゃんか。このタイミングであいつらと一緒につかまってないってことはそういうことだろ?それよりもどうする?リレーのメンバー足りねえぞ」
「それは、1人2回以上走るしか……」
「まあ、さすがに特例で認めてくれるとは思うが……お前も、つかまったやつらがなにしたかくらいは知らねえのか?」
「れ、連絡来たときは……クラブで覚醒剤だって……でも、あいつらがそんなことやってるの知らなくて……」
「たぶん初犯で運悪く見つかったんだろ。まあ、それは置いといて、これからは体育祭に真面目に取り組んでくれよ」
「あ、ああ……さすがにこれ以上、やったら……」
「はあ!?これ以上!?もうすでに手遅れよバカ!殺すわよ!」
「わー、落ち着け落ち着け」
と、言うわけでうちのクラスの戦力にならなかった男子が役に立つようになった。
だが、払った代償が大きすぎる。よりによって、足の比較的速いやつらが数人いなくなるうえに、選抜出る奴もいたので大きな迷惑だ。
幸い、この件に女子の誰一人として関与しておらず、誰一人欠けることはなかった。
女子リレーはともかくとして、男子リレーと全員リレー、そして選抜リレーは編成を組みなおすことになったのだった。
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「翔一、どうした?」
「ああ……ちょっと考え事をな」
「ここ最近忙しくて大変だったのは知ってるから、無理はしないでくれよ」
「大丈夫だよ。この程度の運動なら、そこまで体を追い込むことはないさ」
「ならいいのだが」
「玲羅も次のリレーに出るんだから、そっちの準備をしておけ。うちのクラスの男子のハンデが大きいんだ」
そう言って俺は、玲羅のもとを離れて入場門に向かっていった。
今回の体育祭はここがヤバい―――その1
『うちのクラスの男子のほぼ全員が一回のリレーで2回走る!』
本来のルールでは先頭とアンカーは2回走ることができないのだが、特例でそれが認められたのだが、その分が負担が大きく、比較的足の遅い者も2度は知らなければならず、このリレーは厳しいと言わざるを得ない状況だ。
『第1レーン―――』
リレーは第4レーンまでの編成で2レース行い、第1レースと第2レースの上位2クラスで決勝を行う。
時間は目いっぱいあるので、こういう形なのだが、いかんせんこのリレーだけで疲れるのなんのって。
ちなみにうちの2組は第1レースの第4レーン―――スタートには俺が立っている。
『第4レーン、2組椎名君―――』
「位置について……」
俺はスターターの合図の間にすら思考を巡らせていく。
俺が走るのはこの先頭とアンカーの前。いずれも大事だが、通常の走者はトラック半周に対して、先頭とアンカーは1周。つまり、ここがものすごく大事ということ―――
「よーい……!」
そこで手を抜くにしても、勝つためには僅差で後続に渡す選択肢は―――
パァン!
―――ない!
スタートの合図とともに走り出した俺は、ほかの走者がギリギリ引きはがされるほどの速さで駆け抜けていく。半周到達時点で圧倒的な速度で抜けていき、実に2秒ほどの差をつけていた。そのまま差をつけていき、俺のバトンは2番手に渡った。
それなりの余裕を持って渡した。だが、それでも後続に遅い人がいて、段々と距離を詰められて競技の半分ほど走り終えたところでついに2組が先頭を明け渡してしまった。
もっと早くすればいいと思うだろうが、あれ以上俺が本気で走れば、審判が俺のことを目で追えなくなってしまう。―――手を抜くのは判定のために必然なことなのだ。
「椎名―――半周でどれくらい抜かせそうだ?」
「まあやれるだけやるけど、期待はしないでくれ。ここまでが差がついたら、差を詰めてはおくけど、アンカー任せだ。それよりも、お前も真面目にやってくれよ」
「わ、わかってるって。これ以上は迷惑は……」
「そう思ってるのなら、問題ねえだろ。でも、これだけじゃあ文化祭の恨みはなあ」
「ああもう……その話はしないでくれ……反省してるから」
そう言いながらクラスメイトの男子はレーンに入っていきバトンを受け取った。
受け取った生徒はそれなりのスピードでかけていき、首位に少しだけ近づく。そして、俺の前のランナーからバトンを受け取り第1レースの重要局面に突入する。
相手のスピードから考えて、審判の反応の限界の速度まで上げても、ギリギリ届かない。と、なれば後はアンカーのやつに託すしかないな。
「あとは頼んだぞ」
「おうよ……ここで汚名返上しなくちゃ、この学校にいられねえよ」
俺が一瞬で走り抜けて、バトンを受け取った彼は持ち味の速さを生かしてリレーを終え、俺たちは第1レースを1位で突破した。
ちなみに、その後の決勝戦は第1レースで体力が尽きたアンカーが失速して見事に2位になって、シバかれていた。




