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第六章完結 ちょっとしたIFSS プロポーズの言葉

 「ねー」

 「ん、どうした?」

 「母さんは、父さんになんて告白されたの?」

 「ぶふっ!」


 それは唐突な質問だった。

 今年で17になる娘が、食事中にそんなことを聞いてきたのだ。


 現在、私は翔一と結婚して長くなるが、彼の稼ぎがいいおかげで娘の進学も私立も公立も何不自由なく選ばせてあげることができた。

 そんな彼がいるからこそ、特にこれといったひどい反抗期は娘に見られることはなかった。


 そして、翔一は彼の幼馴染の美織と一緒に会社で働いている。


 美織が大学時代に立ち上げた会社を彼女自身の力で上場まで持っていき、翔一はそんな彼女を会社設立当初から秘書として支えてきた。


 あまりにも一緒にいるものだからママ友から浮気を疑われたこともあった。


 しかし、今では近所付き合いもそれなりにこなして、中々幸せな家庭というものを実現できているだろう。


 さて、本題だが……


 「また、なんでそんな話を……」

 「うーん……友達のお父さんが友人を使ってダンスしながらプロポーズした、って話を聞いたからかなあ?」

 「なんだ、そのアメリカみたいな自由さは……」

 「で、実際どうなの?」

 「お、お前はそんなに親の生々しい話を聞いて楽しいのか?」

 「うーん……興味本位だし、面白かったら友達と話せるもん」


 ちなみに、私たちの娘は翔一に似ている。

 しゃべり方とか性格は、翔一―――というか、性別もあって年々彼の妹の結乃に似てきている。


 彼曰く、娘のイケメン具合は私譲りだとのことだが、よくわからない。

 本人も女子に告白されてばっかりだと嘆いていたが、私自身はそういうことはあんまりなかった。


 これを言うと「普通はされねえよ」と、旦那に言われる。


 「で、なんて言われたの?」

 「そもそもなんで翔一がしたこと前提なんだ?」

 「え?そういうのって、男のイメージあるし……」

 「はぁ……なるべくフラットに育ててきたつもりだったが―――プロポーズしたのは私だ。いや、高校の時にそういった話はしたが、結婚する時のプロポーズは私からだ」

 「え、母さんが?」


 私の言葉に娘はたいそう驚いたようだった。

 まさか私からしていたとは思わなかったのだろう。


 「どこで!?踊ったの?」

 「興奮するな……落ち着いてご飯を食べろ」

 「はーい。で、母さんはなんて言って結婚したの?」

 「別に特別なことなんて何もない。ただ、結婚してくれと言っただけだ―――もちろん、指輪は買ったぞ」

 「へー、意外とシンプルなんだ」

 「アメリカとかみたいに派手好きとかそういうのじゃないからな。愛の言葉なんて、たった一言で伝わるほどの思いさえあればいいんだ。どれだけ口説き文句を入れてこようと、あいつが私に対して『愛してる』という言葉だけは欠かさないようにな」


 言いながら思い出すのは、普段の旦那の姿。

 あの日から今日まで、彼は欠かさず私に「愛してる」と言ってくれる。しかも、あいつはちゃんと私の気持ちを察してくれて、してほしいことをいろいろしてくれる。

 抱きしめてくれるし、キスしてくれる。


 これくらいだろうか?周りがうらやむほどの夫婦円満でいれる秘訣など。


 「思ったより普通だったなあ」

 「なんだ、なにか文句でもあるのか?」

 「ううん―――でも、母さんと父さん、明らかに周りの両親より仲がいいからさ。そういうところから違うのかなーって」

 「そんなことはない。―――昔はそう思っている節もあったし、確かにほかの人たちとは違うところもあった。でもな、それは個人の程度の差でしかない。愛というものは、日々の積み重ねによるお互いの思いあう気持ちなんだ。お前も、好きな人ができたらわかるさ」


 私の言葉に、娘は黙って聞いてくれていた。

 今の話になにか学ぶことがあればいいのだが、あいにく私も翔一も普通の恋愛というものをした記憶がない。そもそも、中学の時点で同棲というが一番ぶっ飛んでいたな。


 ―――幸せだったがな。


 「うーん……じゃあさ、父さんはどんな人だったの?今は近所のおばさんたちに異様にモテてるけど……」

 「まあ、あいつがモテるのは昔からだな。あからさまなのは、私がいたからだろうし。―――だが、翔一の人柄か……そりゃ、お前みたいだが―――あ、そういえば付き合ってしばらくしてからわかったことだが、あいつは心が壊れてたんだ」

 「え?」

 「なにごともないようにふるまっているのに、誰にも言えないくらいに心がズタズタで、私ですら気づいたときはどうしようもないんじゃないかと思うほどだった」

 「どんなのだったの?」

 「今思えば、あいつが私や結乃に過保護だったのも納得ともいえるな。―――まず、私たちが危険な目に遭うと、必ず翔一は相手を半殺しにしたな。暴力は嫌っていたのに。それに、どこかズレてるところもあったし……」

 「父さんが……」

 「一番ひどかったのは、あの女に会ったときかな……?―――なにも考えたくないと、真っ暗な部屋で数時間過ごしていたことだな。その後に、すべてのことがどうでもいいかのように、その女の仲間を半殺しにして回っていったな」

 「父さんが、そんなこと?」


 翔一の昔のことを話すと、娘は中々驚いたようで、目を丸くしていた。

 だが、そんな彼でも誰よりも優しくて―――誰よりも苦しんでいた。だから、私はこの人と一緒に過ごそうと、一緒に愛し合って彼の傷を少しでも癒したいと思った。


 今では、そんな決断が功を奏し、誰よりも幸せな家庭を築くことができた。


 ちなみに余談だが、美織も結乃も結婚して子供を産んだ。

 二人とも、子供を産んでも落ち着くことはなく、彼女たちの子供もうちの子と同い年のお転婆娘となり、今では娘の良き友人たちだ。


 「で、でも……父さんがそんなでも母さんは好きだったの?」

 「そうだな……あの時に心を救ってもらって、正直今の今まであいつにベタ惚れだからなあ―――この気持ちは実際に人を好きになるしかないな。そういう異性はいないのか?」

 「いたら苦労しないよ」

 「告白とかされないの?」

 「されるけど、8割女で2割ヤリモク―――この体が恨めしい……」


 自分では言いたくないが、娘は私に似て発育がいい。

 本当に男にも好かれる体格をしている。その上、この性格だ。この子がその気になれば、いくらでも彼氏を作れるだろう。ただ、それでも彼女がいい男がいないというのは―――


 ガチャ


 「ただいまー」

 「あ、父さんだ!」


 あいつの存在がデカいのかもな。


 私たちは、扉の開いた玄関のほうに向かっていき、仕事から帰ってきた彼を迎えに行った。

 娘はなんの臆面もなく、父親と見るや否や抱き着いた。


 「うおっ!?」

 「父さん、いつもの」

 「いつもの、ってお前もう高校生だろ?」

 「いいの!早くっ!」

 「はいはい……」


 娘にせがまれて、翔一は彼女の頭を撫でる。もう小さいころから見慣れた光景。

 さすが翔一、自分の娘すら虜にしてしまう。本当に魔性の男だ。


 「おかえり、翔一」

 「ああ、ただいま」

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