愛してるゲーム
「し、翔一……」
「……っ」
「あ、愛してる……」
「~~~!?」
「あれれー?椎名君、顔隠してどうしたのー?」
「ごめん、今、人に見せられる顔じゃない……」
「椎名君、耳まで真っ赤―」
「「勘弁してくれ……」」
自身の言葉に赤面する玲羅。玲羅の言葉に悶絶する俺。周りは冷やかす女子のみ。なぜこんなカオスな状況になっているのかというと―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「愛してるゲーム?」
「椎名君、知らないの?愛してるって言って、照れたら負け。それだけのゲーム」
「え?なにそれ?」
「本当に知らないの?じゃあ、私と六華がやって見せるから概要を掴んで」
「はぁ……」
俺は目の前で始まろうとしているゲームに、若干戸惑っている。
『愛してる』を言い合うだけなのにそんなに面白いのだろうか?
そんなことを思っていると、ゲームが始まった。
「愛してる!」
「もう一回!」
「愛してる!」
「もっかい!」
「ちょー愛してる!」
「もーいっかい!」
そうやって、なんどか言い合っているうちに愛してるを言われている側が、恥ずかしくなって吹いてしまった。
すると、皆が「六華の負け―」と言いながら笑っている。
ルールはわかったが、面白いのか?これ。
「じゃあ、今度は椎名君が天羽さんにやってみて」
「うーん、わかった……。愛してるの言い方はアレンジしていいのか?」
「うーん……大丈夫だと思うよ。細かいのは誰も気にしてないし」
「わかった……すー……」
「……」
俺がゲームを始めるために玲羅の方を向く。すると、すでに玲羅の頬は朱色に染まっており、もう恥ずかしいのを耐えてるのが丸わかりだ。
だが、やるからには全力だ。―――いくぞ!
ドンッ!
俺は、座席に座る玲羅に覆いかぶさるように壁ドンならぬシートドンを繰り出して、口を玲羅の耳元に持っていく。
「愛してる……」
「はわわ……」
一瞬にして顔を真っ赤に染めた玲羅。これは俺の勝ちということだろうか?
だが、その場にいる全員が黙り込んでしまっている。なにか問題があったのだろうか?
よく見ると、全員の頬が朱色に染まっている。
「ん?これは俺の勝ちか?」
「は!?今、私たちはなにを見せられたの!?」
「なに今の萌えシーン」
「いいなあ天羽さん」
ダメだ。全員ポンコツ化している。なにがおかしかったんだ?確かにいつもよりキメたが、それでもいつものほうが恥ずかしいことは言っている。玲羅の反応が面白いから。
恥ずかし度で言ったら、普段のほうが高いぞ?
だが、ほかの人はもちろん日常風景など知らないし、玲羅自身も翔一の攻めに一つも慣れていないので、『愛してる』の一言だけでノックアウトなのだ。
「と、とにかくこれは天羽さんが照れたから天羽さんの1RKOね。罰ゲームはどうしよう……」
「な!?罰ゲームがあるのか!?聞いてないぞ!」
「だって言ってないもの。じゃあ、椎名君、あたしたちにも『愛してるゲーム』やって!」
「それのなにが罰ゲーム?」
「椎名君考えてみて。天羽さんはどっちかと言えば束縛が強い人よ。だからこそ罰ゲームになるわ」
「……?」
「やればわかるわよ!じゃあ、最初は私から!ちなみに名前は奏遥。遥って呼んでね」
そう言って、目をキラキラさせる奏。こうも目が澄んでいると、断るもの断れない。まあ、遊びだし。
そう思っていると、妙な気配を感じそちらを見ると、玲羅がどうすればいいのかわからない表情でおろおろしていた。
なにしてんだ?
俺はなにが来るのかわかられているのは癪なので、先ほどとは違うことをしようとしてみる。
うーん、なにがいいか……
悩んだ末に、少し前に見たドラマを真似してみることにした。
俺は奏―――遥の目を見ながら超至近距離により、所謂顎クイをしてみる。
「え?」
「愛してる……」
「ふにゃあ……」
「「「きゃー!顎クイ!」」」
遥は一瞬にして顔を染め、周りは黄色い声を上げ始める。
俺は、間髪入れずに残りの女子たちにも愛してるゲームをしていき、全員1RKOの偉業(?)を達成して見せた。
だが、周りの女子が赤面していくのとは反比例するように玲羅が悲しそうな顔をしている。
ここまで来て、ようやく理解した。玲羅はゲームであったとしても、ほかの人に「愛してる」と言ってほしくなかったのだ。
「玲羅……」
「言ってほしくなかった……。たとえ罰ゲームでも。たとえ本心じゃなくても……
私だけに『愛してる』と言ってほしかった……。どんなに心がないとわかっても、なぜだか心の中がぽっかり穴が開いたように悲しくなるんだ……」
「そんなに……?」
「大事な人が寝取られた、そう感じてしまう……。たとえそれが現実じゃないとしても、私は悲しい」
「すぅ……すまなかった。玲羅、まっすぐこっちを見て」
「なんだ、翔一……」
こっちを向いた玲羅を見て、俺は息を呑んだ。
悲しそうな顔だが、その目が希望を失ったごとく、光を失っていた。
今まで俺のことを少なからず好意以上の感情を持ってくれていることはわかっていたが、こんなにとは思わなかった。
俺は、玲羅の頬を両手で包み込むように挟む。
「愛してる……俺の―――俺だけのお姫様……」
「……っ!……それを証明できるのか?」
「ああ、できるさ」
そう言うと、俺はゆっくりと玲羅の顔に近づいていく。
俺がなにをしようと理解したのか、玲羅はゆっくりと瞼を閉じ、少しだけ顎を上に向ける。
そのまま俺たちの唇は互いにぶつかり、「ちゅ」という音を立てた。
ゆっくり、30秒ほどして俺が唇を話そうとすると、玲羅がガシッと俺の後頭部をホールドして放そうとしてくれない。
だが、俺は無理に話そうとしない。玲羅がそうしたいと思っているのなら、俺は付き合う。それに、かすかにだが玲羅の手が震えている。なら、安心させてやるのが男の務めというものではないのだろうか?
カシャ
そんな雰囲気を壊すような機械音が静かな雰囲気に鳴り響く。
我に返ってあたりを見渡すと、いつの間にかクラスの人たちが集まっており、たまたまクラス写真を撮りに来ていた写真家の人がカメラを構えていた。
「いいね2人とも。中学生の純愛。これはいい画が撮れた」
「「~~~っ!?」」
周りの状況をすべて理解した俺たちは、同時に頭の中が真っ白になり、相対的に顔が真っ赤になった。
「ひゅ~ラブラブ~」
「よ!新郎新婦!」
「もっともっと!」
クラスの人に茶化されるたびに、少しずつ俺は冷静さを取り戻し、玲羅は失っていった。
「うわあああああああああ!」
「ちょっ!?落ち着け玲羅!」
「恥ずかしい!ひゃああああああああ!」
「おわっ!?収拾つかねーぞ、これ」
取り乱す玲羅は、漫画内でのクールな一面など全く信じられないほどの慌てぶりだった。
まあ、普通はこれくらい取り乱すよな。キスの瞬間を写真家に撮られたら。
俺はその後、クラスの奴らなどを退散させて、玲羅が落ち着きを取り戻せるようにと、手を握って玲羅の頭を胸に抱きとめたのだが、結局目的地に着くまで玲羅の顔は真っ赤なままだった。