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ドレスアップ玲羅

 希静高校にはこんな言い伝えがある。

 ―――舞台で、生徒たちの前でキスをカップルは結ばれる。


 それはささやかれるようになったのは、カップルフォトコンの初回開催から8年ほど経ってから。

 先輩たちからながれてきた話で、フォトコンで優勝した写真の被写体に選ばれて、壇上でキスをした生徒たちが、次々に結ばれていったとのことだ。


 それからも、毎年のようにフォトコン優勝の被写体たちが結婚していき、その言い伝えを確固たるものへと変えていった。

 その言い伝えのせいで、優勝した被写体はもれなく冷やかしを受けて気まずくなるが、それでも結ばれる。どんな大喧嘩をしても、なぜか最後には幸せそうな顔で被写体カップルたちは結婚していった。


 新聞部には、毎年その先輩たちの写真が送られてきて、今や部室には名も知らぬ夫婦の写真もある。


 ―――今年で、ついに30年目を迎えたカップルフォトコン。今年の優勝者は、明津でカップルは翔一玲羅ペア。

 そして、もう一つこのコンテストにはルールがある。


 その時にノリで新聞部がやった企画―――美女と野獣をもじって、女子生徒に全力でコスプレをさせながら男子にはさせない。

 ―――そう、女子生徒側がコスプレ―――衣装を着る。


 そして、その衣装は1か月前までにランダムで選ばれて、極秘裏に用意される。そして今年の衣装は……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『ではまず、彼らを被写体に選んだ理由を教えてください』

 「それはですね。私は、あの二人が写真映えすることは気づいていたんですよ。初めて見たときから、この人たちを被写体にするんだって決めてました」

 『そうですか―――では、お二人の友人ということですか?』

 「いえ―――よくわからないですね。彼氏の方は、意外と寛大な人ですけど、気を許す人は少ないですしね。もしかしたら、私のことは友人なんて思ってくれてないかもしれません。彼女さんは、彼氏さん以外の異性と仲良くしようとしないので、ないですね」

 『そうですか。では、ご本人に聞いてみましょうか。―――では、今回の優勝写真の被写体に選ばれた椎名翔一さんです!』


 司会の言葉に促されて、俺は舞台上に入場させられる。

 舞台上に立つと、好機の視線にさらされて正直気分が良いものではない。


 注目されるのが嫌いとかそういうのではないが、まあ恋人とのイチャイチャを大衆にさらされるのは、よく考えると心情の良いものではない。ましてや、そこまで仲がいいと言える者たちがこの中に紛れているわけでもない。むしろ、喧嘩を売ってきたやつのほうが多い。


 そんなことを考えながら舞台に立っていると、司会に話を振られた。


 『では、まずは優勝した気持ちを一言!』

 「あー……」


 一言……正直ふざけんなと一括してやりたい気持ちもあるが、みんな文化祭をやり切って最高の気分というところだろう。だというのに、俺の空気の読めない発言はダメだからな。


 「まあ、なんだか恋人との関係が誰よりも綺麗だったって言われてるみたいで嬉しいですね」

 『じゃあ、写真を撮ってくれた明津さんに一言を!』

 「うーん……ここは撮ってくれてありがとうと言うべきなのかな?」

 「いいや、僕のほうこそ取らせてくれてありがとうと言いたいよ」

 「だったら言えや」

 『あーっと、ようやく彼女さんのほうの準備が整ったみたいです!』


 なんだか一触即発みたいな空気になって、不穏な空気が立ち込めたが、司会が救われたように生き生きとした声で、彼女―――玲羅の準備が整った、言った。

 その瞬間、会場内の生徒たちは一言もしゃべらずに静かな空間を生み出した。


 聞いた話によると、毎年彼女側は、かなり綺麗な格好をするらしい。なんでも、衣装を用意して化粧もするらしい。

 対象が相当のネタキャラだと、顔面を白塗りにされて小梅〇夫のコスをさせられたこともあったらしいが、それは俺のあずかり知らないことだ。


 さすがに玲羅にそんなコスはさせないと信じたいが……正直、明津が関与しているといまいち信用しきれない。


 『では、彼女さんの入場になります!―――天羽玲羅さん。今回は花嫁衣装での登場です!』

 「「!?」」


 司会の言葉に俺は度肝を抜かれた。と、同時に明津も驚いていた。こいつも聞かされていなかったのか……

 そうして舞台上に入場してきた玲羅の姿に、会場のほとんどの人が目を奪われた。


 入場してきた玲羅は、司会の言葉の通りの花嫁衣装を着ていた。

 和装の結婚式ばかり見ていた俺にとって、それは中々見ることができない光景に、俺は目を奪われていた。純白のドレスに、ベールで顔を覆ってはいるが、その整った顔立ちはしっかりとこちらを向けていた。そして、彼女の手に添えられている花束がどことなく綺麗さを引き立たせているような気がした。


 そんな姿に、司会すらも目を奪われていて、一瞬言葉が出てこなくなった。


 『はっ!?―――では、彼女さんにも優勝写真の被写体に選ばれたことについて一言を!』

 「ふむ……正直、こんなに目立つようなところで私の彼氏をお披露目などしたくないのだが―――もちろん、翔一がカッコいいから、ほかの女子に気付いてほしくないというだけだぞ?」

 『は、はあ……』


 やめろ玲羅!それは後でなんでこんなことを言ってしまったのだと後悔する君が見える!それに、この場の全員で一番のダメージを受けるのは俺なんだ!


 そう心の中で叫ぶが、彼女は止まらなかった。


 「―――でも、翔一と一緒にいる写真―――撮られたときは恥ずかしくて見てられなかったが、こうしてみるといいものを撮ってもらえたなあ、とは思っているぞ」

 『では明津さんに一言ありますか?』

 「そうだな……これからは撮るときに一言言ってくれ。もう少し表情を作るから」

 「ダメですよ。そんなんじゃ、あなたたちの良さなんか一つも出ませんよ」


 そうこうしていると、ほかのスタッフたちから俺と玲羅が向かい合うように誘導される。

 キスしろとでも言うつもりだろう。


 そして、向かい合ってベールをめくると、気づいたことがあった。

 多少ではあるが、彼女の顔に違いがあった。それの正体も、割とすぐにわかった。


 「メイクしたんだね」

 「あ、ああ……気づいたのか……」

 「そりゃあね。毎日見てる綺麗な顔がもっときれいになってるんだもの―――でも、だいぶ薄くやってるね」

 「だって、翔一がナチュラルのほうがいいって言うから……」

 「まあ、そういうことなら嬉しいよ。ドレス姿も似合ってるし、結婚式みたいだな」

 「けっこ……!?」

 「キスもするし、実質そうでしょ?」

 「あ、あんまり口にしないでくれ……そこは考えないようにしてきたんだ……」


 ―――もうちょっと彼女の覚悟が必要なようです……

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