後夜祭
文化祭2日目―――最終日の最後の演目は、後夜祭だ。
よくあるフォークダンスや、問題の新聞部のカップルフォトコンが待っている。
だが、疲れの影響でまったく持って俺と玲羅の二人にはそのことが頭から抜けていた。
「疲れた……フォークダンス―――参加したいが、もう体力が……」
「まあ、無理はするな。来年もあるし、いつでもそばにいるからいつでもしてあげるから」
「そうだな……来年もあるしな。来年はあんな疲れる出し物はしないようにしよう。最後に楽しみにしていたものができないんじゃ意味がないからな」
「楽しみにしてたならやればいいじゃない」
「そういうわけにもいかないんだ。見ろ、足が……」
そう言って俺に見せてくる足は、小刻みにプルプルと震えており、明日には筋肉痛に襲われていそうなことになっていた。
少しだけ撫でるように触ってみる。
「ひゃん!?」
「あ、嫌だった?」
「びっくりしただけだ……触りたいなら触っていいぞ。ただ、見ての通り限界が近いから優しくな」
「ああ、俺は玲羅にひどいことはしないよ」
「そうだったな。本当に翔一は優しいもんな」
そう言って体重を預けてくる彼女。いつ思うが一挙手一投足のすべてが可愛すぎるのだ。
いつものデレっとしているが、外ではクールな彼女。そんなギャップもいいし、意図せずにできたその綺麗な肢体も素晴らしいものだ。
今俺が触れている足も、スラッとしていて、肌も綺麗だ。
モデルみたいに細いというわけではないが、健康的に肉がついているだけで、太いわけでもない。そんな完璧なバランスを取っていると言っても過言ではない足は、彼女の一般人離れした運動能力に一役買っているのだろう。
―――そういえば
「玲羅、高校に入ってから部活の助っ人とかなくなったな」
「ああ……別に翔一のせいと言うつもりはないが、翔一の恋人だから下手なことを頼めないと遠慮しているようだ」
「うーん……玲羅は運動好き?」
「そうだな……プロになりたいとか、ガチでやりたいとかそういうのはないが、それでも体を動かすのは好きな方かな」
「へー……じゃあ、今度どこかのスポーツ施設に行くか?」
「翔一とするのか……」
「なんか不満なのか?」
「いや、そういうわけじゃないが……翔一って普通の人よりうまいとかそんな領域を飛び越えてるじゃないか。私では相手にすら……」
「じゃあ、一緒に楽しむやつ―――バッティングセンターとかボーリングとか」
そう言うと、彼女は少しだけ満足そうに目を瞑る。
なんだか、彼女はそんなところに行かなくてもいいから、一緒にいたいと訴えてきているようだった。
もしかしたら、今並べた言い訳は全部、そんなことする必要はない。家でも、一緒にいて温もりを感じれるならそれでいいと言っているようだった。
気づいた俺は、もう何も言わずに彼女の頭を撫でる。
すると、玲羅は満足そうにのどを鳴らした。
二人でイチャイチャしていると、ふと声をかけられる。
「あのー……椎名さんと天羽さんですか?」
「ん?なんか用?」
「あの……新聞部です。ちょっと来てもらえませんか?」
俺たちは新聞部の部員にそう言われて、校庭に設置されたフォトコン用のステージの裏につれていかれた。
その場所には明津もいて―――
「すいません2人とも」
「何の用?」
「そんな不機嫌にならないでください。ただ、今回私の出した二人の写真が、見事に最終章に輝きまして―――」
「なっ!?」
明津の言葉に、玲羅が思い出したように叫んだ。
もはや疲れなどどうでもいいかのように、明津に詰め寄った。
「ま、まさかあれをコンテストに出したのか!?」
「はい」
「はい―――じゃないんだよ!なんで出した!」
「いえ、ですから非常に画になったからと……」
「まずいぞ……このままでは……」
「まあ、いいじゃないですか。椎名さんを自分のものだと公表するチャンスですよ」
「―――それはそれで……」
「丸め込まれるんかい」
すぐさま明津に丸め込まれた玲羅は別室に連れていかれた。なんだかフィッティングルームとか書いてあった気がするが触れないでおく。
「こ、これを着るのか!?」
「き、着て下さい!これはうちの伝統なんです!―――あ、あの……これを着てキスをすると……」
「な、なんだって!?」
「うわっ、すごい勢いで……」
なんだか中が騒がしいが、俺がのぞくのは絶対に違うだろう。
それにしても伝統か……あ、あったな。この高校の伝統というか言い伝えが
「フォトコンで選ばれたカップルが舞台上で衣装を着てキスをすると、永遠に結ばれる」
「知っていたんですね。今のところ、本当に成婚率は100パーセントなんですから崩さないでくださいよ」
「いや、ここで結婚相手を決められるのは余りにも苦だろ―――俺はかまわないけどさ」
「いいんですよ。なんだか、あなたの恋人もその話を聞いたら乗り気になったみたいですし」
「ふぅ……ここで降りるつっても、空気が悪くなるだけだしな。付き合ってやるよ」
そう言って、俺は明津とともに舞台袖に歩いていった。
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『これから、恒例の新聞部のカップルフォトコンを開始します―――皆さんも知っていると思いますが、このコンテストで賞に選ばれた写真を撮った部員は将来成功し、その被写体のカップルはこの場でキスをすると結ばれるという言い伝えがあります。つまり、これは新聞部員の熱き戦いでもあり、燃え盛る愛の祭典でもあるのです!』
「司会はなにを言っているんだ?」
「あれはテンプレですよ。なにを言っても無駄です。部長も、散々苦労してるんです。ここは温かい目で見てあげましょう」
明津と話しながら俺はその司会をしている部長を生暖かい目で見る。
ちなみに、あの司会の部長は前回のコンテストで優勝し、今年の出場権は持っていない。つまり、明津は来年からはコンテストに出れなくなる。だが、彼はそれで構わない。コンテストに最高の写真を持って行けたのだから、と言っていた。
芸術はよくわからん。
『こ、今年も、たくさんの応募があり、すでに有識者の間での選考も無事終了した次第となります!では、まずは今年の応募作品をみていきましょう!』
「おー!やり切ってるねえ」
「部長、あんなにセリフに文句言ってたのに、ノリノリじゃないですか」
(絶対殴る!明津と……椎名だったか?変な噂があるが、あいつらは絶対殴る!)
部長がそんな決意をしていると知らずに、俺たちは死ぬほど袖で会長をあおり続けた。初対面だが、ヤバいことやっている。そんな自覚はあるが、なんだか彼女もこちらに怖い笑みを見せてくるのでお互い様だ。
スクリーンに数々のカップルの写真は写され、優勝以外のすべての作品の紹介が終わると、ついに俺たちの番がやってきた。
『今年も数々の応募、ありがとうございました。では、最後優勝作品の発表となります。エントリーNo.127番―――《椎名天羽カップル》明津サマです!』
そう司会が言った瞬間に、明津は嬉しそうにその場を飛び出していった。
あいつが一番ハイテンションじゃないか。