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営業終了

 玲羅と二人きりの休みを満喫した後、俺たちは地獄に戻ってきた。

 だが、それもこの時間を持って終わりだ。


 キンコンカンコーン


 『以上を持ちまして、希静高校文化祭を終了します。生徒の皆さんは後片付けなどを頑張って、後夜祭を楽しみましょう。ご来校の皆様はゴミなどはお持ち帰りになりますようお願いいたします』


 その放送の言葉を聞いて、うちのクラスの人たちは次々に倒れていく。

 この光景は昨日見たばかりだ。


 俺が幾分か慣れた。ここまでではないだろうが、卒業後にみんなするであろうバイトの礎となるはずだ。いい経験だと思えば、数年後には笑える思い出になるはずだ。

 しかし、2日間通してこなかった大馬鹿が数人いる。


 1日目にどやされたりなんなりで機嫌を損ねたクラスの男子たちが、結局拗ねたまま来なかった。


 その行動に、この凄惨な現場にいる人たちは殺意すらも覚えていて、もはや言葉で言い表していいのかわからないほど呪いがはびこっていた。


 それでも、美織の一言で全員が生き返る。


 「えー、二日間合わせての売り上げが―――300万円を超えたよ。学校への支払いとか、打ち上げの都合で、一人だいたい15万くらいかな?」

 「売り上げ300万ってなに?」

 「文化祭の規模じゃねえよ……」

 「俺たち、休んでたよな?一応休憩あったよな?」


 突然、ただの文化祭で大金を渡されることになった生徒たちは困惑を隠しきれないようだ。俺も正直驚いてはいる。

 材料費一部などが、学校の経費で落ちているにしても、一人15万多すぎる。逆に来なかった生徒たちが可愛そうになるレベルだな。

 ―――自業自得といえば、それまでだが。


 「そんなことより男子許さん!」

 「もー、元カレがこんなとか一生の不覚!」

 「クソが!」


 怖っ……


 「し、翔一―――女子ってこんなに怖いのか……?」

 「いや、その玲羅も女の子でしょうが」

 「わ、私はこんなに悪口を叫んだりとか……」

 「そうだなー、玲羅はピュアだからな」

 「ば、バカにしてるだろ!」

 「そんなことない。むしろ、そこがいいところだよ」

 「なんだか釈然としないな……」


 そうして彼女は複雑そうな顔をする。

 言われてもなあ……俺は自分にない彼女の素直なところが好きなんだけどなあ。


 たぶん玲羅と恋人になった人たちは、総じて玲羅の好きでたまらないところを聞かれたら絶対に言うはずなのに。あー、ヤリモクは体とか言ってもおかしくはなさそうか。―――そういう奴は好きでたまらないとか言わない?……シャラップ


 俺と彼女でゆったりとしていると、先ほどから男たちに文句を言いながら元カレのことをボロカスに言っていた女子たちが群がってきた。


 「ねえねえ、天羽さんは椎名君とどうやって出会ったの?」

 「ふぇ!?―――雨の日にブランコに揺られてたら、傘さしてくれて……」

 「雨の日の公園に行ってくる!」

 「ちょ、ちょっと待て!そんな普通にいくものなのか!?」

 「だって、雨の日だと椎名君みたいな―――強くて優しくて料理の出来るイケメンが傘さしてくれるんでしょ?」

 「そ、それはちょっと―――我ながら出来過ぎな話だとは思うが……し、翔一はどう思う?」

 「いや、無理でしょ。俺はあの時、玲羅があそこにいるのは半分わかってたし。俺が玲羅に愛を伝えに行ったようなもんだから」

 「そ、そうなのか!?」


 俺の言葉にクラスの人たちは驚いていたが、それ以上に玲羅が驚いていた。

 なぜって?彼女的には、あそこに偶然現れたたまたま好意を寄せてくれていた俺が傘をさしてくれたものだと思っていたのだろう。


 だが、現実は違う。


 俺は彼女を本気で落とすためにあの場に行った。


 「王子様展開じゃなくて悪かったな。でも、あんな冬空の雨の中、わざわざ会いに行くのって、玲羅が好きだから―――本気で落としたかったからなんだぞ?」

 「そ、そうか……」

 「くっ……出会いを聞いて真似すれば―――と思ったけど、ダメージを受けただけだわ!」

 「そうよ。その男はやることが何もかも現実離れしてるから、そいつと関与する話を実演しないほうがいいわよ」

 「条華院さん!?」

 「誰が、現実離れしてるって?」


 話に横やりを入れた来た張本人―――条華院家のお嬢様は、札束を持ちながらやってきた。

 なかなか強烈な登場の仕方だが、こいつ抜きでは文化祭の成功はあり得なかった。


 そうなると、クラスに恐れられていた彼女の印象は一転した。


 俺との絡みを直接見たおかげか、俺とやりあえるレベルの身体能力を持っている怖い女から―――意外とリーダーシップがあって、みんなを引っ張てくれる姉御肌の人物だと。

 美織的には、あまり嬉しくはなさそうだが、文化祭中に彼女はかなりの助けを求められていた。


 表で俺が苦労していたが、彼女は裏方で非常に苦しい思いをしていたはずだ。

 今日はお互いに頑張ったということで、言い合いはなしにしようや。


 「はい、個人報酬の15万よ」

 「あ、ありがと……」

 「にしても、よく働いたわ。あんな逃げ出す輩がいっぱいいたのに。―――あいつらの分の報酬も、こちらに回るから一概に役に立たないとは言えないけどね」

 「条華院さんこそ、クラスをまとめ上げたりしてたし、一番すごいよ」

 「そうね。私が一番苦労したわね。だから、私と翔一と鐘梨さんだけ報酬が1万だけ多いわ。そこに異論はないわよね?」

 「「「ありません!」」」


 こうして俺たちのあわただしい文化祭が終わりを迎えた。

 ちなみに、うちの文化祭の恒例行事のミスコンはというと―――うちのクラスからは一人の出場者も出なかったらしい。エントリーはあったのだが、集合時間までに来ず、取り消された形だ。出れなかった女子も、やり切った達成感と疲労感、そして報酬のお金もあって特に文句を言うことはなかった。


 しかし、この学校の一番可愛い女子を決めることに意味があるのだろうか?

 ―――こんなにも愛くるしくて愛おしい人が隣にいるというのに。たぶん俺は、今回の文化祭で時間があっても、ミスコンは玲羅が出ていない限り見に行くことすらなかっただろうな。


 そして、俺たちの最後の楽しみ―――後夜祭のフォークダンスが幕を開ける。そして、誰もが存在を忘れていた、希静カップルフォトコンのグランプリも発表の時間が控えている。

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