どっかのクラスがやらかしている余波
蔵敷たちから別れた後、俺と玲羅はいい感じに腹を満たした。
あまりにも疲れているせいか、逆に食べ物がのどを通らず、思ったよりも出費が少なかった。
まあ、どうせまだ貯金もあるし、ジジイからの仕送りもあるし金には余裕があるから、特に気にする必要もないんだが。
腹を程よく膨らませた玲羅は、疲れも相まってか俺の膝の上で眠りこけてしまう。普通のラブコメとかなら立場が反対なもんだが……全然かまわないけどさあ。
「んぅ……しょういち……」
「はいはい、可愛い可愛い」
半分呆れながらも、俺は彼女の頭を撫でる。相変わらずサラサラの髪で癒される。
しかしまあ、彼女はストレートロングのまま髪型を変えたりしないな。清楚系にも見えるが、普段の彼女を知っている俺からしたら、そのイメージはなくなってしまう。
どうしても、甘えたがりな小動物のような姿を思い浮かべてしまう。
彼女の漫画での評判はクーデレだった。何事にもクールで、でも主人公の前だと、ちょっとだけデレっとする。だが、俺の前ではクールにしてるほうが珍しい。
なんだか、自分のキャラをどうにか保とうとするときもあるが、たいてい俺か結乃か美織が、彼女のキャラを崩壊させている。
彼女にとってデレ状態でいるのが一番心地が良いのか、最近はめっきり甘えるようになった。―――って、これは前からか。
だが、こういう無防備な姿を見せられると、いたずらしたくなる。でも、こんなあどけない寝顔にいたずらができない……
そう考えると、俺は結局彼女の髪を指で梳かすか、頬を撫でる以外にやることがない。
寝ながらにやける彼女の顔を見て満足していると、ふと声をかけられた。
「なあ兄ちゃん、ちょっと金かしてくんねえか?」
「……」
「おい、聞いてんのか!」
「金ならねえぞ。あと、巻き上げようとする相手は選べ」
「てめえ!誰に口きいてんだ!」
お前だよお前―――そう言う前に、俺は座ったまま胸倉をつかまれる。まだだ―――まだ怒るタイミングじゃない。ここでキレたら、玲羅と仲良くなってくれた人たちがまた離れていってしまうかもしれない。
玲羅は気づかずに寝ているが、陰から覗かれている。今も、俺たちのもとに助けに行こうかと悩んでいる最中みたいだ。
だからこそ見られている中で、俺がこいつらを殴るのはまずい。俺が一人になったりするのはかまわないが、そのせいで玲羅が寂しい思いをするのは違う。
―――というか、他校の文化祭でカツアゲってどういう状況だよ。意味不明過ぎて逆に笑えてくるわ。
そんなことを考えていたからか、いつの間にか笑みがこぼれていてしまったのだろう。
それを見たガラの悪い男たちは、頭に血が上ってしまった。
それを察した俺は、玲羅に危険が及ぶ前に立ち上がっていつ襲い掛かられてもいいように身構える。
玲羅の頭には、俺が持っていたタオルを敷いてかたいベンチに触れないように気を付けた。
「てめえ、なに笑ってんだ!」
「おっ、あぶねっ」
拳を振り上げてこちらに向かってきた男に対して、俺は冷静に横に体を向けて避ける。その瞬間に俺の目の前に踏み込まれた相手の足を軽く踏んでこけさせる。
すると、思ったより勢いよく地面に顔をたたきつけた。
「ひでぶっ!?」
「お前!なに避けてんだよ!」
「いや、避けるでしょ。むしろ、手を出さないだけでいいと思うんだけどなあ……」
「なに言ってやがる!」
そう言って倒れた男の介抱するが、もうどうしようもないほどに鼻血を出していた。これは……俺が悪いのか?微妙なラインじゃね?正当防衛と言えば、それまでだしなあ……
思案していると、どこからともなく奴らの仲間と思える奴が割って入ってくる。
「お前ら、なにしてんの?」
「はあ……増えた……」
「あ、先輩!こいつから金を巻き上げようとしてるんすよ!―――この学校、カジノなんかやりやがって……」
「ラスベガスにあるのかな?この学校は」
無法地帯過ぎるだろ、うちの学校。賭博法って知ってるか?―――まあ、漫画の世界だし、そこらへんはガバいんだろう。
そいつらのせいで、俺は今カツアゲされてんの?
「そうか、そういうわけだから恨むんならお前の学校でカジノなんかやったクラスを恨むんだな」
「は?いや、渡すつもりなんてないですよ?」
「おい、ケガしないうちに出した方がいいぞ……」
そう言うと、男はこめかみに青筋を浮かべながら、裏ポケから鉄パイプを取り出す。―――おい、学校のセキュリティチェックどうした。機能してねーぞ。
「おら、早く出せやあ!」
「いや、武器はダメでしょ」
ガッ!
俺は、難なく振り下ろされた鉄パイプをつかむ。その姿に心底驚かれたが、振り下ろした男はすぐに我に返り、俺から鉄パイプを引きはがして離れようとするが、俺が全然それを放さない。
「おい、いつまでつかんでんだよ!―――放せっ!」
「あー、はいはい」
「ぎゃん!?」
思いっきり男が引っ張ったタイミングでパイプから手を放したら、面白いくらいに男が後ろにずっこけていく。
最後にはゴンと嫌な音がしたが、気にしないでおこう。
おそらく今のやつがこいつらの中で一番強かったのだろう。あまりにも情けない倒れ方をしたので、ほかのやつらがビビりまくってる。
―――どうしろと?
「引くのなら、これ以上は―――ていうか、言うほどなにもしてないんだけど」
「うるせえ!早く金出せ!じゃないとこの女を―――」
「あ?」
―――この女だと?それってつまり玲羅に危害を加えるってことか?
あ?死にてえみたいだな?
「動くんじゃねえぞ。その場に財布を―――って、いねえし!」
「なあ、どうするんだ?」
「は!?いつのま―――にっ!?」
俺は一瞬で飛び上がり、上から玲羅に危害を加えようとした男に拳を振りぬいた。
上を向いた男の顔面を捉えて、力は下に向いたままの拳は顔面で止まることなどなく、男の顔が地面と拳に挟まれるようにたたきつけられた。
「げぼあ!?」
「よかったな。下がコンクリだったら、顔面がはじけ飛んでたぞ」
その惨事を見たことで、完全におじけづいたのだろう。残りのやつらは、なにもすることなく地面で悶えている3人を残して走り去っていった。
そんなザマなら最初から絡むなって話なんだよ。
俺はそう考えながら、玲羅をお姫様抱っこで抱きかかえると、そのまま歩き出す。
「そこに隠れてるの。もうバレてるから意味ないぞ」
「あ、し、椎名君……」
「別に怖がるのならそれでいいからさ―――玲羅の友達ではいてやってくんねえか?」
「べ、別に―――椎名君は正当防衛でしょ?なんにも悪くないよ……」
そう言って、隠れていたやつらは弁護をするが、完全に目が怖がってる。
またしても、俺とクラスの間に距離が生まれてしまうのだった。