終了後
「ふぅ……」
一日目の日程が終了し、着替えを取ってきた俺は玲羅にそれを渡して即座に食材の買い出しに出ていた。
その付き添いには、当然のように玲羅がいる。
「もうちょっと長めに風呂入ってなくてよかったのか?」
「翔一と一緒にいたいし……それに、クラスの奴らが不躾に私の体をなめるように見てくるのだ。なぜなのだろうか?」
「それはなあ―――玲羅のスタイルがいいからだよ」
「ふぇ?」
「玲羅って、恋人目線を抜きにしてもスタイルがいいの。俺に胸とか尻をどうのこうのしてくるとき、自分の体に多少は自信がるんじゃなかったのか?」
「それは……そりゃ、少しくらいは意識してほしいなあと思うが、私のスタイルが完璧とは思ったことないぞ!」
「お、おう……」
大きな声で自信を持っているということを否定する玲羅。
しかし、無い者からすればこの発言は大いに怒りを買うであろうことは想像にたやすい。
買い出しのために俺たちがやってきたのは、学校の近くにあるスーパー。ここなら、時刻的にもセール品を買いやすいし、大量にものが手に入る。
業スーとかもいいが、いかんせんここからだと車を使わないと厳しい距離にある。
しかし、俺と玲羅だけで荷物を持つというのもキツイな、もう少し人は来れなかったのだろうか?
と、言いたいところではあるのだが、クラスの人たちは今日の激務でダウンしている。
これ以上働きたくないのだろうな。
「はあ……ほんと玲羅は優しよな」
「き、急になんだ!」
「いや、ほかの人は来ないけど、玲羅だけはちゃんとついてきてくれる……」
「そ、そんなことないぞ。私だって、翔一だから一緒に来ているだけだ。ほかの男だったら、こんな風についていかない」
「玲羅、カッコいい!」
「だ、だからなんなのだ!」
そう言いながら恥ずかしがる彼女は、少しだけ居心地が悪いのだろう。俺よりも歩くペースが速くなっている。
「ちょっと待ってよ」
「う、うるさい!早くいくぞ!」
「あー……玲羅はなにか食べたいものある?」
ピタッ
俺の質問で、彼女は一瞬で早足をやめて停止する。
なにか食べたいものでもあるんだろうか?
そう考えると同時に、彼女は俺のほうにすたすたと戻ってきて言った。
「カレーが食べたい!」
「カレー?」
「そうだ。みんなで和気あいあいとしゃべりながら食べるカレー―――少しあこがれていたんだ」
「まあ、俺と玲羅って半分孤立してたもんね」
「うるさい!―――でも、今はクラス一丸で頑張ってまとまっている。こういう時に青春のようなことを……」
「男子の大半は集まってないけどね」
「シャラップ!―――それに、翔一のカレーを食べたいんだ」
「へいへい」
玲羅はそうまくしたてると、俺の腕をつかんで走り出す。
まあここまでの笑顔で希望を出されたんだ。彼氏として、応えないわけないよな。
そう思いながら、俺はスーパーの中に入りカレーの材料を見て回った。
今日の泊りは女子が多い。
しかし、運動系の部活に入っている女子も多いので食べる子も多いだろう。それに、こっちには玲羅がいる。かなりの量が必要になるはずだ。
先ほどの連絡で、炊飯は始めていて炊き出しレベルに米を用意しているらしい。
―――さすがに多すぎないか?
「なにか入れてほしいものとかあるか?」
「じ、じゃあ―――ナスとか?」
「ナスか……いいな。じゃあ、少しだけ時期が遅いけど夏野菜を中にぶち込むか」
「夏野菜カレー、か」
「イヤだった?」
「そんなことはない!ただ、翔一が今まで作ったことがないものだから、楽しみで……」
そんなことを言いながらもじもじする彼女。
確かに、俺はそういう変化をつけたカレーを出したことなかったな……
まあ、シンプルに俺がオーソドックスなのを好んでるだけなのだが
彼女の提案で今日の晩御飯は夏野菜を使ったカレーになる。うまけりゃ文句はないだろうと、クラスの意見も聞かずに俺は材料を買って彼女とともに学校の家庭科室に入っていった。
そこに入ると、すでに何人かの生徒がおり、俺の料理姿を見に来たのだという。
「今日のお店では、あんまり見れなかったからねー」
「そうそう。あの神業、じっくりと見たかったなあ」
「はいはい―――今から見せてやるから」
「お?自分料理技術を神業だと認めたのか?」
「うるさいぞ。お前たちの分をなしにしてもいいんだぞ!」
「やー!」
俺はこの文化祭で、ずいぶんと女子と仲良くなったような気がする。
時々、とんでもない殺気を感じるときがあるが、鈍感な彼女たちは気づいていない。
仲良くなったことによって、色々な情報が入ってくることになり、今のクラスの状況などを知ることができた。
「へー、今日は今いない男子は全員で他校の女子と遊んでやがんのか……」
「そうそう。むかつくよね―――ほらこんな投稿しちゃってさ」
そう言って女生徒にスマホを見せてもらう。すると、その画面には例の男子のものと思われるアカウントに、『今日の文化祭で知り合った女子たち』との投稿がされていた。
―――危なかった。俺が彼女のスマホを持っていたら握力で握りつぶしていた。
それから1時間くらいだろうか。
カレーが出来上がり、白米を全員に行きわたらせて好きに食べさせるようにする。
自由になった瞬間に、ほかの生徒たちは一気にカレーをかきこみ始めて、おかわりの列がすぐさまにできた。
「おお……壮観ね」
「美織、少し仕事が厳しすぎたんじゃないか?」
「そうね。もう少し楽にしたいのだけれど、正直無理よ」
「なんで?」
「あなたの宣伝効果が、私の対応策をことごとくつぶしているのよ」
「マジか……」
「そもそも、あなたみたいなイケメンがあれだけのことをしているのよ。たいていの女生徒なら、見惚れてもおかしくないのに、最後にはアシスタントの子も休ませてあげるっていう優しさも見せたのもよくなかったわ」
「なんでだよ」
「イケメンで優しいのね―――嫌いじゃないわ!みたいな状況が出来上がってしまってるのよ」
「なんで、京水語録を?」
と、まあどうにか無事に一日目を終えることができた。
おかわり戦争をしている彼女たちを見て、平和だと言えるのかは甚だ疑問だが、俺から言えることはただ一つ。
二日目は、生きて家に帰ろう。絶対に成功させるために……