地獄の後半戦という名の1日目終了
「じゃあここから2時間かしら?頑張るわよ!」
「「「「おー!」」」」
少ない時間を使ってぶらぶらとした俺たちは、また着替えて教室に戻ってきた。
実際はすでにいたところを更衣室にぶち込まれたわけだが……
驚くほど男子更衣室が空いていてビビったのはここだけだ。
逆に女子更衣室はすし酢目状態かと思うほどぎゅうぎゅうだったらしい。
「はあ……もう少し人を分散できんのか……」
「そんなに女子のほうは混んでたの?」
「ああ、ほかのクラスの人も混じってる上に、うちのクラスの女子はほぼ全員そろってるからな。むしろ男子がこなさすぎなんだ」
「いや……俺に言われても―――まあ、今日が終われば、あとは明日だけだ」
「その明日が心配なのだが……まあ、帰ったら翔一のご飯を食べれると思えれば―――」
「帰らないわよ」
「「は?」」
俺と玲羅で終わった後のことを話していると、突然美織が話しかけてくる。
しかし、その内容は突然話していいような内容ではなかった。
「ちょっと待て、美織どういうことだ?」
「あれ?言ってなかったかしら?」
「「聞いてない」」
「ほかのみんなは知ってるわよ?グループチャットで―――」
「「いや、なにそれ?」」
「むしろこっちが聞きたいわよ。なんで、入ってないの?」
「「いや、俺(私)には玲羅(翔一)がいれば、ほかはどうでもいいから……」」
「なんで息ピッタリなのよ……」
そう言いながら美織は、俺と玲羅をグループに追加する。
というか、いないのはメンバー一覧から見れるだろ。そう思ったが、よくよく考えたら、そんなところ俺でも見ない。
グループのメンバーになってみると、確かにノートで今日は泊りで過ごすことを学校側に許可してもらった胸が書いてあった。
まあ、そんなことを知らない俺たちは泊り道具なんざ持ってきていないのだが……
「風呂はどうすんの?」
「近くにスーパー銭湯があるでしょ?そこで。それから、晩御飯は翔一に任せたいのだけれど、かまわないかしら?」
「そういうのは先に言ってくれ……というか、まず最初に伝えろ」
「悪かったわ。まさか、あなたが入っていないなんて思わなかったわ」
「反応しない時点で気づけ」
「あなた、普段も全然反応しないじゃない」
「確かに必要ないからな。玲羅は常日頃から一緒にいるし、美織も用があれば来るし―――使うことがないんだよなあ」
そう言いながら料理の手を進める俺。
再開すると瞬く間に客が集まってきて、会話どころではなくなってきた。
「これ以上はきついわね―――食材とかも自由に買っていいわ。必要なら、そこら辺の女子を見繕って荷物持ちにさせなさい。ほら、行くわよ玲羅」
「あ……し、翔一の晩御飯楽しみにしてるぞ!」
「まずは着替えとかどうするんだー」
「ゆ、結乃に持ってきてもらう!」
「結乃に言って、必要な服とか準備してもらっとけ。俺が取りに行くから」
「あ、ありがとう!」
俺の言葉に彼女は大きく感謝を伝えて、接客に向かっていった。
俺のごはんが食べれるとわかっているからなのか、彼女の動きがなぜかテキパキとしている。
まあ、時間で決まってるから、そんな意気揚々と客をさばいていると、体力が削れるのはこっちなのだが……
「鐘梨も大丈夫そうか?」
「うん……私は卵割ったりするだけだし―――椎名さんみたいに、切ったり魅せたりで大変な役回りをしているわけでもないし」
「明らかに疲れてるだろ?適度に休んでいいぞ。鐘梨の割ってくれた卵の数なら、ある程度は持つはずだから」
「じ、じゃあ、ちょっと休憩を……」
「椎名君、オムライス10個!」
「ふぁ!?」
「あ、休めないやつだ……」
「悪い鐘梨!―――お前、休んでろ!なんとか回すから!おい、そこのヒョロ男二人!卵くらい割れんだろ!」
「え、僕たち?」
「い、いや、食材の整理を……」
「楽すんな!サボってんの見えてんだよ!来ないよりだからマシだから言ってないだけで、本当は殴りたいんだからな!」
「「ひっ!やります!やらせてください!」」
「よろしい!早くしろ!」
そうして、俺は半分無理やり鐘梨の休み時間を作った。
さすがに一般人の彼女に、無理させるわけにはいかない。確実に顔色が悪いしな。
サボりを卵割り奴隷に進化させたことで、ある程度鐘梨の時のような速度で卵液が満たされていくが、二人でこれだと、ちょっと狭くてやってられない―――鐘梨って何気にすごい?
そう思うと、なんだか彼女がいなくなったのは痛手なんじゃないかと思うが、仕方ないので野郎二人で我慢することする。
「オーダー合計8!」
「多すぎ!」
「オーダー1!」
「もっとまとめて取れ!」
「「「注文が多い!」」」
「うるせえ!」
段々とクラスの人たちもストレスが溜まっていき、たまに罵声や怒声が飛び交うようになっていくクラス。それでも食事はおいしいからと客足は途絶えない。途絶えてほしいのに!
しかし、それの弊害か―――副作用的な効果でもたらされたのかわからないが、驚異的な回転率のおかげで、余計なことに時間をさける人たちがおらず、ナンパが現れない。こんなにもJKたちがメイド服で接客しているのに、誰も声をかけていない。
いや、かけてはいるみたいだが、忙しすぎて誰も聞いてないのだ。
可愛いと言われても適当にあしらったり、まず耳に入っていなかったりと様々だが、そんなことをする輩は、早々に撤収または教室から追放という形で、どんどん空席を作る。誰かナンパ輩と話して回転率を落としてくれよ!
そんな願いもむなしく、時刻は19時。終了の時間だ。
最後の客もいなくなり、ようやく長い長い1日を終えた。
皆燃え尽きたのか、昼のときと同じくしてゾンビのようなうめき声をあげながら倒れ伏せていた。
「きっつ……」
「マジで男子許さん……」
「殺す……」
来なかった男子への殺意が半端じゃない……
そんな中、疑似レジの前に立ち、今日の売り上げを確認する。
すると、彼女は目を輝かせながらこう言った。
「えー、今日の売り上げを発表しまーす!―――なんと、今日の初日の売り上げは……40万円です!」
「「「「「!?!???!??!!!?」」」」」
美織の言葉に誰もが声を失った。
材料費を差し引いても、とんでもない黒字。裏の材料も切れているから、廃棄なしの金額。
来た人だけで山分けしても、だいたい2万もらえる計算―――
―――割に合わねえ……
あれだけやって、日給2万だと?……これが高校の文化祭ってやつなのか?
まあ、良いけどさあ……
「これらのお金は、明日分も合わせて、個人に分配されます。もちろん、来た人だけでね!」
そう言うと、教室にいたゾンビたちは寝ころびながら雄たけびを上げるのだった。
―――この場にいるのって、ほとんど女子じゃなかったっけ?