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思ってたよりもキツイ文化祭

 「お兄ちゃーん!」


 俺が料理をしていると、目の前の席に妹である結乃が座ってきた。

 なんというめぐり合わせ……


 「来たのか」

 「そりゃくるよ!にしても、お兄ちゃんがこんな面白いことしてるなんて」

 「俺はもう疲れた。回転はもう少し緩やかかと思ってたら、じゃんじゃか客が入ってくるもんだからキツイったらありゃしない」

 「しょうがないよ。あんなことしてたら、学生レベルの客なんかバカすか来るに決まってるじゃん」

 「そういうもんか?値段も学生レベルにしては高めのはずなんだけどなあ……」


 現在、客が集中しすぎているので、食事メニューはオムライス一本に絞り、ショーもなくして作る姿を垂れ流しにする形に変えた。


 そうすると、客が居座る時間も減って―――というか、こちらから席に座る時間は30分までと決めてしまった。

 そのおかげで、異常なほどに回転率が上がり、面白いものを見れて提供スピードも早いと校内で話題になり、今回の文化祭で唯一と言ってもいいほどの大行列ができている。


 行列ではない大行列だ。聞くところによると、最後尾は2階まで続いているらしい。―――うちのクラスって4階だぞ?


 普通に計算して、一番後ろは2時間近く並ばないといけない。

 そんなことになるから、行列のさなかにはトラブルが絶えない。抜いて抜いてない論争や、客同士の小競り合いなど。それのせいで、うちのクラスの女子は全然休憩が取れず、お疲れ状態だ。


 男子?ナンパとかやってて、シフトに戻ってこない。


 こういう時、責任感が強かったりして戻ってくるのがイベントを大事にしている女子と真面目男子だけ。その数少ない真面目男子も、朝からシフトが入っていたので、裏でダウンしてる。

 ちなみに、その男子たちと同じように、数人の女子も裏でゾンビみたいなうめき声をあげてる。


 「お兄ちゃんは大丈夫なの?結構キツそうだけど」

 「問題ない。焼くとか大きめの作業ばっかやってるけど、卵液とかをボウルに入れたりする細かい作業は、もう一人がやってくれてるから負担はそこまでって感じ。ただ、そのもう一人がそろそろ限界を迎えそう」

 「卵割ってたら腱鞘炎になったとか笑えるね」

 「笑えねえよ―――はいよ、さっさと食って帰れ」


 そう言って、俺は結乃のいるテーブルにオムライスを3つ持っていった―――そう、結乃の両隣には友人と思われる女子が2人いるのだ。


 「ところで、二人は結乃の友達かな?」

 「は、はい!お、お兄さん、カッコいいですね!」

 「ははっ、ありがと」

 「あ、あの……よかったら遊びに―――」

 「ごめんね。俺、彼女いるんだ。本当に悪いね」

 「そうですか……じ、じゃあ結乃と一緒に家に行ってもいいですか?」

 「別にかまわないけど、まあ結乃と仲良くしてくれるなら基本好きにしていいよ。そいつがいいって言うなら、そういうことだから―――今後とも結乃のことよろしく」

 「「は、はい!」」


 そう元気よく返事をする二人。

 結乃と俺がしゃべっているときに入ってこないから、もしかしたら初見で嫌われたのかと思ったが、そんなことはないらしい。


 あの二人が家に来たら、盛大にもてなしてやろう。妹の友人だしな。


 「椎名君!もう限界です!」

 「じゃあ、最後尾に午前の部ここまでってやっとけ!休むぞ!」

 「おーけー!最後尾のプラカードを書き換えてくる!」


 俺が言うと、メイド服姿のままどこかに消えていくメイド女子。その表情は本当に嬉々としていた。

 よし、こうなった以上はあと数時間の辛抱だ。


 「お兄さん、大丈夫?」

 「お兄ちゃんは大丈夫だよ。どちらかと言えば、周りが心配かも―――やっぱ、お兄ちゃんの料理おいしいな」

 「ほんとだ。こんな料理が毎日食べられるのか……羨ましいな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから3時間ぐらいたっただろうか。ようやく客をさばき切り、教室内の客がいなくなった。


 シフトに入っていた者たちは、客がいなくなったとみるや否やバタバタとその場に倒れだした。

 かくいう俺も―――そして玲羅もその場の床にあおむけで倒れ伏せた。


 「キッツ……」

 「男子……絶対に許さない……」

 「無視しよう……今日シフトに来てくれた人たち以外……」

 「私、あいつと別れる……」


 なんだか聞かなくてもよいことが耳に入ってくる。

 しかしまあ、今日のシフトに戻ってこなかったクソどもには一発殴ってやりたいが、俺がそんなことしなくても女子たちが相当怖い仕返しをしそうなので、俺はあえてしないでおこう。追い打ちをかける必要まではない。


 そんな中、美織が立ち上がってしゃべり始める。


 「今日の再開はどうする?私としては、今13時だから―――16時開始で、終了の19時まで頑張るのがいいのだけれど……」


 美織の宣告は地獄の切符そのもの。使えない人材が数人存在する中、さすがに3時間フルはきつすぎる。

 それがわかっているクラスのみんなは一様に呻きながら反論しようとする。


 「まあさっきのできついのはわかったから、再開は17時で2時間だけ頑張るわよ」

 「おお……神様……美織様……」


 そんあ救いの美織の言葉に、クラスにいる人たちは崇め奉った。

 まじで助かるわ。


 それから数分くらいは誰も動けず死屍累々とした雰囲気が教室に流れ続けていたが、段々と体力が戻ってきて、空腹感もあるのか、少しずつ立ち上がってほかのクラスの出し物を見に行く人たちが出てきた。


 「翔一……私たちも行こうか」

 「そうだな。腹減ったし、どっか行くか」


 お互いに言葉を交わして、俺と玲羅は着替えて、手を繋ぎながら中を散策して回る。


 その中で―――


 「は?別れるってなんだよ!」

 「そのまんまだよ。あんたとはもう無理。私、友達と回るから」

 「おい!ふざけんな!」


 先ほどの宣言通りに、クラス内で男子と付き合っていた女子が別れを切り出してそのまま去っていこうとする。―――ご愁傷さまです。


 これに関しては擁護のしようがない。なんせ、自分が仕事放棄したのが原因だからだ。むしろ、笑いがこみ上げてくる。


 「翔一、笑っちゃだめだぞ」

 「いや、自業自得だなって」

 「まあ、それはそうだが……哀れなものだな。自分が約束を守らなかったくせに、自分への約束は守ってくれてると思っているあたり」

 「あ、椎名君じゃん!」


 玲羅とたわいのない会話をしていると、先ほどの女子を混ぜた集団がこちらに来た。


 「今日はありがとね。たぶん、一番つらかったのって、椎名君だと思うから」

 「そんなことない。体力的なところで見たら、たぶん鐘梨のほうがつらかったと思うよ。まあ、俺は大丈夫だから、ほかの頑張った人たちに優しくしてやってくれ」

 「うん!言われなくてもそうするつもり。やっぱ、約束守れる人っていいよねー」


 まあ、シフトもある意味口約束だからな。それを守れるかは本人次第だ。

 だとしても、今日は男子がこなさすぎだ。


 「……」

 「玲羅?」


 そして玲羅は、女子たちに囲まれた瞬間、強く俺の腕にしがみつく。

 可愛い仕草なのだけれど、見せつけるようにして周りをにらむのはやめた方がいいぞ……


 「大丈夫だよ天羽さん。もう……おなかいっぱいだから……」

 「は?翔一はあげないぞ」

 「いや、もう……きついです……」

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