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文化祭開始

 ドンドンドン!


 けたましい空砲の音で、我らが希静高校の文化祭の開始が知らされる。―――空砲?


 そして、俺たちのクラスはその合図とともに円陣を組む。

 掛け声は、このクラスの女子学級委員長である小金井こがねいだ。


 「じゃあ、みんな―――文化祭、成功させるぞ!」

 「「「おー!」」」

 「―――解散!」


 円陣はするだけして解散するクラス―――何のためのものだったのだろうか?どちらかと言えば、クラスが頑張るというよりも、俺と鐘梨が死ぬ気で頑張るだけなのだが……

 部活のほうを頑張るのだろうか?


 「き、今日はよろしくね―――し、椎名さん……」

 「んあ?―――よろしくな。あと、呼び捨てでいいよ」

 「そ、そんな……し、しい―――」

 「あー、やっぱ無理しなくていい。慣れたらでいいよ」

 「う、うん……」


 そう言いながら解散後は、俺と鐘梨でステージの裏にある材料の量を見ている。

 足りなくなりそうだったら、美織に爆速で買ってきてもらう。


 唯一の懸念点は、彼女がまともに買い物ができるのかという点だ。

 確実に余計なものを買ってくるはずだ。


 ちなみに、教室のスペースの使い方としては、後ろの3分の1を客席かつ食事席に。真ん中3分の1を調理場に。そして、あまったスペース黒板近くは、食材などが置いてある。生ものは極力おかずに、ギリギリで美織に買ってもらうか持ってきてもらうかするつもりだ。―――つまり、出払っていることが多い美織は、あんな際どいメイド服を着る意味がないのだ。本当になんのために着たのか……


 しかし、こんな教室の使い方をするものだから、回転率は最悪だ。正直売り上げは見込めないだろう。


 現に、ちらほら人が来ているが、クラスの人の知り合い程度だろう。

 まじで女子しかいねえもん。他クラスの男子?みんな出会い目当ての輩ばっかだから、出し物そっちのけでナンパしてるよ。


 そんなことを考えていると、ついにメイドのほうから号令が入った。


 「椎名―、4人2セット、2人1セット―――10人で!」

 「りょうかーい!―――鐘梨、やるぞ」

 「う、うん……」


 あとは鐘梨とのアイコンタクトだけで前に出て、調理を始める。


 朝の一発目のメニューは、軽くないオムライスだ。

 激烈なカロリーで、あなたの胃をイチコロだ☆―――我ながらキモイ……


 馬鹿なことを考えながら、俺はいくつかの野菜を斬り伏せていく。


 空中に打ち上げられて、客たちの注目がそこに言った瞬間に、目にもとまらぬ速さで刃を入れていき細かくみじん切りにする。

 それを見た人たちは、おもわず拍手をした。


 「「「おー」」」

 「ここで驚いてはならないさ!」


 パチン!


 俺がそう言って指を鳴らすと、俺の前には10台ものガスコンロが置かれる。

 そして、俺の後方にはメイド服を着た緊急用消火部隊が待機している。―――なぜメイド服でやっているのかは知らない。どうせ美織が、やるなら徹底的にとか言ったんだろう。


 コンロが出されて―――ちょっと待った。いくつ用意してんの?


 そう思う俺だが、作業を中断するわけにもいかずどんどんと工程を進めていく。

 ちなみに鐘梨は、俺の手の回らない作業をテキパキとやってくれている。


 一気に片手で5本のフライパンを持ったりせず、交互に持ち替えながら高速で料理する様にまたも歓声が上がり始める。

 俺も、それのおかげで少しずつ気持ちよくなってきて、気分が上がってきた。


 ライスを作り終えた俺は、それを成型してさらに乗せた後に鐘梨が用意してくれた卵液をバターを引いたフライパンの上に各1人数分の量を入れていく。


 少しだけ入れたときの時間差を使ってフライパンを動かしていき、火を通していく。


 あまりの手際に、もう言葉すら生まれなくなってしまっている。

 しかしまあ、よく来たものだ。こんなよくもわからない出し物に―――


 そう考えながら、俺は完成したオムライスを前に出す。

 その瞬間、誰も言葉を発さずに拍手のみをした―――そういうのは食べてからにしないか?


 客たちは、俺が作った料理をメイドの格好をした女子たちに運んでもらい、自身の手で口に運んだ。


 どうやら口にあったらしく口々においしいおいしいと言いあっている。


 中には写真に撮ってSNSに―――あ、やめろ!確実に忙しくなるから!

 だが、俺が撮影を規制することはできない。今回の文化祭は原則フリーだし、なにより盛り上げるために必要なことだとうちの生徒会からお達しが来ている。これ以上奴らに借りを作りたくない。


 今後のことを考えながら、嫌な顔していると俺は先ほどまで食事をしていた人たちに囲まれた。


 「連絡先教えてください!」

 「……!?」

 「あ、あと―――私に料理を教えて!」

 「あ、抜け駆け!」


 そうやって俺のスマホの取り合いになるいかけて困っていると、俺に救いの手がやってきた。


 誰でもない玲羅だ。


 彼女は奪い合いになって女生徒たちに半ば奪われている状態のスマホを取り返してくれた。


 「はい、こいつは私の彼氏だ」

 「ち、ちょっと別にいいじゃない!彼の連絡先くらいもらっても!」

 「別にかまわないが、基本的に私とこいつは日ごろからイチャイチャしているだけだ。連絡も返す保証はないぞ?」

 「な、なにそれ!」

 「玲羅、それくらいに……」

 「翔一に近づくというのなら、私が全力で排除する!ふしゅぅ……」

 「獣かよ……」


 言いながら近づいてきた人たちを威嚇する彼女。

 そういうわけだからと、俺が後で優しく断ったのは誰にも知られるつもりはない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「ここが結乃のお兄さんの高校か……」

 「そうだよ。ここがお兄ちゃんの―――」

 「めちゃくちゃ偏差値高いとこじゃん!希静って、ここらじゃ有名な進学校だよ?」

 「そうなの?お兄ちゃん、ほとんど人に勉強教えるだけで、自分の勉強せずに合格してたよ?」

 「結乃のお兄ちゃんって、何者?いや、結乃も毎回学年一位だし、遺伝なのか?」


 会話をしながら高校の正門から足を踏み入れる3人。

 ごった返す人ごみの中で、目的の場所を探す。


 「お兄さんのクラスってどこ?」

 「えーっと、たしか2組って言ってたかな?でも、もしかしたら違う場所でやってるかも……」

 「じゃあ、お兄さんに聞いてみれば?」

 「どうせメールは返ってこない。お兄ちゃん、最近スマホあんまり見ないし」

 「へー、じゃあとりあえずクラスのほう行ってみよう」


 そう言って3人は教室を目指して歩きだす。

 そこで目にしたのは、異様に人があふれかえった結乃の兄の教室だった。

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