文化祭直前
昨日、色々とあったが、今日の朝は気まずくなることなく迎えることができた。
起き抜けに玲羅がお尻を押さえながら顔を真っ赤にしていたが、深くは気にしないようにする。
「おはよう玲羅」
「ああ……もう、朝ごはんか?」
「ああ、今日はちょっと早めに出るぞ。玲羅もメイド服に着替えなきゃいけないんだし」
「そう、だった……メイド服―――着たくないなあ」
「そう言わずにさ。高校生としての活動が危うくなりつつあるんだから、一つ一つを全力で楽しもうよ」
「……うむ、そうだな。翔一の言う通りだ。恥ずかしいが、やり切って見せる!そうだ―――」
「今日の文化祭、短い時間だけど一緒に回ろう」
「むぅ……先に言われた」
俺が彼女より先んじて誘うと、彼女は少しふくれながら寝ぐせでぼさぼさになった頭をかいた。
そして、考える間もないような短い時間で彼女は答えを出した。
「まあ、私もそのつもりだからな。色々と見て回ろう」
「ふふ、日に日に玲羅が女になっていく……」
「なんだ、その変態みたいな呟き方は」
そうして、俺たちは二人しかいない空間で笑いあいながらリビングに向かっていく。
―――あいにく結乃はいない。
おかげで邪魔がないままにイチャイチャできる。
玲羅が起きた後は、彼女を朝風呂に入らせて髪を梳かす。
朝早いから、少しセットに時間をかけてみる。
「なんか、今日は長いな……」
「あ、わかる?今日は早いから、少しくらいならと思ったんだけど」
「かまわない。やってもらってるのはこっちだし、髪を梳かすのは自分でやるより翔一のほうがうまいし気持ちがいい」
「そう言ってくれるのなら嬉しいよ」
そんなこんなで過ごしていると、うちのインターホンが鳴る。
それに対応するように、俺と玲羅は荷物を持ち、玄関のドアを開けた。
「おはよう美織」
「ふわ……おはよう翔一……」
「眠そうだな……」
「そりゃ眠いわよ。いつもならまだ寝てるのよ」
「いつ家を出てるんだ……」
「家から学校まで本気出せば、10秒を切れるのよ」
「化け物じゃないか」
「翔一は、たぶんだけど5秒を切れるわ」
「すごいじゃないか!」
「なにこの扱いの差……」
と、言うわけで、俺と玲羅―――そして、愉快な仲間で並びながら学校に向かっていく。
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学校に着くと、すぐに俺たち3人は更衣室に連れていかれて着替えるように指示された。
渡された俺の衣装は、なんというか寿司屋の大将みたいな感じだった。―――へい、らっしゃい!とかでも言った方がいいのだろうか?
俺が着替えてから、かなりの時間が経過して、ようやく女子二名が教室に戻ってくる。
「ど、どうだ?」
「ほら、シャキッとしなさい!似合ってるから大丈夫よ!」
そう言いながら俺に質問しながら教室に入っていく二人。ポンコツ美人の玲羅と残念美人の美織―――二人とも普段の行いはあれだが、ちゃんと美人ゆえにクラスの目を引いてしまう。
「だ、黙ってると、不安になるんだが……」
「あ、ああ……似合ってるよ」
「そう、か?なぜか、私だけメイド服のスカートがロングで……」
そう言われて、周りのメイド服を着ている女子を見てみると、際どいとか全然大丈夫とかの違いはあるが、明らかに玲羅のメイド服は浮いていた。
確かに、なぜ彼女のだけ長いんだ?―――俺はそっちの方が好きだからいいんだけど……
「そういや、衣装づくりの担当って……」
「あ、玲羅の衣装は私が作ったのよ。ほかは知らない」
「美織、お前か―――というか、その格好で激しい動きはしないほうがいいぞ。もろ見える」
「大丈夫よ。スパッツ履いてるもの!」
そう言いながら、美織はスカートをひらひらして中が見えるか見えないかくらいをちらちらさせて男子をもてあそんでいた。
やっぱビッチなんじゃねえかな。俺が知らないだけで。
「そ、そんなことより、なんで私のだけスカートが長いんだ?短いならまだわかるが……」
「翔一はロングのほうが好きなのよ」
「へ?」
「翔一は、露骨なエロをあんまり好まないの。だから、脱がす回数が大幅に増える着衣の多い恰好が好きなのよ」
「ちげえぞ。なんなら前半と後半で言ってることかみ合ってねえかんな?」
「うるさい!―――とにかく、今のあなたの格好は翔一の好みの格好のドンピシャよ。よかったわね」
「美織が翔一の好みを把握している方が気になるが―――まあ、ありがとう」
そう言うと、彼女は突然俺に抱き着いてきた。
「ふぁ!?」
「ぎゅー」
「ど、え、は!?」
「ふふ、挙動不審な翔一も珍しいな」
俺に抱き着いてきた玲羅は、言いながら俺の胸におでこをトントンと何度か押しつけ叩くようにしてくる。
なにもできずに、ただ困惑していると彼女は満足したように笑顔を浮かべて俺の体を離れる。
「これから、かっこいい翔一の姿がさらされるからな。翔一は私のものと主張しておかないとな」
「―――顔真っ赤にすんなら、やんなよ……」
「そういう翔一だって、こっち直視できないうえに耳まで真っ赤じゃないか」
「バカ、そういうのは俺がやるんだよ……」
「じゃあ、やってくれ」
俺の言葉に、じゃあしてくれと言う玲羅。その彼女は、言った瞬間自身の腕を広げて俺のことを待った。
ここでこたえなければ、彼女の機嫌を損なうのは目に見えている。ゆえに、ここは抱きしめるしかない。
そう考え、俺はクラスのみんなが驚く中で彼女を抱きしめた。―――やばい。すっげハズい。
「んっ……」
「えーっと……」
「早く……言ってくれ」
「き、今日の玲羅はすごくかわいいから……玲羅は俺のものって主張しておかないとな」
「……」
俺の言葉に、彼女は耳まで真っ赤にして、顔を俺の胸にうずめた。
「おい、ずるいぞ。身長の関係上、俺は玲羅の胸に顔をうずめられないんだ」
「えっち……」
「そういうことじゃない……はあ、まあいいか」
いろいろと辱めを受け、逆にクラスの連中を赤くして―――これから始まる文化祭、大丈夫なのだろうか?
いろいろと心配になる俺だった。
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「そういえば、お兄さんの文化祭だっけ?」
「そうなの。だから、今日はみんなで行かない?」
「いこいこ―――でも、結乃って美人だからなあ……お兄さんもイケメンなんだろうなあ……」
そう言いながら、起き抜けに家でダラダラと過ごす結乃とほか2名。
昨日夜からメンバーの一人の家に泊まり、結乃の兄の文化祭に行くつもりなのだ。
美織から面白いものが見れると言われて、結乃はひっそり楽しみにしている。
「ダメだよ。お兄ちゃん、彼女いるから」
「えー、フリーだったら狙ってたのに……結乃、お姉ちゃんって言ってくれない?」
「嫌だよ。これ以上義姉さん増やしたくないよ」
「えぇ……お兄さんってもしかして結構ヤリ手?」
「違うよ。一人は彼女、もう一人は幼馴染の年上の人。そっちもすごい美人」
「そっちもってことは、結乃も認める美人が近くに二人……羨ましいようないづらいような……」
そんな女子らしい会話を広げながら、結乃たちは遊びに行く準備をすすめるのだった。