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文化祭前日

 それから着々と準備が進んでいき、ついに文化祭前日を迎えることになった。

 ようやく、鐘梨の動きも板についてきて、ショーの流れの中でも後れを出すようなことがなくなった。


 クラスの目標も学校一の出し物を出したクラスに送られる校長賞をだ。

 なんせ、入賞した一クラスには商品券が個人ごとに渡される。金額は1000円ほどではあるが、それでも金を得ることができると言うのは大きい。


 それに加えて、売上金を使って打ち上げに行くのも一興だ。


 みんながいい店で打ち上げできるように、校長賞を取ってご褒美の足しにするためにと前日と言うのも相まってめちゃくちゃに盛り上がっている。

 まあ、するのは俺と鐘梨とホール担当だけで、ほかの生徒は呼び込みと言う名のサボりだぞ?盛り上がる要素があるのか、俺には疑問しかない。


 「楽しみだな、翔一」

 「そうだな。玲羅のメイド服姿―――」

 「ほ、ほかにないのか!」

 「……ないなぁ。この学校の先輩はおろか同級生ですら知ってる奴いねえし。そうなると、玲羅の可愛い姿を拝む以外やることないなあ」

 「な、なら……私と一緒に文化祭を回らないか?」

 「なんで質問してくるんだ?一緒に回ろうって言えば、俺はついてくぞ」

 「そ、それは……美織と一緒に行くかもしれないだろ!」

 「美織?ないない―――そもそも俺が玲羅以上に優先することなんてねえよ」


 そう言うと、俺は玲羅の両肩に手を置く。

 ―――ここで頭を撫でる奴は二流だ。俺の持論だ。


 そのまま彼女を引き寄せることも話すこともない力でつかみながら、俺は言った。


 「玲羅はもっと自信持っていい。自分の綺麗さとか天才ぶりとか。俺から愛されてることも」

 「さ、最初の二つはピンとこないが、翔一に愛されてることはちゃんとわかってる。だが、やっぱり不安になるんだ。これはもうどうしようもないんだ」


 そう言うと、彼女は壁際にペタンと座り込む。

 俺もクラスのみんなが会話に夢中になって気づいていないのをいいことに、肩が触れ合うほどの距離に座る。


 「そんなに俺の愛が足りない?」

 「違う……ただ、私の性格なんだ。心が満たされても、それにならなくなってしまうようなことが起きたら―――とか、ありもしない不幸を想像してしまうんだ」

 「あー、たまにそういう人はいるね」

 「だから、翔一が悪いとかじゃない。どちらかと言えば、そんな必要のない想像をする私が悪いんだ」

 「……俺はそうだよとも言えない微妙なことだけど、そんな不安になるならもっと甘えてきな。ドロドロにしてあげるから」

 「それは―――安心していいのか?」


 そう言って彼女は、俺の肩に頭を預けてきた。

 口ではいろいろと言っているが、結局甘えてくる玲羅はすごくかわいいものだ。


 そんな彼女の頬をぷにぷにいじっていると、俺のアシスタント役の鐘梨が話しかけてきた。


 「あ、あの……二人の空気を壊したくないんだけど―――椎名さん、ちょっと」

 「ん?玲羅、ちょっと行ってくるわ」

 「ああ。いってらっしゃい」


 彼女の見送りを受けて、俺は鐘梨のもとに行く。

 鐘梨は、少し教室から離れて、ほかのクラスメイトに聞こえないように言い始める。


 それは俺にとっても少し想定外の事態でもあった。


 「ああ!?当日はアシスタントできないかもしれない!?」

 「は、はい……」

 「はぁ……理由聞いてもいいか?」

 「そ、その……なし崩し的に私になって言えなくなっちゃったんだけど……私、あんまり人の目が多いところに出ていけないんです……」

 「あー、わかった」

 「ですよね。こんなタイミングで言われても―――って、え?」

 「そういうことなら仕方ない。ここで強要してもいいことないだろ?じゃあ、あんまり人がいないところで材料を袋から出したり、買い出し任せていいか?」

 「い、いいの?」


 彼女の相談に、俺は快く承諾したが、鐘梨的には本当にそれで構わないのか不安のようだ。

 まあ、もう少し早く言ってほしかったが、クラスの雰囲気的に言いづらかったのだろう。それなら、俺がやるのはブチギれて叫ぶことじゃない。


 受け入れて、彼女が文化祭に気安くするのだ。クラスメイトへの説明も俺がする。


 「良いもクソもない。できないのなら仕方がない。ただ、やりたくなったら途中でもいいから入ってこい。それまでは、俺が一人で回すから」

 「あ、ありがとう……」

 「ほかのやつはどうか知らないけど、俺は人が困ってることをないがしろにするような奴じゃないからな。これからは困ったらすぐに相談しろ。たいていのことは解決してやるからな」

 「うん……なんとなくだけど、天羽さんが椎名さんを好きになった理由、わかった気がする……」


 最後はなに言ったか聞こえなかったが、安心しきったような彼女を見て、俺は教室に戻った。―――もちろん鐘梨を連れて。

 そして、俺は今回の企画の首謀者である美織を呼ぶ。


 「なにかしら?」

 「いやな、鐘梨がな。明日のアシスタント出れないって」

 「あ、あの……ダメなら出ますから……」

 「いいわよ」

 「へ?」

 「翔一がそう言ってるってことは、あなたにもちゃんとした理由があって、それを伝えたんでしょう?翔一はそういう子には甘いからね」

 「甘い言うな」

 「それに、私はもとから翔一一人でもなんとかなると思ってたから、そこまで計画に支障はないわ。ただ、こいつの負担を考えたら、アシスタントがいたほうがいいと思っただけよ」

 「そ、それって……」

 「いらないわけじゃないわ。翔一の負担を軽くする重要な役割だったのよ。ただ、それができないならほかのできることを……」

 「美織、鐘梨には裏で材料の出し入れとかさせたほうがいいと思う」

 「そうね。それがいいわ。鐘梨さんもそれでいいかしら?」


 俺たちがそう話を進めると、鐘梨は非常に驚いた顔をして固まっていた。

 まるで、俺たちが優しいことを以外かと思っている。


 「どうした?」

 「二人とも、普段とは全然空気が違う……」

 「「……?」」

 「普段は誰にも自分を近づかせたくないみたいなオーラを出してるから」


 そう鐘梨に指摘されると、そんな気もしてくる。

 まあ否定できることはないわな。


 「当り前よ!私みたいな天才が下民と触れ合うなんてもってのほかよ!」

 「馬鹿かお前は」

 「いてっ」


 馬鹿なことを言う美織を、俺は弱めに小突いてから言う。


 「別にクラスが嫌いとかそういうのじゃない。興味がないだけだし、そのあとに変な話も名があれたりして、仲良くする必要が本当になかっただけだ。俺も美織も、友人ができるのならそれがいい」

 「じ、じゃあ……!私と―――」

 「なに言ってんだ?悩みを聞いた時点で、俺たちは『友達』ってやつだろ?」

 「え……?―――う、うん!」

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