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もうすぐ文化祭

 コロコロコロ


 「「「おー」」」


 俺が空中で斬った野菜が、まな板の上に山盛りになって落ちると、それを見ていた数人のクラスメイトが感心の声をあげた。


 うちのクラスの出し物は、回転率を極限まで落とし、芸術点全振りにしたという、俺の料理ショーだ。


 詳しい内容として、開始までの時間にそろった人数分の料理をその場で実演して作り、提供するという形だ。

 ―――つまり、人が来れば忙しいが、来なかったら暇なだけの簡単なお仕事。


 と、言いたいが、そういうわけにもいかない。


 どっかの馬鹿が面白い見せ物があると言いまわっている奴がいるみたいなのだ。

 たしか、苗字に条華院ってついて、名前が美織ってやつだった。


 この宣伝のせいで確実に人が来るのは見込めるし、最悪そこから口コミが広がろうものなら終わりだ。


 さすがの俺にも限界があるから、勘弁してほしいのだが……


 ちなみに、俺の彼女の玲羅は料理の配膳係に任命されている。

 ちゃんとメイド服を着てするらしい。俺はそっちを眺めていたいのだが、それは聞き入れてもらえないだろう。


 そんなことを考えながら、げんなりしているとある男子生徒に話しかけられた。


 「大丈夫ですか?」

 「そう見えるか?正直、疲れにつかれてるよ」

 「まあ、私がどうこうできる問題ではないですがね」

 「ちっ、お前が一言発せば女子たちは喜んで企画を変えるだろうに……」

 「嫌ですよ、そんなの。こんな面白いネタ―――」

 「絶対しばく。女子のいないところで見えないところにあざ作ってやる」

 「おー怖い怖い―――そんなことより、みんなが呼んでますよ。いいですねえ、クラスで恐れられてた人が、一気に中心に行くの」

 「こっちとしては、過ごしやすくなって助かるんだが、その分面倒はついて回るだろ」

 「そう!それをどうするのか、興味があります!」

 「はあ、興奮しすぎて日本語おかしくなったんじゃねえか?」


 話しかけてきた男子生徒―――明津を軽くあしらいながら、もう一度クラスのもとに向かって座る俺。

 これは余談かもしれないが、俺が厨房担当に確保しようとしていた女生徒は、現在俺の補佐をやってくれている。


 見世物重視の俺の工程と地味作業の彼女で料理を作る。数が多いせいで、彼女の息が切れることがあるため、代わりを用意しておいてほしい。

 いらないとかじゃなくて、彼女の体が心配だ。


 「もう少しできそう?」

 「う、うん……もう少し休んだらできるかな」

 「あんま無理すんなよ……なんだったら、俺一人でやるからさ」

 「だ、大丈夫だよ……ここでやめたら、なんていわれるか……」

 「ああ……」


 哀れだ。

 非常に見ていて痛々しい。つらいのに、きついのに―――周りの目を気にしてやるしか選択肢がない。

 同情はする。だが、それ以上のことは言わない。彼女もなんだかんだ、料理中は楽しそうだ。


 「ほら、翔一!テキパキやりなさい!」

 「うるせえ!おめえがわけわかんねえ企画通したからこうなってんだろ!」

 「なによ。あなたの変わりはあなたしかいないのよ?頑張りなさい!」

 「なんだ、その新手のブラック仕様は……」


 ここは『お前のかわりなんぞいくらでもいる!』だろうが―――まあ、言ったらシばいてるけど。


 ここ最近は、文化祭の準備で大忙し―――と、言いたいが俺たち以外はメイド服や執事服でキャッキャウフフしてるだけだ。

 ほかのクラスはお化け屋敷とか装飾で大変そうに動いていて、ホームセンターとかと往復していたり青春しているなあと言う感じ。


 たいしてうちのクラスは―――


 「すっごーい!条華院さん、こんなの持ってるの?」

 「ふふん、私に言わせればこんなものすぐに手に入るわ!」

 「ねえねえ、似合う?」

 「普通に似合ってるわよ。これで、接客すれば人は集まるわね」


 美織が謎の金持ちお嬢様ムーヴをかましていやがる。

 ヤバい―――あいつの顔見てると無性に殴りたくなってきた。純粋なサディズム?違う、単純な怒りだ。


 「はあ……」

 「椎名さんもいろいろ気苦労多そうだね」

 「わかるか?」

 「うん。いつも条華院さんに振り回されてる感じ」

 「そうなんだよなあ……まあ、あいつには正直かなわないと思うところがあるしなあ」


 そんな会話をしながらボーっとしていると、今度はメイド服を着た玲羅がこちらに話しかけてきた。


 「翔一、この衣装似合うか?」

 「うん似合う!すっごい可愛い!」

 「―――くっ……わかっていたとはいえ、面と向かって言われるとまだ恥ずかしい」

 「恥ずかしがんのかよ。クラスのイケメンに言い寄られてたくせに」

 「む……好きな人に言われるのは違うんだ」


 つーんと向こうを向いてしまう玲羅。

 だが、片目でちらちらとこちらを疑うような様子を見ているため―――


 「ツンデレがやり切れてないぞ」

 「い、言うな!思ってもそういうことを言うな!」

 「仲良しだね……」

 「くっ……鐘梨かねなし、あまりからかわないでくれ……」

 「え、椎名さん、私からかったかな?」

 「うん、玲羅はちょっとシャイなんだ」

 「翔一!変なことを言うな!」


 そう言うと、玲羅も俺の横に座ってくる。

 今日はスカートの丈が少し短いからか、裾を押さえたうえで女の子座りしている。これはこれでいいな


 「どこを見てるんだ?」

 「玲羅を見てる……」

 「明らかに視線が下に行ってたんだが?」

 「気のせいじゃない?にしても、スカート丈短くない?」

 「行ってるじゃないか!ああ、短いよ!普段はこんな短い丈のスカートはいたことないさ!」

 「そうだよな。ロングのほうをよく身に着けてるよな」

 「なんで、翔一は見てるくせにそういうことを言ってくれないんだ……」

 「だって、全部可愛いんだもの。言わずともいいでしょ、可愛いっていつも言ってるし」

 「そうだけど……」

 「あの、二人ともあんまりここでイチャつかれても……」

 「イチャ……?なんのことだ?」

 「えぇ……」


 俺たちのやり取りに対して、鐘梨が苦言を呈してくるが、玲羅は意味が分からないという感じだった。

 彼女も感覚がバグったようだ。


 「鐘梨、俺たちにとってこれはイチャイチャに入らないんだ……」

 「翔一、なにを当たり前のことを言ってるんだ?イチャつくって、こうべったりお互いの体をくっつけて甘えたりすることじゃないのか?」

 「二人とも、いつもどんな付き合い方してるの……?」

 「そ、それはだな―――」


 それからは玲羅が詰まりながらも俺とどんなふうに付き合っているか、どんな言葉を俺が言っているのか―――それを事細かに、聞こえないような小声で言ってしまい、鐘梨の俺に向ける目がなにか変なものに変わってしまったのだった。


 すぅ……なにこの羞恥プレイ

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