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なんでも料理ショー

 ―――♪


 「さて、始まりました!椎名翔一のお料理教室!はい、拍手!」


 パチパチパチ


 家庭科室に響くまばらな拍手。美織に言われてするしかないと思ってしまう、気の弱い生徒しかしてくれていない。


 「よし!じゃあ、まずはその3分〇ッキングの音楽止めようか。気が散ってなんもできねえ」

 「ええ……料理と言ったらこれでしょ!」

 「知るか!さっさと消せ!」


 俺は軽く美織の頭を小突いてラジカセで流していた音楽を止めさせた。

 そのやり取りを見ていたクラスメイト達は困惑しきっている。


 今回の料理教室は、一応有志のもの。

 文化祭に限らず、習いたい者たちが来ている。もちろん、クラスメイト限定で。


 うちの学校には調理部が存在するらしいが、まあ奴らには、文化祭期間中には人権がなくなるということだ。


 「まあ、ベタだけど料理とかは火とか刃物を扱うから―――」

 「ギャハハハ!」

 「そんでさあ」

 「うっは!?まじ!?」


 ストン


 「あんまりふざけてると、刃物が滑って飛んでっちゃうからねえ」

 「「「ひっ!?」」」


 俺に料理を習いに来ているとは会思えないほどの騒ぎようの男たちを、俺はけん制しながらいろいろと始める。


 「えー、まずは店の料理の第一候補のオムライスづくりに入りたいと思いまーす。どっかの馬鹿が、ふわトロのとかほざいたんで一気に難易度上がってるから気を付けてねー」

 「誰よ!そんな馬鹿なこと言ったの!」

 「おめえだよ!」

 「痛い!?」


 今度は強めに美織の頭をはたいた。

 そう、こいつがすべての元凶。教えることになったのも、料理の難易度が上がったのも、全部こいつの―――条華院美織ってやつのせいなんだ。


 いろいろとこんとじみたことはあったが、一通りの説明が終わった後、俺が実演でやることになった。


 「まあ、最初は具材でも斬ろうか」

 「翔一?『キル』のニュアンスがおかしいような……」

 「まず、玉ねぎをみじん斬りに―――」


 そう言いながら、俺はまな板を軽く包丁の背で叩いて玉ねぎを打ち上げると、何本か刃を入れて空中で木っ端みじんにした。

 しかし、それを見たみんなは唖然としていた。


 「ん?早くやりなよ。次の工程に移れないから」

 「し、翔一、普通の人はそんなことできない……」

 「ああ、いや真似しなくていいよ」

 「そういう解決案もどうかと……」


 俺の包丁さばきに玲羅が苦言を呈してくるが、クラスの人たちは驚きながらも玉ねぎを切り始める。

 段々と作業が進むにつれて、鼻をすする音が響き始めたが気にしない。


 「あの斬り方が一番目にしみないんだよ」

 「だとしても、あんな芸当を簡単に見せていいのか?」

 「いいんじゃない?どうせこの後のみじん斬りは全部あれだし」

 「くっ、私の恋人の料理センスがぶっ飛びすぎてる……」


 疲れたように玲羅は言うが、彼女もかなり手際よくみじん切りを終わらせていた。

 まあ、彼女は普段はポンコツだが、有能キャラだしな。


 ふと、先ほどの男子のほうを見ると、また遊んでいた。


 今度は俺のやった斬り方をやろうとしてげらげら笑っている。

 それを見た俺は、躊躇なく包丁を投げナイフの要領で投げて、空中に浮いた玉ねぎを刺し貫いてまな板に刺した。


 「包丁で遊ぶな」

 「「「は、はい……」」」


 その後もいろいろな具材を切り、ついに卵を焼く過程まで到達した。

 もう、時間をかけすぎて早めに終わった人たちのチキンライスが冷めきっているが、仕方がない。


 どうせみんな、ここで引っかかるしな。


 「―――で、もう言わなくてもわかると思うけど、ここからが難しいの。正直、チキンライスまでは工程を覚えれば、誰でもできる。でも、卵の成型とかはセンスだから、できない人はおとなしくホールに回ってくれ」

 「「「はーい!」」」


 今のところ、見込みがあるのは玲羅と先ほどの文学少女だけだ。

 あとは、包丁の使い方や何やらが不安すぎる。


 まずは俺が実践する。


 「まずは卵を混ぜる段階から―――」

 「おいおい!馬鹿にしてもらっちゃ困るぜ!卵くらい俺だって!塩入れて混ぜりゃあいいんだろ!」

 「はい、出オチのバカはスルーしていくよ。まずは混ぜるときに、塩は入れずに牛乳を入れようか。別に塩を入れても構わないけど、その分焦げやすくなるからね。我こそは、絶対的な自信があるというもの以外は、言うこと聞いてくれ」


 そうして、先ほどの出オチの男以外は、塩を入れずに牛乳と卵を混ぜ始めた。

 男は顔面蒼白になっているが、フォローは後でいい。焦げやすくなっただけで、失敗と言うわけではない。まあ、初心者用に合わせてるからな


 「焼くときはバターを入れて、さっき作った卵液をぶち込む。いい感じに半熟で固まったら、成型していく。この時に横着して箸とかでやると、失敗すっかんな?ゴムベラがあるからそれでやれ」


 こう言うと、さっきとは違い、その場にいる全員が言われたとおりにやり始めた。

 先ほど騒いでいた男たちも、出オチバカも同様だった。


 しかし、予想通り、まともにできている人は少なかった。

 が、ここで予想外のことが起きた。


 「へへ、できたぜ!」

 「おま―――出オチバカ!?」

 「ば、!?ま、まあいいや。どうだ?うまいだろ?」

 「形はな。じゃあ、お前は成功だから、そのままライスの上にのせて、綺麗に刃を入れすぎずに上の膜だけ切ってみろ」


 出オチバカが成功させた。

 そして、その男はクラスの成功させた4人のうちの一人となった。


 「翔一!できたぞ!」

 「おお!玲羅は予想通りにできたな」

 「ああ、ちゃんとレシピが分かれば作れるさ」

 「まあ、玲羅はホール担当だから」

 「!?」


 そして、二人は玲羅が成功。

 三人目は―――


 「できた!ねえ、どう?」

 「えーっと……」

 「新島よ。なんで覚えてないの?」

 「興味ないし、ほとんど会話したことないし」

 「あんたがイチャイチャしてるからでしょ!」

 「イチャイチャして何が悪いんだよ!」

 「逆ギレ!?」


 クラスのギャル―――新島が三人目の成功。

 形はずいぶん汚いが、まあ成功だ。こいつも、ホール行きそうだから期待はできないな。


 「新島は厨房とホールどっちやりたい?」

 「うーん……」

 「雑務と出会い、どっちがいい?」

 「ホール(出会い)!」

 「うん、最低」

 「あんたが振ったんでしょ!」


 そして最後の一人―――


 「うぅ……失敗……」


 一人、うなだれる少女。俺はその少女が失敗だと言うそれをスプーンにとって食べてみる。


 俺としては、見た目はともかく、味は今までで一番よかった。あまり、言いたくないが、玲羅よりおいしい。


 「うん、味はいい。と、なると練習しよう。圧倒技量不足だから練習すればカバーできると思うんだ」

 「え?」

 「君の料理センスはかなり高い。自分で味変えたでしょ?」

 「う、うん……ちょっと塩気が足りないかなって思って……」

 「それでいい。センスはある。さっきも言ったように、技量が足りないだけだから、今日から練習すれば、文化祭で出せる程度にはうまくなるはず。厨房担当で、頼んでもいいかな?」

 「う、うん!よろしくお願いします!」


 イエス!厨房担当ゲット!

 と言うわけで、苦労して見つけた厨房担当だと思って、次の日登校したら、文化祭の出し物が


 『なんでも料理ショー』


 とかふざけた名前に変わっていやがった。




 ―――キレてもいいやつ?

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