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出し物決め

 ―――時は進んで


 今日は始業式の日。もはやまともに登校していなかった学校の二学期が始まる日だ。

 正直、言うほどの友人はいないからなくてもいいのだが、彼女との学園ライフも今しか味わえないものだ。


 そんな俺たちは、出かける前だと言うのにイチャイチャしている。


 「うへへ……」

 「玲羅は、本当に撫でてもらうの好きだな?」

 「むぅ……その言い方だと少し語弊があるぞ―――私が好きなのは、翔一に撫でられることだ。間違えるなよ?」

 「よくわかんない怒られ方だ……」


 家を出るまで、残り10分程度。

 実に2か月以上ぶりの登校。しかも、始業式のある9月は、文化祭があったはず。


 実行委員とかは決まっていたが、それ以上のことは何も知らない。

 なにするつもりなんだろうか?


 「む……違うこと考えてるな?」

 「―――よくわかったな」

 「翔一はそういう時、必ず力が少し抜けるからな。もっとわしゃわしゃしてくれてもいいんだぞ?」

 「そうしたら、せっかく整えた髪が台無しになっちゃうだろ?そういうのは寝る前だけ」

 「むぅ……翔一にモテれば、あとはどうでもいいのだが……」

 「さすがにね、ぼさぼさの女の子が隣で歩いてると、色々言われちゃうから。―――その代わりに、寝る前なら何でも言うこと聞くから」

 「ほぉ……なんでもか」

 「おう!なんでもだ!」


 そう言うと、玲羅は少しだけ考えるそぶりを見せた後に言う。


 「じゃあ、後ろからハグして私のことを抱えながら一晩過ごすのは?もちろん、添い寝状態で」

 「いいよ。早速今日の夜にしようか」

 「あ、ああ……」

 「自分で言って恥ずかしくなってるよ」


 そんなやり取りをしていると、時間はあっという間に過ぎ、登校の時間になる。

 遅れて家を出る結乃を置いて、俺たちは外に出た。


 隣に美織の家が見えるが、華麗にスルーだ。どうせ起きてないからな。


 そこそこの時間を歩き、学校に到着した俺たちは、それぞれの席に荷物を置いて、また彼女が俺のところにやってくる。


 「別に、わざわざ来る必要はないぞ?―――俺が行くし」

 「いいんだ。それに、こうして青春らしいことも学校の楽しみの一つだ」

 「うーん、どこが青春なのかよくわからんけど、玲羅がそう言うならいいか」


 なんでも会話をしながら、その時間を過ごし、その後は校長の話などを聞きながら始業式と言う苦行を乗り越えた。

 もちろん、夏休みの宿題―――もとい、1学期にやるはずだった範囲の勉強をやってない人たちがあり、その人たちへの説教で俺たちが長い時間拘束されるというおまけつきだ。


 こんなことされたら、学校に来たくなくなる。玲羅は俺の家にいるし、いようと思えば四六時中一緒にいれるからな。


 そんな中、説教やらなにやらも、10時くらいまでには終了し、あとの時間は実行委員中心に文化祭の出し物を決めるのみとなった。


 「―――というわけで、なにかやりたいことあるかな?」


 実行委員がそう問うが、誰に手をあげない。

 初めての高校文化祭でなにをすればいいのか決めあぐねているのだろう。


 無難に喫茶でもやればいいのに……

 まあ、俺の意見は採用されねえだろうしなあ。


 「なあなあ、お化け屋敷とかどうだ?」

 「あ!それいいな!いいんちょー、どうだ?」

 「うーん、全然大丈夫だと思うよ!」

 「じゃあ、それでいいんじゃね?」


 お化け屋敷という意見を掲げて、クラスのよく目立つ人物が話始める。

 クラスの空気を支配したという感じだ。


 その男が話していると、段々とクラスはお化け屋敷ムードになり始め、多数決もいらないような空気が漂い始める。―――まあ、意見を出した男の周りが騒いでいるだけだが。

 だが、まだ最初の意見。ほかの競合すらもないのに、委員長としてはこれで決めようというわけにもいかない。


 「ほ、ほかにないかな?さすがに3度しかない高校の文化祭だよ?」

 「ダブれば4回も5回もできるっしょ!」

 「ぎゃはは!ウケるわ!」


 ―――ウケねえよ、ボケが。黙っとけ


 おっと、心の暴言が出てしまった。奴らを見ていると、あの時のことを思い出す。

 本能的に嫌いが出てきてしまっているな。


 というか、高校も偏差値高いんだから、もう少し落ち着きを持てよ。


 そう思いながら、俺は話し合いの顛末を見届ける。

 玲羅は楽しければなんでもいいようだが、俺としてはあんまりうるさいのは好まない。


 そう思っていると、美織が動いた。


 「私は、喫茶店がやりたいわ。それなら内容は何でも構わない。メイドでも、女装でも―――はたまた男装でも」

 「き、喫茶店ね。ほ、ほかにも意見はあるかな?」

 「あら?私の意見はないことになってるのかしら?」


 先ほどのように喫茶店に対しての同意の声はない。


 決して、悪くない意見ではあるのだが、いかんせん美織が出したものであるというのが痛い。

 俺と同じで、ある意味で恐れられ忌避されてる彼女は、クラス的には扱いづらい存在なのだろう。


 だが、ここでお化け屋敷をやりたくない勢が動き出した。


 「わ、私は喫茶店やりたいです……」

 「お、俺も……」


 我が強く、俺様的な生徒たちがお化け屋敷を推す中、喫茶店陣営は気の弱そうな文学少女や気弱男子たちのみ。

 あまりにも分が悪い。


 ここは、どちらの意見にも耳を貸していないクラスの上位女子を仲間に引き入れたほうが勝ちだ。


 そう思っていると、美織がなにかの写真を画面に写してその女子たちに見せる。


 「ねえ、調理担当はあそこにいる、翔一でいいわよ。あなたたちは配膳やホールに専念してもいいわよ」

 「ああ?なんであいつが料理を?」

 「ほら見て―――これ、あいつが作ったの。おいしそうでしょ?」

 「え?これ、椎名が作ったのか?」


 待って、俺の想像していた流れじゃない。


 「喫茶店に票を入れてくれたら、あなたたちもこの料理を食べられるのよ」

 「「「ゴクリ……」」」


 そうして行われた多数決。

 大多数の女子が喫茶店に票を入れて、俺が料理長という扱いのもと、文化祭の出し物が決まった。


 俺の料理を、あいつらは食いたいのか?


 「てか、美織、やってくれたな」

 「いいじゃない。あなたも見たいでしょ?玲羅のメイドコス」

 「みたいけどさあ……」

 「なら、文句を言わないで調理担当たちに料理を教えなさい」

 「はあ……いいけどさあ。俺の料理を食べたいの?あいつらは」

 「いいんじゃない?見栄えは良かったから、食べてはみたいと思ったんじゃないの?」


 そう言うと、写真にがっつりくっついている女子たちを見た。

 一部、涎を垂らしてしまっている人たちがいたが、まあ悪い気はしない。


 美織に協力してくれたお礼と練習のと味見の報酬に、全員になんか作るか。なんか、早速家庭科室で練習するみたいだしな。


 というわけで、我がクラスの出し物は、メイド執事なんでも食事処になった。


 さあ、どこからツッコめばいいんだろうか

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