特別SS ホワイトデー
今日は3月14日
そう―――ホワイトデーだ。
バレンタインに大量のチョコをもらっている俺は、しっかりと返さなくてはならない。
そこに文句はないし、くれる子がいるのはいいことだ。
若干一名、返すのがはばかられるようなものを送ってくる奴もいるが……
それはそれとして、なにを返すか悩みものだ。
今日の今日までその日の存在を完全に忘れていたから、今はお返しを考えてデパートに来ている。
手作りでもいいのだが、さすがに時間がない。
俺にとって去年までこの行事はどうでもいいことっちゃあそうだったので、言われたら返す程度に考えていた。―――綾乃には毎年返してたけど。
今年は玲羅がいるので、お返ししようかなと思ったのだが、いかんせん癖で忘れてしまうという失態を犯した。
ホワイトデーのお返しだが、ホワイトチョコはダメだろうか?結乃と美織にそれでいいような気もしなくもないが、手作りしてるわけだし……
玲羅はアクセサリー類にしよう。
彼女には指輪とかの一生ものをあげよう。重いかもしれないが、彼女にはこれくらいがちょうどいいはずだ。
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夕方
俺が帰ってくると、ドタドタと結乃が駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、お返し!」
「がっつくな!」
「いいじゃん!お返し貰うためにチョコ渡してんだから!」
「お前、その動機で男子にポコポコ渡してないか?」
「渡してないよ!好きな人とお兄ちゃんにしか渡してないよ」
そう言って、結乃は人差し指を頬の前に寄せて、腰を引くぽーすをした。
これをやれば普通の男子は落ちるだろうな。
「はいはい、家族に萌えポーズしても意味ないぞ」
「ちっ、落ちろよ」
「頭沸いてんのか?」
馬鹿な妹の発言をスルーして、俺はリビングに向かった。
すると、中には今朝に結乃と玲羅が作っていたケーキがテーブルの上に置かれて、美織と玲羅が話し込んでいた。
しかし、自身の恋人が帰ってきたという事で、彼女はすぐに俺のもとに駆け寄ってくる。
「今日は遅かったな」
「悪い悪い。プレゼント選びに手間取っちゃって」
「む、ちゃんと選んできてくれたんだな?」
「まあ、玲羅にだけはちゃんと返さないと」
「わ、私は翔一が隣にいてくれるだけでうれしいんだけどな」
「可愛い彼女め」
「ふっ、そうだろ?私はお前の前で可愛くいるようにしてるんだ」
そう言って、彼女は俺に抱き着く。
俺が彼女と付き合って、もう1年。玲羅は『可愛い』と言われることに慣れてきて、こんな返しもできるようになった。
もちろん、彼女の性格上自分が可愛いと受け入れたのではなく、俺に可愛いと言ってもらえることがうれしいと感じるようになったのだろう。
もう恥ずかしがる玲羅も珍しく、めったに見ることは出来ないが、甘えることが明らかに増えたので、プラマイはどちらかと言えば、プラスだ。
「ほんと、彼氏がいない私への当てつけかしら?」
「うっさいなあ。雰囲気をぶち壊すなよ」
「そうは言っても、玲羅ってばあの一件から所かまわずあなたにイチャツクようになったじゃない」
「俺的にはうれしい変化だよ」
「あーはいはい。そうでしたね。愛に飢える男はいいですね!」
そう言って美織はふてくされたようにそっぽを向く。
俺はそんな彼女に近づいてプレゼントを渡す。
「これは?」
「なんだかんだ、美織には世話になってるからな。いつもありがとな」
「ふんっ、感謝しなさい」
「してるからこれを渡してんだ」
「……ありがと」
そう言いながら彼女は俺から受け取った箱の包み紙をきれいに開けて中身を見る。
その中に入っていたのは、ヘアゴムだった。
「美織はさ、見てくれは美人だからそういうのつけてもいいんじゃない?」
「なんか安上がりね……」
「いや、それ35000円くらいするよ?」
「は?」
「35000……」
「馬鹿じゃないの!?本命でもないのに!」
「ほんとは手作りをあげるつもりだったんだけど、時間もないし……」
「いや、自分で言うのもなんだけど、私の渡したチョコってそんな価値ないわよ!」
そう言って俺の渡したヘアゴムを買えそうとする美織。
だが、俺も引くつもりはない。
「美織には毎年貰ってるし、まあ形とかふざけ具合はあれだけど、それでも美織は俺の大事な人だから」
「ずるいわよ、そういうの。あなた、本当に自分のことわかってるの?勘違いしちゃうわよ?」
「すんなバカ」
「雰囲気を壊すなよ!」
「(美織、翔一だぞ……)」
「(そうね……ときめいた私が馬鹿だったわ)」
彼女たちは俺のことを見ながらひそひそ話し始めるが、俺には聞こえない。
しかし、よくないことを話しているのはわかる。
そういうわけなので、俺は先に結乃に渡すことにする。
「結乃、バレンタインはありがとな」
「ふふん、ありがとお兄ちゃん」
「最初は食べ物がいいかと思ったんだけど、結乃が欲しいって言ってたの思い出したからさ」
箱を開けて、中から出てきたものは―――
「化粧品?」
「まあなんにも思いつかなかったから、結乃が前に欲しいけど高いみたいなこと言ってたじゃん?」
「で、でもこれ……」
「これで、好きな人に告白できるように自分に自信をつけな。結乃って、普段の態度のわりにしおらしいところがあるからな」
「……余計なお世話―――でも、ありがと」
そう言うと結乃は自分の部屋に消えていった。
さすがに今から使うことはないだろうが、これからデートとかに向けて使ってくれるのならうれしいものだ。
さて、ここからが肝心の玲羅へのプレゼントだ。
俺は渡すためにリビングに彼女を呼びに行った。
「玲羅、ちょっと部屋に来てくれる?」
「ん?かまわないぞ―――美織、ちょっと行ってくる」
「さあ、玲羅はなにをもらえるのかしらね?まああなたはなんでも喜びそうだけど……」
「当たり前だろ?私は普段から色々なものをくれてるからな。あいつの心さえこもっていれば、私はどんなものでもうれしいさ」
そう言うと彼女は、俺の部屋に向かってくる。
俺は彼女が部屋に入った瞬間に腕を掴んでベッドに押し倒した。
「ぬわあ!?」
「悪い、ちょっと手荒なことするよ」
「ちょ、ちょ―――こんな初めて……」
「あ、ああそういうことじゃない」
「へ?」
「まあ、今日のホワイトデーのお返しの一つ目は―――俺を好きにしていい権利だ」
「好きに……なんでもか?」
「ああ、なんでもいいよ。たとえエッチなことでも応えるさ」
「な、なら―――それは取っておいてもいいか?」
「いいよ。好きな時に使ってくれ」
「あ、ああ……」
「もう一つは―――」
言いながら、俺は彼女の指につけられた指輪をはずして、新しいものをつける。
それに気づいた彼女は、自身の手を何度も見返す。
「これは……」
「指輪―――玲羅の心のこもった指輪と比べるにはおこがましいけど、受け取ってほしい。そして―――」
「そして……んむ!?」
俺は不意打ちでキスをした。
彼女も言葉を待っていたであろうから、急なことで驚いている。
「ぷはぁ……俺と婚約してくれ」
そう言って、俺は玲羅の目の前に婚姻届けを出した。
それを見た彼女の目尻には涙がたまってきている。
「今まで口約束みたいな感じだったけど、俺は本当に結婚したいと思ってる。気が早いと思うけど、俺は一刻も早くつながりが欲しい」
「わ、私でいいのか?」
「凛とした玲羅も、ポンコツな玲羅も、エッチな玲羅も全部が好き。愛してる。だから、俺は玲羅と言う最高の彼女をこれから一生、手放すつもりはない。だから―――んぅ!?」
今度は、俺が玲羅に不意打ちキスをされた。
言葉を紡ぎながら彼女の瞳を見ていたので、完全に気づかなかった。
侵入してきた彼女の舌は俺の中を犯し続け、最後に玲羅は言った。
「私はわがままだからな。絶対に幸せにしてくれよ。じゃないと、翔一と結婚する意味がなくなってしまう」
「ああ、絶対に幸せにする」
「まあ現在進行形で幸せなんだけどな」