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そろそろ帰るころ

 夏祭りもその後は特に、これといった変哲もなく時が進んでいった。

 そのあとの花火大会も、前回と違い二人で彼女が肩にもたれかかって一緒に花火を見た。


 まあ前回は押し倒してしまったからな。2回目だというのに、なんだか新鮮な気分になれるな。


 「平和だなー」

 「そう、だな。これも全部、翔一が守ってくれたものなんだな」

 「そんなに大仰なものじゃないさ。全部、玲羅のため。愛する人の悲哀の涙を、俺は見たくないからな」

 「ふふ、やっぱり翔一は優しいな」


 そう言う彼女を、俺は自分の前に座らせて後ろから腰に手を回す。

 今はみんなが花火を見るために上を向いていて誰も見ていない。もし見られたとしても、この雰囲気だ。なにもおかしいことはない。


 多少ではあるが、ダメージは少ないはず。


 玲羅もそう思ってくれているのか、それとも何も考えずに甘えてくれているのか―――それ自体は定かではないが、彼女も俺の胸に頭を預けてくれる。


 「あったかい……」

 「夏だからな」

 「そうじゃない。翔一の体があったかいと言っているんだ」

 「まあな。夏とはいえ夜は冷える―――俺の体であったまってくれ」

 「ふふん」


 夜空に大輪が一つ、また一つと咲いていくと会場が明るく照らされる。

 さすが田舎町と言うべきか、会場が都会ほど混んでいない。おかげでスペースにもかなりの余裕がある。


 ここまでくると、もう来てよかったとしか思わないな。

 夏祭りと言う大まかなくくりは同じだが、地域ごとに少々の違いがある。今年はいっぱい初めて知ることがあるな。あれもこれも―――


 「全部玲羅のおかげだ」

 「ん……?なにがだ?」

 「―――俺がこんなに幸せなのは、って話だよ」

 「当り前だ。私をこんなに幸せにしてくれる私が、翔一を幸せにできなかったら立つ瀬がないだろ?」

 「そんなものなくても隣にいてくれさえすれば幸せだよ」


 そう言って俺は彼女の頭を撫でる。

 ずいぶんと気持ちよさそうに目を閉じて受け入れてくれた。


 「今日―――」

 「ん?」

 「寝るときにぎゅっと抱きしめてくれないか?」

 「お安い御用だ。玲羅のためならなんでもするよ」

 「……ダメ女、生産男め」

 「なんで悪口言われてるのかな?」


 そうして、俺たちは花火の上がっている短い間だけのイチャイチャタイムは終了し、早々に撤収していった。

 余韻に浸るとかそういうのがあるのだろうが、あとになると混んでくるし、とにかく俺たちは家に戻ってイチャイチャしたかった。


 「翔一!」

 「なんだ?殺したいほど憎い人がいるのか?」

 「き、急になんだ!?言ったらどうするんだ?」

 「消す」

 「怖っ!?ったく、雰囲気がぶち壊しじゃないか―――まあいい。言いたいことがある」

 「どうした?」


 玲羅は歩きながら、俺の腕を組んで言葉を紡ごうとする。

 しかし、俺には言おうとしていることはわからない。さすがにこの状況で言うことは……


 「―――幸せになろうな」

 「ふっ、当然」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 家に帰ると、俺たちは荷物のまとめを始める。

 ついにここでの生活もお別れと言うわけだ。


 「本当に親戚でもないのにお世話になりました」

 「いいのよ。玲羅の夫になってくれるんでしょ?なら、私たちの孫息子同然よ」


 俺がこれまでのことで頭を下げると、お祖母さんがそう言ってくれた。お祖父さんもそうだそうだとうなずいてくれている。


 「それで、出発はいつなんだっけ?」

 「あ、出発は明日の夜の七時くらいに……」

 「なら、こんなに早く準備しなくても」

 「いやいや、最後の日くらいは準備に追われずにお話ししたいですから」

 「あらあらいい子ねえ。まるで若い時の善利さんみたい―――」

 「ちょっとお義母さん、そんなわけないじゃないですか!」

 「そお?傷心中の早苗に付け込んだのはどこのだれか知らねえ?」

 「うっ……」


 なるほど……そういう感じでは俺と善利さんは似てるな。

 玲羅も傷心中に俺が心の中に入り込んだ感じだ。


 「善利さん、仲間ですね」

 「断じて許さん!キサマと仲間だけは断じて!」

 「あらあ、いいじゃない。私と玲羅―――母娘ともに似た人に惚れているってことで」

 「母さん、それだと私が場合によっては父さんに惚れる未来があったみたいではないか」

 「その方がいいぞ!玲羅、今すぐに私に惚れるんだ!」

 「私、こんな人嫌なんだが……」

 「なにしてんすか……」


 そう言って一気ににぎやかになる家の中。

 別れの時間が近いのに、これは……


―――次第に荷物もまとまっていき、寝る時間にはよい時間になってきたころ


 段々と玲羅がうとうとしてきた。


 「玲羅、もう風呂入ってるし寝るか?」

 「ああ、さすがに眠くなってきた……」

 「ふふ、昨日は夏祭りが楽しみで全然寝れなかったもんな」

 「もう、子供みたいではないか……」

 「いいじゃん。そういう子供っぽいところ、可愛いと思うよ」


 そう言うと、うつらうつらとし始めた玲羅の手を引いて寝室に向かっていく。

 ―――女子を寝室に連れ込むって卑猥だな……


 「む、翔一がエッチなこと考えてる……」

 「仕方がない。俺も男だから」

 「翔一がオオカミに!?」

 「その割にはうれしそうだね」

 「う、うるさい……早く寝るぞ!夜更かしは美容の天敵だ」


 そう言って勢い良く寝てしまう玲羅―――俺はもうちょっとお話したいけどなあ

 まあ、いいか。


 俺は寝たことをお構いなしに、帰るときに言われたことを実行する。


 「ひゃわ!?」

 「なにを驚いてるんだ?玲羅が言ったんじゃないか。ぎゅっと抱きしめてほしいって」

 「むぅ……だったらもっと強く抱きしめてくれ。これじゃあ全然……」

 「マジ?なら、これなら」

 「もっと強く―――そう!いい感じだ、もう一押し!」


 そう言われながら俺は玲羅を抱きしめる強さを強くしていく。すると突然、彼女が体を反転させて、俺と体が向かい合うようにしてくる。


 そんなことをされると、玲羅の持ち前の凶器が、俺の胸部に沈み込むわけで……


 「いいのか?これ」

 「胸のことか?私はかまわない。ほかの誰ならいざ知らず、誰でもない翔一が相手なら、私は喜んでする」

 「……痴女」

 「し、翔一は私に喧嘩を売っているのか!?」

 「悪い悪い。でも、あんまり外でそう言うこと言わないでくれよ―――玲羅のエッチなところを知ってるのは、俺だけで十分だ」

 「ふん!当たり前だ。私は自分の夫になる男にしかこういう態度はとらない!―――だから、絶対に浮気なんて許さないからな」

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