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2回目の夏祭り

 あれから数日。こちらの町の夏祭りの開催の日がやってきた。


 玲羅は夕方から浴衣の着付けのために俺がいる場所とは違う部屋で着物に着替えている。


 正直、今年の夏祭りは2回目なのでどうしたものか。というか、タイミングが少し遅い気がするのは気のせいだろうか。

 もうちょっと盆前とかにやる気がするのだが……


 そう思って質問すると、お祖父さんが盆にやってきた魂を見送るのが本来の目的だそうだ。

 昔は質素な感じだったが、いつしか屋台が出たりで賑わいが出てしまったのだそう。


 まあ、祭りなんてそんなもんか。


 そんなことを考えながら、俺も浴衣に―――と、言いたいがないので、仕方なく戦闘時の袴を着ることにした。普段着よりはマシだろう。

 これなら突然テロリストに襲われるという中二病が考えた雑な展開にあっても対応できる。まあ、実際にテロリストまがいが学校に来てるから笑えないけど……


 いろいろと思案しながら恋人を待っていると、玲羅たちのいる部屋の扉が開いた。

 着付けが終わったのだろう。


 「し、翔一……どうだ?」

 「うん、すごく似合ってるよ」

 「そうか?ちょっと派手すぎないか……」


 そう言うと彼女は浴衣の端をもって、俺によく見えるようにしてくれた。

 前回とは違い、赤を基調とした着物。確かに前回より派手だし、柄も結構目立つ花柄。しかし、だからと言って、彼女に似合わないなんてことはない。


 確かに彼女に黒が似合うと言ったのは俺だが、別にほかの色が嫌とかそういうのじゃない。


 「玲羅はなに着ても似合うから―――もう少し自信を持っていいんじゃない?」

 「しかし、着なれないから……」

 「なら、家で毎日着させてあげようか?」

 「それは、結乃が大変じゃないのか?」

 「いや、一応俺も着付けはできるぞ?」

 「それは恥ずかしいからダメだ」


 というわけで、自宅で着物生活は没です。お疲れさまでした。


 着付けも終わったということで、俺と玲羅は恋人つなぎをしながら外に繰り出していった。

 祭りの場所までは徒歩で10分ほどかかる。しかし、俺たちは車を使わずに移動する。お互いのぬくもりを感じられる時間を増やすためなのは言うまでもない。


 「久しぶりだなあ」

 「楽しみ?」

 「そりゃ楽しみさ。懐かしい夏祭りを大好きな人と回る。これ以上の幸せを私は知らないな」

 「じゃあ、俺が教えてあげようか?好きな人に愛される幸せを」

 「し、知ってる……!悪かった!気分が高まって……」

 「なんで萎れてんだ?よくわかんねえけど、玲羅を幸せでいっぱいにしたいって話なんだけど」

 「へ?なんだそういうことか。じゃあ今から私の言うこと聞いてくれるか?」

 「ん?なんでもいいよ」

 「それじゃあね―――」


―――


 玲羅のリクエスト―――それはあの場所からお姫様抱っこで会場に行くこと。

 俺はそのリクエスト通りに、会場に着くまで玲羅をお姫様抱っこしながら歩き続けた。


 会場に近づくにつれて人が増えてきて気恥ずかしくしていたものの、彼女は一切降りる気配を見せずに最後目で俺に抱えられ続けた。


 彼女的には歩く時間をなくして楽したいというよりも、俺にくっつきたいと思う気持ちがあったはずだ。それならば、多少の恥ずかしさを意にかえさない理由もわかる。

 いや、お尻叩いてくれとか言えちゃう彼女に、もはや羞恥心がないのか?


 逆に笑えてくるわ。


 そうしてやってきた夏祭り。俺たちは前回と同じようにいろいろなところを回った。

 大まかな出店の内容に変わりはないんだが、やはり街の雰囲気が違うので新鮮な感じがする。


 ―――


 「翔一、焼きそば食べよう!」

 「そうだな」


 ―――


 「翔一!たこ焼き食べよう!」

 「ああ、ちょっと待ってくれ」


 ―――


 「翔一!ホットドッグ食べよう!」

 「おーけー」


 ―――


 「翔一に奢らせてばかりじゃないか!」

 「食べてばっかじゃん!」


 突然、祭りのさなか俺たちは叫んだ。

 もちろん、人のいない場所でだ。意外と人口がそこまで多くないために人が集まってない場所は探せばある。


 なぜ叫んだか。俺と玲羅では言っていることを聞く限り原因が違うみたいだ。


 「この祭りにきて食べてばっかだな……」

 「す、すまない……おなかが減ってて」

 「まあ別にいいけどな。射的とかあるんだし……」

 「お前、でかい景品狙って周りのもの吹き飛ばすだろ?面白いけど、結構な迷惑行為じゃないのか?」

 「……滅相もございません」

 「私こそ悪かった。翔一にばっかりお金を出させてしまって……」

 「それこそ気にすんな。俺が出したくて出してるんだ」

 「だが、金の切れ目は縁の切れ目と言うし……」


 そう言う玲羅の頭にポンと頭を置く。

 まあ奢りたくない相手もそうしたい相手もいる。玲羅が後者と言うだけ。俺は玲羅と一生共に生きるって決めてんだ。だったら、彼女のためにお金を使うことは苦とは思わない。


 「元々捨てるほどの金だから気にしなくていい。くそったれな家で稼いだ金。それに、玲羅なら奢ってもいい。そう思ってるから全部出してるんだ。もし、ただの友人だったら俺は出すつもりはないぞ」

 「そうは言うが、翔一に金銭を……」

 「玲羅は俺の家族になってくれるんだろ?」

 「そうだが……」

 「家族になるのなら、お互いの財産は共有―――つまり一つになる。なら、玲羅が使った金も俺が使った金も、全部俺たちの中から出てる。将来的には、玲羅が自分で払ってくれることになるんだよ」

 「でも、もし私が……」

 「玲羅と別れる未来を想像する必要ある?こんなに好きなのに、別れるとか考えたくないな」

 「……そうだな。だが、私は奢ってもらう代わりに、翔一の誕生日とかを精一杯お祝いする。その時は覚悟しておけよ!」

 「なんの覚悟をすればいいのかわからんけど、まあ楽しみにしておくよ」


 彼女に奢りまくっていたら誕生日会が確約されてしまいました。嬉しいですね。

 推しの恋人に誕生日を祝ってもらう。幸せですねえ


 「なんか今日の翔一のテンションおかしくないか?」

 「ん?」

 「なんていうか、時たま纏う雰囲気が変になんる?と言うのか……よくわからん」

 「なら、俺にもわかんないよ。まあ、玲羅の着物姿が可愛すぎて脳がとけたんじゃない?」

 「もう、そういうこと言って―――翔一こそ、いつも私たちを守ってくれるその袴姿。すごくカッコいいぞ」

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