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目覚め

 こうしてこの場にもう一つのカップルが生まれた。

 なんだろうか。俺の目の前でできること多くね?


 そう思いながら孝志たちのほうを見ると、楓花がしっかりと抱き着いている。


 「そうだ。明後日に夏祭りがあるんだけど、来る?」

 「明後日……ていうか、夏祭り2回目だぞ?」

 「そういえば、このくらいの時期だったな。滞在時間内だし、私は行こうと思っているが―――翔一はどうする?行かないなら、私も家でゆっくりしているが」

 「うーん、玲羅が行きたいのなら行こうかな。場所によって夏祭りの風景って変わらないと思うし」


 この町の夏祭り。興味がないわけじゃないが、さすがに同じ年に夏祭りに2回行くのは胃が持たれる。

 しかしまあ、玲羅が行きたそうにしているので、おそらく俺も向かうことになるだろう。俺の恋人は可愛いからな。ほかの男が放っておくはずがない。


 「玲羅ちゃんはどうするの?」

 「私は行きたいな。確か花火大会もあったろ?」

 「そうだな、うちの家が出資して毎年でかい花火をあげるからな。都会でもなかなか見られない規模だと思うぞ―――都会の花火大会知らないけど」

 「花火大会って、前のやつもなかった?」

 「あれは、翔一とずっとキスしてて、言うほど見れてないだろ?」

 「えー!玲羅ちゃん、キスして花火見てなかったの!?どんだけデレデレなの!」

 「え!?あ!い、今のは……」


 久しぶりに自爆した彼女は顔を真っ赤にして、両手で顔を覆った。

 なかなか見れなくなった表情を引き出せたな。―――これはレアだ


 カシャ


 「む……?な、なんで写真を撮ってるんだ!」

 「いや、今となってはすごくレアな表情だから―――ほら、孝志たち見てよ。可愛いでしょ」

 「わ、マジだ!玲羅が女の顔してる!」

 「ふわー……玲羅ちゃん乙女ぇ!」

 「もう嫌だ……この三人」

 「えー、玲羅、俺と別れたいの……」

 「あ、ちが……わ、別れるつもりはない!」


 玲羅は俺の言葉に慌てながら、手を握ってくる。いや、わかってるよ。玲羅が俺から離れようとしないのは。だが、ちょっと不安になったかな?

 少し意地悪してしまった俺は、お詫びとばかりに彼女の右頬を優しく撫でる。


 頬に手を添えられた彼女は目を閉じて気持ちよさそうにする。これもまた俺のお気に入りの表情だったりもする。


 「頬を撫でられるのって気持ちいいのかな?」

 「さあな?」

 「やって」

 「え?」

 「ほら、私もさっきから孝志の彼女なんだよ?言うこと聞いてくれる?」

 「それはカレカノ関係じゃなくて、主従では?」

 「あ?」

 「やります。やらせてください」


 そう言って、俺たちの隣でもう一組のカップルが同じことを始めた。

 しかし、楓花にとって結果は芳しくないようで、ずっと「むぅ……」とうなっていた。


 正直、これは好みじゃないかな?玲羅はどちらかと言うとメンヘラ気があるMっ子だから。こういうされることが好きなんだよな。

 でも、楓花はどちらかと言うとする側―――尽くす側に見える。

 そうなると、撫でてもらっても玲羅ほどの喜びは得られないかもしれない。


 「あんまり気持ちよくない……」

 「えぇ……」

 「うーん……」


 パチン


 ちょっとした破裂音だった。

 その音は、楓花がいたくない程度の強さで孝志の頬を張ったものだった。


 さすがに突然のことで空気が止まった。


 「は?」

 「うん、こっちのほうがいいかもっ!」

 「うーん、俺と楓花はまじりあえない気がしてきた」

 「大丈夫か、あれ。さすがにドSの翔一でもあんなことしてこないぞ」

 「待って、玲羅って俺のことドSだと思ってたの?」


 楓花がビンタしたことなんてどうでもよくなった。

 ―――攻めることは多かったけど、それでもドSと思われるようなことは極力避けていたはずなのだが……

 ていうか、玲羅の胸を触るときもそういうぐちゃぐちゃにしてやろうとか思ったことないぞ?


 「ちなみにどういうところが?」

 「翔一、私が嫌って言っても本心を見切ってやめてくれないじゃないか。喜んでる私も大概だが、翔一はドSだ!」

 「根拠が薄いなあ―――そんなこと言ったら、玲羅だってドMだろ?」

 「なにか悪いか!?そんなに翔一に色々されるのが好きで悪いか!?」

 「ねえ、隣でわけわかんない喧嘩が始まったんだけど……」

 「いや、俺が今ビンタされたことが一番意味わかんないんだけど……」


 その場はもはやカオスだった。

 しょうもないことで玲羅と言い合いをし、もう片方はわけのわからないと嘆く彼氏と彼氏に何かを『する』ことに喜びを覚えてしまった彼女。はっきり言って、意味が分からない状況である。


 こんなカオスな状況の中、俺と玲羅は少しだけ言い合いをしているのだが……


 「いいだろ!?翔一も私のお尻叩くの、好きだろ!」

 「ああ、好きだよ!玲羅って肉感がいいからな!柔らかい感触が気持ちいいんだよ!」

 「あの二人、本当に喧嘩してるの?」

 「ああ、どう見てもイチャイチャしているな」

 「なら、私のお尻を寝る前に叩いてくれ!」

 「マジで言ってんの?」

 「ああ、私も翔一のすべてを受け入れるから!ドSだっていいじゃない!翔一だもの!」

 「相〇みつをかよ!」

 「あ、終わった」

 「うん、それで俺をビンタしたことはいつ説明してくれるの?」


 俺たちのひと悶着が終わった後、楓花は説明を始める。

 話によると、撫でられてる間に、自分が孝志になにをしたらいいの考えていたそうだ。そして、その時に思ったのだそうだ。


 ―――孝志の困った表情が見たい、と。


 完全に性癖が垣間見えているが、要は孝志をいじめることに快楽を見出したということだ。


 「おめでとう孝志。今日からお前は楓花の尻に敷かれることになる」

 「え、ヤダよ!」

 「うるさい!孝志にはそんな異論認めない!」


 突然割り込んできた楓花に孝志は押し倒される。それだけならまだよかったのだろう。楓花はそのまま彼氏の胸の上にお尻を乗せて、物理的に孝志を尻に敷いた。


 「私、玲羅ちゃんみたいに胸はないけど、お尻には自信あるんだー」

 「ああそうかい―――じゃねえよ!どけ!」

 「ふふん……孝志が私のお尻綺麗って言うまでどきませーん」


 そう言って孝志の胸の上で腰をフリフリする楓花。もはや過激すぎてみてられない。


 「翔一もああいうの好きか?」

 「うーん、別にいいかな。あんなことしなくても、玲羅はあらゆるところが綺麗なのわかってるから」

 「ちょっと恥ずかしいが……ふふ、ありがとう」

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