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第五章完結 ちょっとしたIFSS ヒーロー翔一

※物語構成上の関係で、かなりルールが捻じ曲げられてます。


それは私が一番よくわかってます。ですが、フィクションなので悪しからず

 私の名前は椎名玲羅。何年か前に苗字を変えた。

 順風満帆な夫婦生活を送り、娘も7歳になる。


 そんな私の夫である翔一は、今海外にいる。出張と言えば、そうなるかもしれないが、今彼はWBCの選手として戦っている。


 高校の時は野球をしなかったが、大学に入ってすぐくらいの頃に彼は復帰した。


 彼の試合をしているときの姿はカッコよかったし、惚れ直しもした。

 そのまま彼はスカウトを受けて、プロに入り、今では球界でも屈指のピッチャーになっている。たまにDHも外してもらって、打撃にも出ているが結構好成績を残している。


 昔の大谷と同じくらい活躍して、子供たちにもあこがれられている。

 私の自慢の夫だ。


 だが、なぜ夫がそんな大事な試合に出ているのに、私が日本にいるかと言えば―――


 「ママ―、パパ頑張ってる?」

 「ああ、頑張ってるよ。必ず逆転できるよ」


 娘の育児と仕事を放棄できなかったからだ。

 本当だったら投げ出して応援に行きたいところだが、さすがに無視なんてできない。


 そして、今は会社の同僚と一緒に大会の最後の試合―――日本の優勝をかけた試合を見ている。

 無論、この場に男はいない。私は夫一筋。浮気も疑われることもしない。


 現在、日本の決勝戦が終盤に入り、ついに最終回を迎えてしまった。


 先発が翔一で、両者無失点無得点の接近戦で中盤までやっていた。7回裏に日本が先制して勝てると思ったのだが、翔一がツーランを浴びて、一気に逆転されてしまった。

 それだというのに、日本側はピッチャーを変えることなく、9回表に突入。SNSは少し荒れている。


 「旦那さん、大変そうだね」

 「ああ……このまま続投するのか」

 「ねー、意外だよね。でも椎名さん的にはまだまだ旦那さんの活躍が見れるからいいんじゃないの?」

 「私としてはそれもいいんだが、みんなに叩かれるとちょっと心が……」

 「ママ―、パパはなんで打たないのー?」

 「むぅ……確かにそうだが、ピッチャーに専念したほうが成績がいいから?」


 そうは言うが、私も翔一のバッティング姿を見たい。

 やっぱり翔一の輝く姿を見たいものだ。


 だが、今回は大事な試合だ。二刀流は前例があるとはいえ、簡単なことではない。


 そう思いながらも期待してテレビを見る。


 『さあ、苦しくなってきました。日本に優勝することは可能でしょうか?』

 『そうですね。ここを三者凡退で終わらせたり、相手の流れを断ち切ることができればもしかしたら、でしょうね』

 『そうですか……引き続き日本の応援をしていきましょう』


 解説と実況がそういうものの現実はそううまくも行かず、1アウト2,3塁の大ピンチになってしまった。

 だが、そこは翔一。すさまじい粘りだった。


 4人目のバッターをキャッチャーフライに押さえて、最後の5人目は最後の最後まで使わなかった決め球のスプリットで三振を取り、9回表の守備を終わらせた。


 最終回―――日本の最後の攻撃は5番から6番を迎えて、その次はDHの選手だ。おそらく今日の成績的に8、9番は打撃を期待できない。おそらく5、6、7が打たなければ


 「頑張ってくれー!」


 私の同僚も手をこすり合わせながら願っている。私もした方がいいのだろうか?

 そう思っていると―――


 『打った!綺麗なセンターへのヒットです』


 先頭打者がきれいなヒットを打ち、塁に出た。

 これならば次の打者も続けば、もしかしたら日本にも流れが来るかもしれない。


 そう思っていると、おそらく全世界の人が驚愕したであろうことが起こった。


 『あれ?ネクストバッターサークルに椎名選手が立ってますね?』

 『これはDHを解除するということでしょうか?』

 『ここにきてバッター椎名の登場なのでしょうか?』


 「あれ旦那さん、打つの?」

 「……そうみたいだな」

 「パパうつのー!?」


 次の打席に入るはずの選手がネクストサークルに入らずに、ピッチャーだったはずの翔一がそこには立っていた。

 それを見た瞬間に、私の胸は高鳴った。バッターの姿がまた見れる……

 ただでさえいつも見れないというのに、この大事な場面で使うのか。


 上から目線ではあるが、日本の監督……よくやった!


 そうして6番バッターもヒットを打ち、ノーアウト1、2塁。同店のチャンスがやってきた。


 その時、アナウンスが響いた。


 『選手の交代をお知らせします。DH和内選手に変わりまして―――7番ピッチャー椎名』


 その瞬間、私たちは息をのんだ。私の家族が大事な場面に……

 友人も友達の夫が―――知っている人がこんなに大事な場面で出てきているのだ。


 この空気感を感じきれない娘が少し騒がしくなった。


 「ねー!パパだよ!がんばれー!」


 SNSは賛成反対は五分五分。正直、打てなかったら総叩きになる。

 だが、私には打てないビジョンが見えなかった。あいつはこういう時にやる男だからだ。


 そう思っていたが、まさかの事態が起きた。


 『あれ?2塁ランナー出すぎじゃ……あーっと刺された!』

 『今のはいけませんね。これでは相手に流れを渡してしまうようなものです』


 プレッシャーに負けたのだろう。2塁ランナーが牽制で刺された。

 今のが大きかったのか、会場は一気に盛り下がり、SNSも日本負けという単語が多くつぶやかれ始めた。


 しかし、これはあの時と同じだ。


 翔一を応援するものがいなくなり、ランナーも一人しかいない絶望的な状況。それでも彼は私の応援を感じてくれる人だった。

 高校で助っ人に入ったときも、負けじとホームランを打った彼の姿を知ってる。だから、打てるって信じてる。


 「頑張れ!翔一!」


 友人が私の声にビクッとしたが関係ない。私だけでも精いっぱいの応援を!

 そう思っていると、娘も大きな声で応援をし始めた。


 「パパ―!がんばってー!ホームランー!」


 そして、その声が届いたのだろう。


 5球目、2ストライク2ボールで迎えた球。

 ゾーンギリギリのストレート―――それを捉えた。


 カンッ!


 『行ったー!これは大きい!』


 その瞬間はとってもゆっくり感じた。それでも打球はゆっくりとスタンドに沈んでいく。


 『入った―!日本逆転!サヨナラだ―!―――日本優勝!椎名―――この男がやってくれました!』


 「きゃああああああ!椎名さん、やったよ!旦那さんがやったよ!」

 「あ、ああ……現実だよな?」

 「やったー!パパすごい!」


 スタンドが沸き上がり、私たちも興奮冷めやらぬ状況で翔一がダイヤモンドをガッツポーズをしながら戻ってくる。

 ホームベースでは仲間たちが今日最高のヒーローを迎えて、翔一もそれに飛び込んだ。


 一度は日本の負けを覚悟した試合。私の夫がやってくれたおかげで、サヨナラで優勝を果たした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 サヨナラによる日本優勝。そのニュースは世界も騒がせて、大ニュースとして連日報じられた。


 後日談という形で番組にも呼ばれ、色々な話をしてくれた。

 特に最終回の打席は翔一が自ら打たせてくれと監督に頭を下げたらしい。


 その話は、日本監督の株を大きく上げて、熱狂の渦へと巻き込んでいく。

 数か月たった今でも野球ブームは終わらず、子供たちの間では翔一のような野球選手になりたいという子たちが多いみたいだ。


 私たちの娘も誇らしげに学校に登校している。


 忙しく大変な期間だったが、ようやくひと段落ついて彼と話ができる。


 「翔一、優勝おめでとう」

 「何か月前の話だよ―――でも、ありがとう。あの時、二人の声が聞こえた気がしたよ」

 「もう……ねえ翔一。これってさ、優勝したから神様からご褒美をもらったのかな?」

 「ん?」

 「二人目……妊娠した」

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