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完装

 「せっ!」

 「はあっ!」


 ぶつかり合う。


 俺の剣と石動のトンファーが。もはや、常人の域を超えた速さで。


 仮面をつけた俺が踏み込み、少しずつ、わずかながらも相手を後退させていく。

 やはり、不完全と馬鹿にされても、強力な術に変わりはない。それに、これはまだ前段階。本当の力はここからだからな。


 「どうした!出来損ないに押されてるじゃないか!」

 「うるさい!僕が君を出来損ないだというのは、戦い不完全だからというわけじゃない!―――君が、心の揺さぶりに……感情に左右されすぎるからだ!」


 そう言うと、石動は俺の横なぎをしゃがんで避ける。

 ―――下か!


 俺がそう判断した瞬間には、奴は振りかぶって拳を振り上げる準備をしていた。

 だが、俺もその程度でやられるわけではない。


 「ふんっ!」

 「まだまだあ!」


 振り上げられた拳に手を添えて、その勢いで後ろにバク宙で下がった。


 こちらも本調子じゃない以上は、一定以上の距離が取った方がいいか?だが、時間をかければかけるほど……


 「ふふ……やっぱり君は強い。天才と言われるだけのことはあるみたいだな―――だが、これを見て君はまともに戦えるかい?」

 「あ……?」


 『やめて!もう、嫌……中はやめて……』


 石動の背後に映し出された映像。そこには―――


 『やめて!いやああああああ!』


 ―――絶叫する綾乃の姿があった。


 「なっ!?」

 「かわいそうに―――君の大事な大事な婚約者が毎日毎日、知らぬ男に輪姦まわされて……こんなに泣いてるよ。こんな時に、頼みの男は野球にかまけてたよなあ―――な?椎名翔一」


 予想外。綾乃のことで揺さぶりをかけることは想定していたが、こんな大々的にやってくるとは思ってなかった。

 だが、この映像をなぜこいつが持っている。


 俺もあの映像に驚いていたが、後ろにいる玲羅たちも度肝を抜かれていた。


 「な、なんだあれ……」

 「もしかして、あれが翔一の婚約者だった女の子……」

 「え、玲羅ちゃんの彼氏って婚約者がいるの?」


 三人が驚くのは無理もない。人が輪姦されている姿を動画越しとはいえ、見せられているのだ。気分も良くないものだしな。


 だが、俺が一番頭を殴られたような衝撃を覚えた。


 綾乃に辛かったとは聞いた。だが―――こんなにも辛い仕打ちを……


 あんなに天真爛漫で可愛い娘だった綾乃を、こんな目に……


 「君は、守らなかった。守れなかったじゃないんだよ。死んだあと、なぜ君は蘇生をしなかった?つまり、君も婚約者を邪魔だと思っていたんじゃないのか?―――家を出るのに」

 「違う!―――断じて違う……」


 俺が綾乃を蘇生しなかった理由。単純だ。彼女が死を望んだからだ。


 自殺はダメだ。やってはいけない。それはわかってる。でも、彼女が選んだこと。蘇らせて、さらにつらい思いをさせたくなかった。


 「なにが違うんだ!君は―――僕たちの道具を捨てたんだぞ!」

 「……道具、だと?」

 「そうだ!彼女はいくらでも僕たちの性欲を処理できた。彼女が失神して何もできなくなっても体は反応する!いい実験結果が得られたよ!」

 「僕たち……?お前、あの場にいたのか?」


 その瞬間、空気が重くなった。

 本当に体感的だが、後ろの三人は多少の息苦しさを感じているだろう。


 だが、それでも石動の口は止まらない。


 「毎日気持ちよかったよ!肉体的だけじゃなく、何度も何度も嫌々言いながら、感じて、絶頂して。それでも堕ちなかった。やはり心は、塗り替えるのではなく壊すしかないんだよ。まあ、最後まで椎名翔一―――君の名前を叫び続けてたけどね」


 ヒュン!


 それは風邪を斬る音だった。

 だが、それは石動に当たることはなく、綾乃を輪姦している動画が流れている壁を破壊した。


 「これ以上、不快な映像を流すな」

 「君は、誰も救えない。陰から一つ一つ、少しずつ奪われて、そのすべてを壊されるんだよ。君の妹も、悪友も、そしてその恋人も。全部壊される」

 「口を閉じろ。それ以上不快な声を聴かせてくれるな」

 「君は―――君は!幸せになる権利なんてないんだよ」


 ドン!


 石動の言葉の瞬間、重かった空気がさらに重くなる。それと同時に、武装によって俺を取り巻いていた法力のすべてが、仮面に移動していった。


 「武装が不完全と言ったな。なら、完全を見せてやる―――そして、教えてやる。なぜ、昔の日本で、二家の者たちが鬼と言われたのかを……」


 法力がすべて収まり、周りになにもなくなった瞬間、カラスの仮面の上下が反転した。

 下を向いていた嘴のような鋭利な箇所が上を向き、さらに伸びる。それによって、先ほどまで嘴だったものが、角のようになった。


 そして、仮面から黒いオーラが噴出し始めて、ついには俺の全身をそのオーラが覆いつくす。


 『完装』


 これが俺の生み出した、武装の真の姿。


 神の技をもってして、技の鬼となる。


 俺は、神のような瞬きをもつ、斬撃の鬼。それが俺の『瞬神斬鬼』の名の由来。

 ―――石動、もうお前じゃ、俺に追いつけない。


 「黒い鎧……それが君のぶそ―――!?」

 「話してるは余裕はないぞ」


 俺は一瞬で距離を詰めて、そこから石動の後ろに移動した。


 一見、俺が通り過ぎただけでなにもしていないように見える。―――だが


 ブシュウウウ!


 「なっ!?」

 「言ったろ、もうお前は俺に追いつけない」


 石動の左腕が吹き飛んだ。


 (抜刀の瞬間が見えなかった!?そんな馬鹿な!)


 そう、奴の目には俺の抜刀の瞬間すら見ることはかなわなかっただろう。

 もう、終わりなんだよ。


 「クソっ!」

 「死ね」


 ズバァ!


 俺は一瞬で、石動の首を撥ねて戦いを終わらせた。

 さすがの二家も首が離れて、脳が回復困難な状態になれば修復は不可能に近くなる。


 これで、一人。綾乃に暴力をふるった人間を殺せた。


 なあ綾乃。これでいいか?


 「翔一……」

 「ごめんな、巻き込んじゃって」

 「ううん……辛いのは翔一だろう?元とはいえ、大事だった婚約者があんな目に……」

 「ありがとな。でも、今は玲羅のほうが大事だ。玲羅が無事だったこと、心から安心してる」


 そう言って、俺は玲羅の近くにいた二人を見る。


 「そ、その……」

 「あの……」

 「「本当にごめんなさい!」」

 「別にいいよ。人を欺き、良いように利用する。それが石動東矢のやり方だからな」

 「でも、でも!」

 「なら、お前たちはこの町をよりよい町にすればいい。俺は、もうこの町にかかわることはほとんどないと思うからな」


 二人にそう言葉をかけてから、武装―――完装を解除した。


 すると、すさまじい倦怠感や痛みが襲ってきて、俺は意識を保つのが非常に困難になった。


 バタン!


 「翔一!?お、おい!しっかりしろ!」

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