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カラスの高み

 目が覚めると、玲羅がいなかった。


 その事実だけを確認した俺は、重い体をどうにか起こした。

 どうやら、相当な発熱だったようで、記憶すらも曖昧だ。にしても、久しぶりだったな、熱出すの。


 そんなことを考えながら玲羅の姿を確認するために、家の中をいろいろと見て回る。

 しかし、どこにもいる気配がなかった。


 「台所かな?―――いや、トイレかな?」


 あまりにも見つからないので、そんなことを呟きながら徘徊するも玲羅の姿を確認することはできなかった。

 さすがにこれはおかしいと思いながら、いろいろと見て回った。


 そうしていると、異変を見つけた。


 彼女の両親と祖父母を一緒に寝かせている部屋でだ。


 「あれ?玲羅の両親が―――もしかして」


 そこで、俺は一つの仮説を立てた。

 と言っても、現状証拠からはそうとしか言えないことだが。


 まず、彼女の両親が玲羅を連れ去った。

 これ確定だろう。だが、それ以外にも見るべきものはある。


 寄生されて、洗脳に近い状態である二人は、自身の意思で連れていくはずがない。そうなれば、おのずと連れて行くように指示したものが現れる。

 それが誰か。


 まあ、現状ではあの孝志とかいう男が最有力だろう―――が。


 あの虫の研究をしていた男―――石動東矢。奴が、俺の恋人に目を付けた。そう考えるのなら、合点がいくところもある。

 

 奴は、俺に対してひどい嫉妬心を持っていたからな。奴の性格上、なにをしてきてもおかしくはない。


 そう考えてしまうと、俺にとってどちらが犯人か絞りづらくなった。

 だが、居場所を割り出すのは、そう苦労しないはずだ。


 毎日、玲羅と共に過ごしたおかげで、ある程度離れていても、彼女のことを感じられるからな。

 ―――これは我ながら、キモイな。いや、玲羅なら受け入れてくれるさ。


 いつものことがこれから起きるとのことで、俺は車のトランクから、袴と刀を取り出した。

 今更だが、俺が袴を着る理由は慣れだ。


 昔から、あれを着て動いてきた。そうなると、逆に普通の服だと違和感を覚えてしまうだけだ。


 こうして、戦闘服に着替えた俺は、まず玲羅の場所を探るために強く集中する。

 幸い、この町一帯が意思のない人間ばかりで、逆に探しやすい。


 少し、ここの環境が俺に味方してくれたようだな。

 ―――まあ、明らかに爆発音が聞こえてくるんだけど……


 「まあ、行くか……」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「石動東矢―――簡潔に言うと、殺しに来た」

 「椎名翔一ィ!!」


 俺が爆発寸前の爆弾を処理したのが、そんなに驚きだったのか、怒りなのか驚きなのかよくわからない叫びを石動はぶつけてきた。

 だが、死にそうなところを助けたのだから、感謝してほしいくらい―――いや、あいつの感謝はいらねえな。反吐が出る。


 とりあえず、俺は玲羅のそばによると、孝志と楓花(だったか?)をその場に転がす。

 そのまま二人には、緊急用の飲み薬を飲ませた。


 「とりあえず、それ飲んどけ。色々言いたいことはあるが、ここまでよく粘った」

 「ケホッケホッ!あ、ありがとう……」

 「だが、あとで説教は確定だかんな。殺されないだけましだと思えよ?」

 「うっ……」


 状況は、今までの一瞬だけで理解した。

 とりあえず、この二人が敵ではないことが分かればそれでいい。


 そう思っていると、玲羅から声をかけられた。


 「翔一……」

 「ん?なんだ?」

 「―――私は、どうすればいいんだ?」

 「どう、って?」

 「私は、孝志たちを救うべきじゃない。助けるべきじゃない。そう思ったんだ。だって、町のみんなにあんなひどいこと……でも―――」

 「心の奥底で、こいつらに死んでほしくない。やり直してほしい。そう思ったのか?」

 「そう、だ……」


 それは、玲羅が優しすぎるが故の苦悩だった。

 俺に投げかけられた質問は、もしかしたら俺が返すには荷が重いものかもしれない。だが、聞き逃すばかりでもいられない。


 「俺は玲羅の考えていることの全部がわかるわけじゃないけどな。なんとなく考えてることはわかるよ。そのうえでさ、玲羅のしたいこと。心の奥底で少しでも思ったことが、玲羅の本心なんじゃないの?本能を理性で抑える。それは、社会において当たり前。でも、理性は本能を殺してはならない。少しくらい正直でもいいんじゃない?」

 「でも、こいつらは町の人を……」

 「そうやって、玲羅はいくつもある意見を一つにして吞み込もうとする。いいところだけど、悪いところでもある。そんなとこも好きだけど、必要か必要じゃないか。見極めればいいんじゃない?」

 「必要か、必要じゃないか……」

 「じゃあ、玲羅が助けたいと思うことに、過去は重要?」

 「それは、当たり前だろ」

 「でも、その二人は助けたいんだよね?」

 「―――確かにそうだが……」

 「人を助けたいと思う気持ちの核心には、過去じゃなく心がある。その人たちがどれだけ自分の心の中にいるか。その割合で、どんな逆境でも助けたいと思う気持ちが現れる。玲羅にとって、そこの二人は大切ってこと。なんじゃないの?」

 「大切……そうだ。私は、恋愛感情以前に、この二人が友達だ!友達なんだ!お願いだ!翔一、私の友人を―――」

 「みなまで言うな!もとよりそのつもりだ!」


 ドンッ!


 玲羅に言った一言。ただそれを言っただけで、俺はその場を強く踏み込み石動に斬りかかった。

 だが、腐っても奴は二家の人間。ほかの雑魚と違って、しっかりと防御、そこからの反撃。そこを見据えて俺の攻撃を受け止めている。


 彼は、トンファーを手に取り、俺の刃を受けている。


 「やっぱ持ち武器使うか」

 「ふん!君みたいな出来損ないに負けるほど弱くないからね!」


 俺が剣を使って縦横無尽に斬りつける。だが、相手もそのすべてを両腕に持つ武器で叩き落としてくる。

 はっきり言って、もはや一般人では追いつけないレベルのものだろう。


 お互いが距離を詰めて、取っての繰り返し。戦局は大きく揺らぐことはなかった。

 だが、俺の視界が一瞬ぐらついた。


 「うっ……」

 「隙あり!―――どうした?体調が悪いみたいだけど?」

 「うるせえなあ。安心しろ、あとで絶対殺してやるから」

 「できるものならやってみろ!」


 本調子じゃねえんだよ。だから、やるしか―――たとえ、不完全と馬鹿にされてても、強力な力なことに変わりはないしな。


 俺は武装を使い、仮面を顕現させた。

 相変わらず、なぜカラスなのか思うところはある。ただ、なんとなくその意味をつかんだ。


 もしかして、美織はこのことを見越してたのかな?

 だとするなら、俺のことを天才天才言ってたあいつのほうが、天才だよ。


 「不完全な力で僕を倒せると思うなよ!」

 「なら、お前は、自分が強いと過信するなよ」


 もう少し。もう少しで、高みへ……

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