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平和で優しい時間

 僕は天才が嫌いだ。


 なんの努力もせずに成果をあげられる。努力すれば、天才に追いつけるというがそれは詭弁だ。追いつけるのは、毎日毎日血のにじむような努力をした凡人だけ。そして、それは努力のしない天才にしか追いつけない。


 天才が努力を始めた瞬間に、他のものは追いつくことおろか、見ることすら許されなくなる。


 僕がそれを思い知ったのは、本家筋に生まれた条華院美織のせいだった。

 宗家の生まれの彼女は、史上最速で二家に存在しなかった理論を発見した。


 僕が何度も実験を重ねる中で、まったく到達のできなかったものにだ。

 その後、僕も努力し、結果を出した。だというのに、僕の評価はあの女を超えることができなかった。


 だが、それだけならまだ飲み込めた。

 あちらは純血。こちらは混血。言ってしまえば、生まれから決まっていた運命だ。


 しかし、僕のその考えは次に現れた男の手によって砕かれた。


 それが椎名翔一という男だ。


 技術宗家の条華院家とは違う。武術宗家の本筋に生まれた男は次々に成果を上げていくのを聞いた。


 不完全ながらも『武装』という新たな力の使い道を示し―――いや、あれの制御はかなりのポテンシャルがないと不可能だから、可能性とは言えないものだ。


 それでも、彼は誰よりも強かった。


 それだけならまだしも、あいつは条華院美織という女を超えていた。


 『アーカーシャ』


 ―――それを見つけ、実用段階まで利用できる状態に持って行った。

 技術宗家ですらないあいつが、この僕どころか頂点にいた女を超えた。


 だが、その新たな世界に導くであろう『アーカーシャ』をともに開発していた、椎名翔一と条華院美織はその研究資料の全てを放棄した。


 誰にも見つからないように、データすらも完全に破壊して。


 その後、奴らは失踪に近い形で家を去っていった。


 僕には許せなかった。


 天才でありながら、家から逃げた。

 評価されることのない家で過ごす僕のほうが逃げ出したいというのに。


 だが、そんな思いも今回の実験とともに消え去る。


 「見つけた……椎名翔一」


 この僕、偽神変鬼が―――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は風呂から上がってきた玲羅を見て、一番に異変を感じ取った。

 一番って言っても、俺しかいないんだけど……


 「なんか、玲羅……すっきりした?」

 「な、なんのことだ!?」

 「いや、なんていうかさ、肌が艶っぽい?いや、興奮が落ち着いたというか、そういう表情になってる」

 「き、気のせいじゃないか?」


 そう言うと、彼女は股をもぞもぞとさせながら床に座った。


 ……?なんだろうか、いつもの彼女と変わりないのだが、本当になんだこの違和感は?


 (ば、バレてしまったのだろうか?ま、まさかな……お、オ〇ニーをして、初めてだというのにすぐに達してしまったことがバレるはずがない……)


 そんな彼女の心情など、いざ知らず俺は肉の準備をした。

 だが、その最中にも、玲羅は顔を俯かせてぶつぶつとなにかを言っていた。


 「玲羅はなにしてんだ?」

 「い、違うんだ!―――わ、私もいけないことだと思ってたし、今までしたことなかったんだ。でも、してみたらすごく気持ちよくて……」

 「……な、何の話だ?」

 「……へ?」


 俺がなんの話か分からずに質問すると、我に返った玲羅は、俺の顔を見ながらふつふつと顔を真っ赤にしていった。


 「わ、忘れろ!」

 「マジで何?逆に気になるんだけど……」

 「うるさい!私はなにをすればいいんだ?」

 「あ、ああ……取り皿とかタレとか買ってきてるから、袋の中から出してほしいんだけど……」

 「わかった―――絶対に忘れろよ!」

 「お、おう……」


 さっきの言葉になにがあったのだというのか……

 初めて……気持ちいい……


 ピンとこないな。セッ〇スって初めては痛いらしいし、そもそも彼女ができる時間があるわけがない。


 じゃあ、どういう意味なのか……


 まあ、考えるだけ無駄ってもんだ。彼女が知られたくないというのなら、詮索を入れるのも可愛そうだしな。


 そんなことを考えていると、買い物袋から皿などをとってきた玲羅が戻ってきた。

 平静を装っているが、まだ頬が赤い。


 「ほら、玲羅座って」

 「ああ……」

 「じゃあ、いただきます」

 「いただきます……」


 ちょこんと彼女が俺の隣に座ると、ホットプレートで肉を焼き始めた。

 焼き始めのほうは会話がなかったが、テレビのニュースを見ながら肉を食べ始めると、自然と会話が始まっていた。


 「やっぱ田舎は、チャンネルが少ないな」

 「そうだな……私も、初めてのころは局が5つしかないのは驚いたものだ」

 「なんで、5つしかないんだろうな。もっとあってもいいのに」

 「まあ、今は配信もあるから、無理に見なくてもいいのだろうな」

 「そうか。そういえば、配信があったな」

 「にしても、翔一はアニメとか見るのか?」

 「ゴリゴリに見るよ。まあ、特撮のほうが好きだけどさ」

 「仮面〇イダーとかか?」

 「まあそうかな……あと、ウル〇ラマンとか……」

 「おすすめとかあるか?」

 「うーん、俺個人だけど、大人っぽい話なら平成1期の前半かな。昼ドラっぽいのが見たいなら、キバ。あー、でもWとかオーズもいんじゃない?―――でも、俺の一押しはビルドかなあ……放送当初は韓国でぼろくそに言われてた記憶があるけど……」

 「なにがあったんだ?」

 「戦争を題材にするなー、とかかな?」

 「フィクションにそんなことを言っても……」

 「それな!まじそれ!文句あんなら見なけりゃいいのに」


 そんな感じで会話に華を咲かせていると、あるニュースが飛び込んできた。


 『続いてのニュースです。指定暴力団の『成山組』が失踪したとのことです。

 ―――警察によると、1か月ほど前に忽然と姿を消したとのことで、事務所には逃げ出した痕跡はないものの、政治家との不正の証拠など、あらゆるものが残されており、捜査が続いているそうです』


 ここって……


 「この建物って、私たちの家の近くになかったか?」

 「うん……これあれだ。徹たちが連れ去られた時のやつだ」

 「え?じゃあ、失踪したんじゃなくて……」

 「俺が消したわ……帰ったら美織に連絡して―――大丈夫だな。あいつならこれに気付いて、警察の動きを止めてるはずだ」

 「それならいいのだが……」

 「じゃあ、食べよう食べよう!」


 そうして、俺たちは平和な時間を噛みしめながら肉を食べるのだった。

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