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邂逅1

 それなりに時間が経過した後、俺が目を覚ますと、謎の浮遊感があった。


 等間隔に浮き沈みを繰り返し、頭のほうからは「はぁはぁ……」と、もれるような吐息が聞こえてきた。


 俺は半覚醒状態の頭を持ち上げると、顔を真っ赤にした玲羅が俺の下敷きになっていた。


 「なにこの状況?」

 「はぁ……む?起きたのか?」

 「起きたけど、なにこの状況?」

 「いやあ、新しい扉を開いてしまったようだ……」

 「ごめん、やっぱ詳しく聞かないでおくわ」

 「……そうしてくれ」


 俺と会話して、少しだけ正気を取り戻した彼女は、ものすごく恥ずかしそうに消え入るような声でそう言った。

 すっげえ可愛いのだけど……


 時計を見ると、時刻は17時。そろそろ晩飯の準備をするか。


 「玲羅はなんか食べたいものある?」

 「うむ……私は翔一の作るものならなんでも―――って、これは困るんだよな?」

 「そうだな。ベタだけど、リアルに困るね」

 「むぅ……どうしたものか」

 「じゃあ、肉買ってきて焼肉にするか?ホットプレートあったし」

 「そうだな。じゃあ、父さんに頼んで車を出してもらおう。ちょっと待っててくれ、着替えてくるから」


 そう言うと、玲羅は浴室のほうに消えていった。

 その間、俺はホットプレートの状態を確認したり、善利さんに車出しを頼んだりしていた。


 しばらくすると、玲羅待ちの俺たちのもとに着替えた彼女がやってきた。


 着物から着替えた彼女は、スタイルのラインがぴっちりはっきりと出る服装だった。

 シャツを着て、下にはジーンズを履く。確かに、買い物に行くだけなら、正しいラフさだ。


 「すまない、遅くなってしまって」

 「化粧落としたの?」

 「む?鬱陶しいから落としたのだが―――もしかして、落としきれてないか!?」

 「いや、そんなことないけど……」


 戻ってきた玲羅は、化粧を落としていた。

 すっぴんもかわいいのだが、化粧をしているのならしているので―――


 「化粧してるほうも可愛かったけどなあ」

 「むぅ……まるで私のすっぴんが可愛くないみたいじゃないか?」

 「いや、そういう意味じゃないよ。もちろん、普段はかわいいし、抱きしめてても全然飽きないんだけど、化粧したほうも綺麗さが出てきて、それもまたいいって感じなのだけど」

 「い、いや、私が悪かった……それ以上はしゃべらなくていい」

 「えー、しゃべり足りないよ。玲羅を語るには全然時間が足りないよ」

 「う、うるさい!ダメったらダメだ!」


 俺がどちらの姿も褒めちぎると、彼女はものすごく恥ずかしそうにし、話を終わらせられてしまった。

 そのまま、俺たちは車に乗り込み、近くのスーパーに向かっていった。


 少しの間、車に揺られて到着したスーパーは、付近にそういったところがないのか、中々の人がこぞっていた。


 「ほら、早くいこう!翔一」

 「待て待て、そんなに焦らなくても大丈夫だろ」

 「そうよ。あんまり早く行き過ぎると、人とぶつかるわよお」


 スーパーについた玲羅は、恥ずかしさを隠すように勢いよく中に入っていった。

 あまりの速さに、俺たちが見失ってしまいそうだった。


 まあ、その後の精肉コーナーで会うのだが。

 ―――嫌な顔もあったんだけどな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 恥ずかしかった。

 やはり、べた褒めされるとどうしていいのかわからなくなる。


 すごくうれしいのは確かだし、もっと言ってほしい気持ちもある。ただ、どうしても翔一の前でにやけるのは抵抗感がある。

 べ、別に見られたくないとかじゃない。ただ、単純に私が慣れていないだけだ。


 先ほども、少し体が火照っていて、正常な判断ができず、馬鹿なことを言ってしまった。


 こんなのじゃ、私は翔一のことを幸せにするなんて……


 「あれ?玲羅じゃないか」

 「む……」

 「そんなに警戒するなよ。さっきは悪かったな」

 「なにしに来た?」

 「やだなあ、スーパーに来たんだから、買い物しに来たに決まってるだろ?」

 「料理をするのか?いや、お前はそういう奴じゃないな」

 「その通りだよ。楓花が作るんだよ」

 「お前の両親はつくらないのか?」

 「……今は忙しいからね」


 私は、孝志の変な間が気になった。

 両親というワードに反応したのか?


 忙しい。つまりは、それをする暇がないということ。


 孝志の親がどれほど忙しいか知らないが、昔に会ったとき、ご飯を作らなくなるような人ではなかった。

 たとえ忙しくとも、絶対に作るくらいマメな人だと思っていた。


 いや、3年も経てば変わるのかもしれないな。


 だが、もしかしたら孝志がなにか変わったのかもしれない。


 そう思うと、興味を持ってしまうものである。


 「お前は、私が好きなのか?」

 「なにを言っているんだ?だから、見合いをしたんだろ?それに玲羅もそう言ってたじゃないか」

 「いや、確認だ」

 「それで、なにを聞きたいの?」

 「うむ……なら、私の祖父母の様子がおかしい理由を知らないか?この村にだけ流行している感染症とか―――寄生虫とか」

 「……!」


 寄生虫という単語をだした瞬間、孝志は目を見開いた。

 確信した。こいつはなにかを知ってる。


 考えてみれば、私を手にするためにおじいちゃんとおばあちゃんを……

 ―――絶対に……絶対に許さない!


 そう思った私は、人目もはばからずに奴の胸倉をつかんだ。


 

 「お前か……お前が私の祖父母を……」

 「……なにを言っているんだい?」

 「知らないとは言わせない!環血脳黒虫―――お前はこれを知ってるだろ!」

 「……はあ、それをどこで知ったんだ?あ、あとね、あれは口から入ってくる」

 「なにを言って……まさかっ!」

 「そのまさかだよ。俺はそのままの君を手に入れるために―――でも、男のほうはなぜか効かなかったみたいだけど」

 「父さんと母さんも!?」

 「そうだよ。今頃、君の男は二人に刺されてるんじゃないかな?」

 「お前ぇ……」

 「あの男を助けたいのなら、俺の言うことを聞いてくれるかい?」

 「く……いや、翔一はまだやられると決まったわけじゃない!」


 私がそう言うと、孝志はそれがおかしいかのように笑い始めた。

 それは不気味で、気持ちが悪かった。


 「スーパーってさ、ここにしかないじゃん?そして、経口摂取による寄生虫。もうわかるよね?君の両親だけじゃないよ?」


 孝志がそう言うと、一瞬でほかの客の視線がこちらに向いた。


 もう皆まで言わずともわかる。


 ―――手遅れ……


 だが、次の瞬間だった。


 次々に一般客が倒れていった。


 「なに!?」

 「翔一か……?」

 「そんなバカな!」


 このありえないとでもいう状況で、孝志はうろたえた。

 そして、追撃のように男の声が店内に響いた。


 「よう、はぐれるから次は手を繋ぐぞ」

 「翔一!」

 「馬鹿な!なぜ生きてる!何人に襲われたと思ってる!」

 「うーん……10人先からは数えてないな」

 「くそ!」


 そう言うと、孝志は背を向けて走り去っていった。


 「追わなくていいのか?」

 「必要はない。俺が知りたいのは、なぜあいつが二家の研究結果である環血脳黒虫を所持しているのかだ。もう少し泳がせておかないと」

 「まだ、手遅れじゃないよな?」

 「ああ、あとで浸食を止めるために全員に睡眠薬を飲んでもらう」

 「そうか……」

 「にしても、玲羅もあんまり先走るな。綺麗な肌に傷なんかつけてほしくないからな」

 「……その、ありがとう」

 「なにがだ?」

 「助けに来てくれて」

 「……どういたしまして」

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