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天羽玲羅は揺るがない

 「やはり、あいつが―――または、あいつ持ちの研究者が関わっているのは確実だろうな……。だが、あんなものの実験に一般の田舎村を選ぶのを、ジジイが許すわけがない」

 「んー!」

 「無断……それとも、ここだけ特別に許可されている?どのみち、見逃せないな……」


 俺は、玲羅たちが家にいない間、一人で考えていた。


 あの黒い爪―――資料にあったものとおそらく同じ。

 あれだとするのなら、すでに玲羅の祖父母は寄生されている。


 はは……帰省先に寄生された人がいる。―――笑えねえ。


 だが、その危険性があるとなると、下手に動かしてやれない。また、食事中になにかを混ぜるかもしれないし、玲羅にはなにもしないだろうが、このままだと祖父母に反発している、玲羅の両親にも危険が及ぶ可能性がある。


 だが、まずは目的を探らねば……

 この田舎で実験を行う理由を見つけるために。


 ガラガラ


 そんな思考を巡らせていると、扉が開く音がした。

 玲羅たちが帰ってきたのだろう。


 「翔一!頼みが、あ、る……!?」

 「し、翔一君、なにしてるの!?」

 「き、貴様!ついに本性を現したな!」


 家に入ってきた三人が見たのは、俺が老人二人を縄で縛って椅子に座っている姿だった。

 まあ、はたから見れば、ヤバい現場でしかない。


 「事情があって……この二人に動かれるとまずいんですよ」

 「事情?」

 「守秘義務というか……しゃべるとマズいというか―――玲羅になら、教えられるんですけど、できることなら詮索せずに言うことを聞いてもらえると助かります」


 俺がそう言うと、玲羅を除いた二人は、不安げな表情をしている。

 事情を話せないのが引っかかるのだろう。


 だが、二人は俺の人柄を知ってくれている。そのおかげか、この異常な光景でも、二人は俺のことを信じてくれるらしかった。


 「翔一君」

 「はい?」

 「私の両親に何かあったのかしら?」

 「否定はしません。ただ、玲羅の幸せを願う気持ちは本物ですよ。たとえ、早苗さんの知っている人たちの言動じゃなくても」

 「任せて大丈夫か?」

 「善利さん、任せてください。パパっと解決して、パーっと飲み散らかしましょう!」

 「早苗……」

 「……私たちにできることなんてないわよ。あの時と同じ。学校で起きた襲撃事件の時と同じなのよ。翔一君に任せましょう」


 そう早苗さんは、あきらめたように言った。


 だが、俺はその空気を壊すように発言した。


 「なにもしてもらわないわけないでしょ?」

 「「「え?」」」

 「玲羅、一つ頼みがある―――」





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日、とある食事処にて、玲羅が着物を着て、化粧をした状態で座っていた。

 もちろん、両親も同伴で。


 現在、玲羅は見合いに来ている。しかし、相手は俺ではない。


 なぜこうなったかというと―――


 『玲羅には、見合いに出てほしい』

 『な、なぜ!?』

 『あまりにも情報がない。その探りを入れるために、見合いに出てほしい。もちろん、なにかあればすぐに助けられるように見張っておく』

 『き、貴様!玲羅をそんなことに―――』

 『構わない。翔一、それは私にしかできないんだな?できないから、どうしようもなくて頼んでいるんだな?』

 『そうだ。やってくれたら、俺は1日……いや、1週間、玲羅の言いなりになる』

 『貴様!玲羅にそんなことをさせるのなら、一生言いなりにならんか!』

 『お義父さん、それは俺と玲羅の結婚を認めてくれるってことですか?』

 『ふざけるな!』

 『父さんは黙っててくれ!……翔一に必要とされているのなら、いくらでも使ってくれ』

 『ありがとう、玲羅』

 『その代わりに、今、私の頭をぐしゃぐしゃにしてくれ』

 『!?』


 ―――と、言うやり取りがあった。


 もっと簡単に説明すると、今回の件が見合いに関与していると見た俺は、中心に近づきたいから囮やってくれと頼んだのだ。正直、恋人に囮なんてやってほしくない。できることなら、俺がやってた。だが、今回はそういうわけにもいかない。


 昨日のことを思い出していると、相手側も到着したみたいだ。


 「遅れました。まことに申し訳ありません」

 「大丈夫です……」


 ぴりついてるなあ。特に、善利さん?殺気がすごいよ?


 見合いに遅れてやってきたのは、なんというか普通にイケメンの男だった。

 事前情報によると、玲羅の知り合いとのことらしいが……


 「やはり、お前だったか」

 「ああ、玲羅。今日の見合いを楽しみにしていたよ。早速、式の日取りでも決めるかい?」

 「私、そういうことをなんのムードもないのに言ってくる奴は嫌いだ」


 ―――俺、大丈夫だよね?


 不安になる俺をよそに、見合いは進んでいった。

 趣味の話をするとかではなく、今までのことを話したり、男側がどれだけ玲羅のことが好きかを口説くだけだったが……


 まあ、見合いの形はそれぞれだ。


 「では、あとは若い二人に任せて……」

 「……そう、ですね」

 「二人とも、私なら大丈夫だ」


 玲羅のその言葉に、早苗さんたちは部屋を後にした。

 残ったのは、宣言通り、玲羅と相手の孝志とかいう奴だった。


 この後のことをいろいろと考えながら、見張っていると、玲羅が指示にないのに急に踏み込んだ。


 「孝志、なにが目的だ」

 「目的?玲羅を嫁にすることだよ?」

 「私を嫁にして、どうする?」

 「俺はここの地主の息子なんだぞ?いっぱい贅沢させてやる。いっぱい、うまいもん食わせてやるよ」

 「……違うな」

 「なにがだ?なにも嘘を言ったつもりはないぞ?」

 「そうじゃない。お前はずれてる。これなら、私はお前を好きになることは絶対にない」


 嬉しいことを言ってくれているのだが、あまり刺激してほしくないんだよなあ……


 「馬鹿なことを。それともなんだ?あの、都会育ちの男のほうが玲羅を幸せにできると思ってるのか?」

 「そうだ。あいつなら、私を幸せでいっぱいにしてくれる」

 「根拠は?」

 「今がそうだからだ」

 「将来、その彼氏とやらの収入で暮らしていけるのか?本当に幸せになれるのか?乗り換えたほうが賢明だぞ?」

 「はあ……」


 男の口説き文句を最後まで聞いた玲羅は、最終的に大きなため息をした。これ以上は聞いていられないという感じだ。


 「馬鹿か?」

 「は?」

 「だいたい、お前は翔一のなにを知っている?収入がなんだ。共働きして、400万ずつ年収で稼げば、二人で800万。十分生活できる。親の金をあてにする男よりよっぽどいい」

 「だけど、そんな少額じゃ……」

 「そもそも、私は高いご飯を食べることが幸せなんじゃない」

 「だけど、昔は食べるの大好きだったじゃないか!」

 「おいしいものを食べるのがな。言い方は悪いが、有象無象に向けて作る料理など、私に対する感情は何もない。それに比べて、翔一の作るご飯は、私に対する愛情をひしひしと感じる」

 「だけど……」

 「まず前提として、なんだその幸せにしてやる、とか上から目線は。気色悪い。翔一もたまにそういうことを言うが、全然ものが違う。お前の上から目線口調と翔一の上から目線口調。なにが違うかわかるか?」

 「知るかよ……」

 「心だよ。翔一の言葉には、心から思っていることを言うから、私も気分がいいし、幸せな気分になれる。それに比べて、お前の言葉は上辺だけ。本当に私が好きなことは伝わってくるが、それだけだ。それ以上がない。それは私が求めることではないかもしれないが、普段から翔一という愛の権化からもらっているものに比べると、お前の言葉は陳腐でありきたりでおぞましい」


 玲羅が言い終わると、男はなにも言い返せなかった。

 というか、雰囲気に圧倒されて、黙り込んでいた。だが、その眼には明らかな闘志が生まれていた。


 強い女を服従させようという闘志が。

 普通にキモイな。玲羅のズレているの言葉も、あながち間違ってないのかもしれない。


 だが、玲羅は言いたいことを言い終えると、見合いの場を立ち去ってしまった。

 あらあら、まあ、得られるものはなさそうだし、このまま帰るか。


 俺も玲羅の言葉を聞いて、思いっきり甘やかせたいし。

 帰ったら、ほっぺをぐちゅぐちゅにしてやろ。あのやわっこいほっぺをふにふにいじるんだ。

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