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異変

 玲羅の実家に着いてから、正直なところ気分はよくなかった。


 歓迎、という空気でもなかったし、あからさまに俺のことを無視したりと、やっていることが口うるさい姑みたいだ。

 だが、玲羅と早苗さんたちは俺に気を使ってくれたりしてくれているから、本当につらいというわけではない。


 珍しく善利さんもこちら側についているしな。


 だが、それでもいづらいもので……

 俺は到着してから、小1時間ほどしかたっていないが、帰りたくなっていた。


 「すまない、翔一」

 「気にすんな。俺がついてくるって決めたんだから」

 「だが……」

 「自分で決めたことは自分でやり通す。それが男ってもんだろ?」

 「そういうのはかっこいいと思うのだが……」

 「だが?」

 「やっぱり、そういうのは翔一が疲れたような顔で言っているのを見ると―――やるせなくなる……」


 こうやって玲羅に心配されてばかりだ。

 彼女には、謎のお見合いが控えているんだ。あまりこちらに目を行かせたくもない。


 そうこうしていると、玲羅の祖母が昼ご飯を作ってきた。


 「ほらほら、お昼の時間だよ。ほら、準備して」

 「お義母さん、私が運びます」

 「あら、悪いわねえ」


 テキパキと周りの人が動くが、俺と玲羅は動かない。というより、動かしてくれない。俺はともかく、なぜ玲羅まで?

 と、思うかもしれないが、彼女は祖父母が単純にただ座っているだけでいいと言ったからだ。

 彼女は、その言葉に対して食い下がったのだが、祖父母は聞き入れてくれなかった。


 俺はお察しだ。


 だが、玲羅の両親が準備をしてくれているので、一応俺の分の食事は出てくる。


 「「「いただきます」」」


 その言葉とともに、全員が食事を始める。

 しかし、食事中だというのに、かなり空気が悪い。


 誰もしゃべらない。早苗さんと善利さんが目に見えて機嫌が悪いのはわかるのだが、不気味なのは祖父母のほう。


 一切の感情の起伏を感じられない。

 普通なら、どうなのかはわからないが、これがどの家庭とも違うことぐらいは―――そして、玲羅の実家としてもおかしいこともわかっている。


 「おじいちゃん、おばあちゃん。なんで、私をお見合いに?」

 「それはねえ、玲羅の幸せを願っているからだよ?」

 「それはね、悪い男に引っかからないためだよ」

 「こっち見んな」


 玲羅の質問に彼女のためだと言う二人。そして、悪い男と言ったときに、俺に視線が向いた。

 正直、気色が悪い。


 もう、俺の違和感は確実ものになりつつある。


 それに―――


 食事を終えると、またも両親たちが皿を片付け始めた。

 俺たちも先ほどと同じで、動こうとはするが、すぐに止められる。


 「玲羅は、ゆっくりしていなさい。ここで綺麗な肌に傷でもついたら、相手に示しがつかないわ」

 「だ、だが、そのくらいは気を付ければ!」

 「その慢心がいけないの」


 そう言いあっているうちに、片付けは終わり、玲羅は渋々おとなしくするしかなかった。


 そんな中、俺は玲羅と彼女の両親にあるお願いをした。


 「玲羅」

 「なんだ?」

 「甘いものが食べたいなあ……早苗さんたちと買ってきてくれないかなあ……」

 「翔一君?」

 「翔一、どうしたんだ?お前は、人を使いっ走りに使ったりするような―――」

 「……頼む」

 「……っ!わかった。父さん、母さん。近くのスーパーとか回ろう」

 「え、玲羅?なにするつもりなの?」


 俺の言葉の意図を理解してくれたのか、玲羅は困惑する二人を連れて、車に乗っていった。


 3人を乗せた車が発進したのを確認すると、俺は玲羅の祖父母に向き直った。


 「いつ眠るか見ていたいのか?それとも、俺が一人になって都合がいいか?」

 「「……」」

 「言っておくが、俺に睡眠薬は効かないぞ。というより、あらゆる毒物も俺に効かない。俺ってば、不眠症になったらどうするつもりなんだろうな?」


 俺の言葉に、二人の眉が動いた。―――やっぱりだ。


 俺の食事の時に感じた、もう一つの違和感。食事に混ぜられた睡眠薬だ。

 必要がないので、おそらく俺以外には入れていないはずだ。―――憶測の段階で車に乗せたのは、やばかったかな?


 「黙ってても、意味ないぞ?」

 「なんでわかった?」

 「わかるんだよ。俺にはな」

 「なぜわかった?」

 「はあ……あんま舐めんじゃねえぞ―――現存人類種の老体ごときが」


 俺は、たまらずに祖父のほうの胸倉をつかんだ。あまり絞めると死んじゃうから、そこは注意してる。


 「ぐ……」

 「なにが目的だ?」

 「玲羅の……ため」


 俺の質問に、そう答える祖父。


 だが、俺は気づいた。二人の目から光が消えていることに。

 そして、どちらも、右足の親指、人差し指の爪が黒く変色していることに。


 まさか―――




 あいつの仕業か?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 私は、今翔一に頼まれて外に出ていた。

 ついでに、翔一が言っていた甘いものを探している。


 「玲羅、なんで翔一君の言うことを?」

 「そうだな。翔一が普段、あんなことを言わないからだな」

 「どういうことだ?」

 「父さんと母さんは、翔一がなんの意味もなく人を使いっ走りにすると思うか?」

 「そうだな。いけ好かない男だが、そういうねじ曲がったことはしないように思うな」

 「それもそうねえ……」


 私の言葉に、二人が同意してくれる。

 両親が、翔一のことをいい人だと認めてくれている証拠だ。他人のことだが、自分のことのようにうれしい。


 「その翔一が頼んだんだ。私は何も聞かずに信じるだけだ」

 「玲羅、あなたねえ……」

 「む?なにかいけなかったか?」

 「どんだけいい子なのよ。健気に翔一君のことを信じて」

 「あいつが私に害のなすことをしないのは、もうわかってる。だから、私だって好きになるし、信用もできる」

 「早苗、玲羅がこう言うんだ。私たちもあの男を信じてみるべきじゃないのか?」

 「あら?私は、翔一君の動きが気になっただけで、疑ってはないわよ?あなたこそ、翔一君のことを『あの男』呼ばわりして、あなたこそ疑ってるんじゃないの?」

 「なんだと!」

 「二人とも、夫婦喧嘩は家でやってくれ……」


 そんなやり取りをしながら、店のスイーツコーナーを見て回っていると、懐かしい顔があった。


 「あれ、玲羅ちゃん?」

 「む……もしかして、楓花か!?」

 「そうだよ!わー!3年ぶり?それとも4年?久しぶりだね!」

 「そうだな。楓花はかわいくなったな!」

 「えへへ、嬉しいな。そうだ!孝志も来てるよ!」

 「あいつもいるのか!?」

 「楓花、うるさいぞ―――って、玲羅か?」

 「ああ、久しぶりだな」


 今、私としゃべっている楓花と孝志。こいつらは、この田舎在住の人物たちで、私が小さいころによく遊んだ仲だ。もちろん、帰省中だけだったから、会えないことのほうが多かったが。


 懐かしい顔ぶれに会うと、なんだか嫌な気分もすっと軽くなったようだ。


 「にしても、玲羅も昔はずいぶんクールだったのに、可愛くなったな」

 「そうだね。昔に比べて可愛くなった!お肌も綺麗だし……ねえねえ都会の化粧とか教えてよ!」

 「あ、ああ……」


 二人にかわいくなった、と言われて、少し心に引っかかりを覚えた。

 いや、その言葉そのものは嬉しいし、昔と変わったのは自覚しているつもりだ。


 だが、昔より可愛くなった。


 翔一なら―――


 『玲羅は、前からずっと可愛いよ』


 と言ってくれるはずだ。


 なんだろうか、この二人にいっぱい褒められるより、翔一の「好き」と「かわいい」の一言のほうが嬉しい。

 これが、人を好きになることなのか?―――わかっているつもりだったが、こんなにも心に入り込んでくるのだな。愛する人の言葉は……


 「あれ?玲羅ちゃん、どうしたの?」

 「な、なんでもない……二人に褒められすぎて、恥ずかしくなっただけだ」

 「あはは、玲羅の恥ずかしがりなところは昔から変わらないな」


 そう言って、孝志は私の頭を撫でてきた。


 その瞬間、ゾワっとしたものがこみ上げてきた。そして、気づけば、私はその手をはらっていた。


 「玲羅?」

 「気安く、私に触れないでくれ。昔とは違うんだ。―――父さん、母さん、翔一の頼みはこれで大丈夫だ。もう行こう」

 「もういいの?」

 「早苗、帰ろう」

 「善利さんが、そう言うのなら……」


 車に揺られている中、私の心は早く翔一に頭を撫でてほしい、と叫んでいるようだった。

 ―――翔一……やっぱり、私はお前以外考えられない。


 「あーあ、怒らせちゃったね」

 「そんなに怒ることか?昔はよくやったろ?」

 「孝志は、乙女心をなんにもわかってないよ。やっぱり、あの男が私たちの邪魔をする奴だよ」

 「そうか、なら消さないとな」

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