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田舎に到着

 翌朝


 昨日の夜中に早苗さんが運転を変わったのだが、善利さんのせいで眠すぎて無理と言い始めたので、代わってからさほど時間のたっていない早朝に運転手を変わってもらっていた。


 現在、早苗さんは疲れすぎてぐっすりだ。


 「母さん、深夜の運転は大変だったのか?」

 「い、いや……玲羅の父親の運転が……」

 「なぜ、翔一まで満身創痍なんだ?」

 「き、気にしないで……」

 「さすがにそれは無理がるだろ……」


 そう言いながら、俺たちは社内で過ごしていた。

 運転手の善利さんは、ほぼ無尽蔵であるかのように疲れなど感じさせない運転していた。


 もしかして、玲羅の運動能力って善利さん譲り?


 「あ、善利さん、朝食とるんで、次のサービスエリアに入ってもらえます?」

 「わかった」


 俺が伝えると、善利さんは特に何も言うことなく車線変更をしてサービスエリアの駐車場に入っていった。


 車を停めると、俺はすぐに荷物の中から弁当を取り出した。


 中身は、運転手のためにすぐ食べられるよう、おにぎりなどだ。


 「苦しくなるまで食べるのもあれだから、あんまり作ってきてないですけど、足りなかったら個人で買い物なり―――この時間やってねえか」

 「そうだな。まあ、それなりに量はあるし、私は二つ程度で十分だ―――早苗、朝飯の時間だ。起きろ」

 「んぁ?善利さん……?」


 さすがお義母さん。玲羅そっくりだ。


 全員でおにぎりを食べていると、善利さんが食べ終わったのか、全員に確認を取って運転を再開した。


 「代わらなくていいんですか?」

 「大丈夫だ。まだ、全然余裕だ」

 「なら、良いですけど」

 「むしろ、早苗の調子がよくなさそうだ」

 「「え!?」」


 俺と玲羅は驚いた。


 さっきまで元気におにぎりを食べていた早苗さんが、体調が悪いなどと誰も二人とも思わなかったのだ。

 正直、今も汗が少し出てるかなくらいのものだ。


 「よくわかりましたね」

 「何年早苗の夫をやっていると思っている。私以上に早苗の機微に敏感なものはいない」

 「はあ……とりあえず、解熱剤飲ませます?それとも、酔い止め?」

 「そうだな……解熱剤で頼む。寝ればどうにかなるとは思う」

 「わかりました」


 俺は善利さんに言われたとおりに、俺の手荷物から解熱剤と水を出し、早苗さんに飲ませた。


 「準備がいいな、翔一は」

 「まあ、薬は市販薬ならだれでも使えるからね。まあ、世間的には他人の家の市販薬は飲まないほうがいいみたいなことは言われてるけど、こういう時はいいでしょ」

 「そうだな……母さんもアレルギーとかは聞いたことないしな」


 早苗さんも無事眠り、起きているのは運転手を除いて俺と玲羅だけになった。

 とは、言いつつも昨日の夜から今まで、まともに寝れていない俺も限界だった。


 「玲羅……そろそろ限界かも……」

 「眠いのか?」

 「ちょっとな……」

 「じゃあ―――ちゅ……」

 「……あのなあ」

 「おやすみのちゅー、だ。おやすみ、翔一」

 「善利さんが荒れるぞ」


 そう言って、俺は目を閉じた。


 ―――数時間後


 「翔一……起きてくれ……」

 「……玲羅か?」

 「ああそうだ―――じゃなくて、もうすぐ着くぞ」

 「ああ、もう?」


 玲羅に起こされた俺は、重たい体を起こして外を見渡すと、一面が田舎に様変わりしていた。

 だが、なんだろうか、見覚えが。


 今の俺の家に来る前に通った場所と少し似ているような……


 「ここが、早苗さんの実家……」

 「そうよ」

 「あ、起きてたんすね。体調大丈夫ですか?」

 「まあ、本調子じゃないけど、全然動けるわ。正直、善利さんの運転のせいで酔っただけよ」

 「あ、じゃあ酔い止めを」

 「ありがとね」


 玲羅に起こされてから、しばらく車に揺られていると、田舎の中にあるかなり大きな家の前に車が止まった。


 「到着だ」

 「久しぶりだな……」

 「そうねえ。ほら、翔一君、こっちに」

 「あ、はい」


 俺は早苗さんに連れて行かれるままに、家の玄関の扉の前に立たされた。

 俺が少し緊張していると、玲羅が軽く手を握ってきてくれた。


 「大丈夫だ。祖父母は悪い人じゃない。言えば、ちゃんとわかってくれるはずだ」

 「そうだよな―――ん?」

 「どうした?」

 「いや、今誰かに見られてたような……気のせいだな」

 「もしかして、幽霊?」

 「んなわけあるか」


 そんなやり取りをしていると、ガラガラと扉が開けられた。

 中からは、優しそうな老夫婦が出てきた。


 「あらあら、早苗、お帰りなさい」

 「お義父さん、お義母さん、お邪魔します」

 「善利さんも久しぶりだね」

 「おじいちゃん、おばあちゃん、お久しぶりです」

 「玲羅ちゃんも、しばらく見ない間にかわいくなったねえ。―――ところで、その隣の男は?」

 「あ、椎名翔一です。玲羅―――お孫さんとお付き合いさせてもらってます」

 「……ああ、あの害虫か」

 「あ?」

 「お母さん、翔一君に失礼なこと言わないで!」

 「おや、悪かったねえ。それじゃあ、家に上がっていき。おもてなしはちゃんとするから」


 そう言われて、引っかかることはあったが、おとなしく家の中に入っていった。


 正直なところ、この先については不安しかなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翔一たちが到着したころ


 物陰から車の様子を伺う影があった。


 影は、田舎の外から来た車がなんなのか見るために、物陰から監視しているのだ。


 だが、影の思惑とは違い、その車は昔馴染みの祖父母の家に停まった。

 中から出てきたのも、昔よく一緒に遊んだ女の子だった。


 影は、一目散に走り去り、仲間の家に転がり込んだ。


 「どうした、楓花ふうか?」

 「玲羅ちゃんが来た!」

 「マジか!もう3、4年ぶりくらいか?」

 「これで孝志たかしと結婚すれば、私たちは―――」

 「楓花、そういう話は見合いが終わってからだ」

 「そう、だよね。でも、玲羅ちゃんに男が……」

 「ああ、聞いてる。でも、俺たちには宗家の方が協力してくれているんだ」

 「じゃあ、絶対にあんな男なんて追い払えるよね!」


 二人が話している姿を誰も見ていない。


 いや、誰も見ることはできない。なぜなら―――


 「長かった。やっと、玲羅を嫁にできるんだ……」

 「うん!これで孝志の恋がようやくかなうんだよね!私も精一杯協力するよ!」


 ―――なぜなら彼女たちにあらがうことができる存在など存在しないから。

 この田舎では、現在一番強いのは、この二人だから。





 誰も抗えない

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