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出発

 一週間後


 出発は夜の七時。

 晩飯を食べてから、車で移動とのことらしい。


 到着時間はおおよそ10時。明日の朝飯だけ、俺が弁当として作っていくことになった。


 だから、俺の家のリビングには大量の荷物が置かれていた。

 個人のバッグやスーツケースなど多岐にわたる。


 「玲羅、忘れ物とかないか?」

 「翔一、気が早いぞ。まだ、出発までは時間があるんだ」

 「それもそうか」


 運転は善利さんと早苗さんが交代で行う。

 さすがに免許持ってないので、俺は運転に参加できない。


 そして、今は晩飯をみんなで食べているところだ。


 「悪いわねえ、翔一君。今日の夜ごはんとか明日の朝ごはんとか準備させちゃって」

 「いいんですよ。俺にとって飯作ることは苦じゃないので」

 「あら?まるで私が毎日苦労してるみたいな言い方じゃない」

 「いえ、そういう意味では……」

 「冗談よ。まあ、体調にもよるけど、おいしいって言ってくれるのがたまらなく嬉しいのよねえ」

 「めっちゃわかる!玲羅なんて、おいしそうにいっぱい食べるから、作ってあげたいって気持ちになるんですよ!」

 「善利さんもよ。やっぱり、翔一君はいいお嫁さんになるわねえ」

 「ハハハ!冗談を。俺は玲羅を“嫁”にするんですよ」


 そうして、俺と早苗さんの飯づくり論議が繰り広げられていき、口々に「かわいい」だの「見てて飽きない」だの、二人をべた褒めしていた。

 気づいたら、玲羅と善利さんは顔を真っ赤にしながら箸を進めていた。


 あらやだ、かわいい。


 「翔一、そのくらいにしてくれ……」

 「あらあ、玲羅がこんなに真っ赤に―――翔一君、もっと話しましょ!」

 「母さん!」

 「いいですね。もっと二人を辱めてやりましょう!」

 「翔一!」


 ちなみに結乃は、すでに美織の家にいる。

 俺が帰省に同伴している間は、家に帰らずに美織の家で過ごすらしい。


 迷惑はいくらかけても大丈夫だが、結乃は生きて帰ってこれるだろうか?

 あいつはまだ知らないからなあ。美織の家にいるとどんなことになるか―――裸族になんないよな?


 俺は一抹の不安を覚えたが、晩飯を済ませたら出発の時間だ。


 「じゃあ、みんな忘れ物はないわねえ?」

 「俺は大丈夫です」

 「私もだ」

 「善利さんはいいわね」

 「……大丈夫だ」


 全員で忘れ物確認をした後、俺たちは全員車に乗り込み出発した。


 そういえば、ながらく車に乗ってなかったな。

 移動は自分の足でよかったし、なにより両親が死んで、車を扱えるものがいなくなったからだ。


 「子供たちは、運転しないから私たちに構わず眠ってていいからねえ」

 「わかりました」


 出発してから少しして、まずはコンビニによってコーヒーなどを買ってから高速に入っていった。


 高速に入ってからずいぶんと長く同じような光景が続いたからか、玲羅がうとうとし始めた。


 「眠いなら寝ていいんだぞ?」

 「んん……もう少し、翔一の顔を見ていたい」

 「外の景色を見てたんじゃねえのかよ」

 「いや、外の景色を眺めている翔一の横顔に見惚れていたんだ……」

 「眠すぎて変なこと言ってるぞ?」

 「いいや、変なことなんて―――むにゃ……」


 力尽きた玲羅は、俺の手を握りながらその意識を手放した。

 俺はあまりにもかわいい玲羅の寝顔にいたずらをしてみることにした。


 つんつんと玲羅のぷにぷにの頬をつついてみたり、頬を撫でてみたり。

 玲羅は眠りながら「んぅ……」とつぶやきながら寝息を立てるだけだ。唯一といっていいのかはわからないが、撫でるとき、彼女は本能的に俺の手にすりすりしてくる。


 その姿がかわいいのなんのって。


 「翔一君は玲羅が大好きねえ」

 「そうですね。たぶん、この世界で一番玲羅のことを愛してる自信がありますよ」

 「そう?私の子供への愛も負けてないわよ?」

 「子供愛と性愛だったら、後者のほうが強いに決まってんますよ」

 「あら?そんなことないわよ?―――玲羅は私たちの一人娘。何よりも大事に育ててきたのよ」

 「いいや、俺は玲羅の甘えたい願望を表に引きずり出すくらい愛してきました」

 「私のほうが!」

 「俺のほうが!」

 「いいや、私が一番玲羅を愛している!」

 「「善利さん!?」」


 俺と早苗さんが、玲羅への愛を言い合っていると、突然運転手であった善利さんが入ってきた。


 「私が―――私が玲羅を一番愛している!」

 「熱量が……」

 「すごいわねえ……」


 彼のそれは、俺たちの比じゃなかった。

 たとえるのなら―――そう、燃え上がる炎のような勢いだった。


 「玲羅はなあ!子供のころにお父さんと結婚するって言ったんだ!」

 「それだけ?」

 「娘の子供のころの発言をいつまで生きがいにしてるのかしら、この人は」

 「なんだと!私の玲羅への愛は本物だ!今、結婚してくれと言ったら、私はする!」

 「この人、堂々と浮気どころか重婚宣言してますよ」

 「私、なんでこんな犯罪者予備軍と結婚しちゃったのかしら……」

 「うるさい!私はやると言ったらやるんだ!」


 キキキキキキキキキ!


 「善利さん!運転!」

 「あなた!馬鹿なこと言ってないで運転に集中して!」

 「うおおおおお!」

 「叫んでんじゃねえよ!集中しろ、馬鹿!」

 「そうよ、翔一君の言う通りよ!」


 そんな感じで、俺は一睡もできないまま交代地点のサービスエリアにやってきた。

 善利さんが飛ばしすぎたせいで、満身創痍だが予定より早く移動できている。


 「玲羅……」

 「んぅ……なんだ?」

 「トイレ休憩だから、今のうちに行っておけ」

 「そうか……」


 俺が呼びかけると、眠たそうな彼女はふらふらとサービスエリアのトイレに向かっていった。


 「翔一君は行かないの?」

 「ああ、じゃあ行ってきます」

 「玲羅がうろうろしてたら、連れてきて頂戴ね」

 「了解です……」


 眠い。善利さんのせいで寝れなかった……


 俺がトイレで用を足し、男子トイレから出てくると、玲羅がよくわからない場所でうとうとしていた。

 まじかよ……


 俺はそんな彼女に近寄り、声をかけた。


 「玲羅、トイレ行ったか?車に戻るぞ」

 「……?えへへしょういちだあ」

 「寝てんのか?起きてんのか?まあいいや。行くぞ」

 「抱っこ」

 「え?」

 「抱っこして」


 そう言う玲羅は大きく腕を広げて、抱っこを待っていた。

 それをしないとぶーぶー言いそうなので、俺は仕方なく彼女をお姫様抱っこした。


 周りの目があるが、もう仕方がない。


 「えへへー、翔一のお姫様抱っこー。私お姫さまー」

 「酔ってんのか?」

 「しょういち……しゅきー」

 「はいはい、俺も好きだよ」


 そんなこんなで車に玲羅を運んだ俺は、早苗さんの運転でようやく眠れるようになるのだった。


 俺たちのドライブはまだ終わらない……




 ―――いや、終わってくれよ。

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