帰省に同伴することになった
「帰省したい?」
「ああ、私も小学6年以来、田舎に言っていなかったからな。祖父母に顔を見せなければ」
「へー、いつ?」
「お盆の時にしようかと連絡が来ている」
「あー、1週間くらいか―――わかった。その間は、玲羅が帰ってくるのを気長に待ってるよ」
「そ、それなんだがな……」
帰省したい。
そう切り出した玲羅は、とても歯切れが悪かった。
別に、そんなことで絶対に行くな、とかDV彼氏みたいなことは言わないのに
だが、そういうわけでもなさそうだった。
「翔一に、来てほしいんだ……」
「……?なして?」
「その……」
「お兄ちゃん、義姉さんはお兄ちゃんと離れたくないんだよ。―――ね?」
「そ、そうだ」
「なんか歯切れ悪いんだよなあ。なんか違う理由ない?」
「それは……」
その玲羅の態度で、正直嘘ではないが、隠していることはわかった。
俺は彼女の恋人だぞ?すべてとは言わないけど、彼女は口下手なところがあるし、察してなんぼなところはあるからな。
「全部話してくれとは言わないけどさ、そこらへんがはっきりしないと俺も動けないよ。いくら俺が玲羅全肯定男だとしてもさ」
「お兄ちゃん、それ自分で言って悲しくないの?」
「へ?どこが?」
「はあ……」
「わ、私は、翔一をそんなに都合のいい人だと思ったことないぞ……」
「まあ、それはそれとして。離れたくないなら、それでもかまわない。嬉しいし。でもな、本当の理由は話してほしい。対策を一緒に考えられるしさ」
「翔一……」
俺の言葉に、彼女は観念したのかすべて話してくれた。
この間、祖父母と電話をした際に彼氏ができたか?と聞かれたときに、いると答えてしまった結果、帰省の時に連れてきなさい。と、言われたらしい。
―――なんで?
「流れはわかったけど、なんで俺が行かなきゃいけなくなった?」
「そ、その……私の祖父母は、私を田舎のほうで見合いでもさせるつもりだったらしくて、別れさせるために……」
「わかった。準備するから、必要なものとか教えて」
「来てくれるのか?」
「まあな。スルーしてやり過ごすのが、一番楽な方法かもしれないけど、なんか嫌な予感もするし、今回だけだぞ?」
「大丈夫だよ義姉さん。義姉さんが上目遣いで頼んだら、何回でもしてくれるよ」
「言うなよ。否定はしないけど」
と、言うわけで、俺は玲羅の母方の実家の帰省についていくことになった。
その日の夜、久しぶりに玲羅の母親の早苗さんと父親の善利さんが家にやってきた。
リビングに招き入れると、二人はすぐに俺に頭を下げた。
「ごめんなさいねえ。まさか、こんなことになるなんて思ってなくて」
「まだ、お前のことを玲羅の彼氏と認めたわけではないが、大事な娘をわけのわからん男に嫁がせるなど、絶対に許せないのでな」
「別になにも怒ってないですよ。むしろ、玲羅と一緒にいられる時間が増えるからありがたい限りです」
「悪いわねえ。翔一君の優しいところに付け込んじゃう感じで。それにしてもどうしたのかしら、急にお見合いなんて……」
「……?そういう人なんじゃないんですか?」
俺は早苗さんの言葉に疑問を持った
お母さんの言葉だと、まるで昔はお見合いなんかさせない人たちだったと言っているようなものだ。
「私、大学卒業するくらいに身籠ったって言ったけど、あれって正確には卒業前なの。それなのに、両親は―――玲羅の祖父母は結婚を快諾してくれたのよ。私のことを幸せにするのなら、問題ない、って」
「確かに変ですね。急に心変わりしたとか?」
「それはない。お義父さんとお義母さんは自由恋愛で結婚している方々だ。だというのに、孫に見合いなど強制する、などというような人たちではない」
善利さんの言葉に嘘のようなものはない。本当にそういう人たちなのだろう。
だが、心変わりしないことの確証ではない。どのみちいかなくちゃならないのだろう。
玲羅の祖父母に対する疑念が膨らむ中、俺の代わりに晩飯を作っていた結乃がリビングに入ってきた。
「私は行かないからね。みお姉のところに泊まる予定だから」
「わかった。美織はそれ知ってんの?」
「うん。夏祭りの時に話したから」
「じゃあ、玲羅の祖父母の家には、俺だけが同伴するということでいいですか?」
「そうねえ」
「そういうことだ。今回は本当に迷惑をかける」
「いいですよ。玲羅を嫁にもらえるんだから。―――お義父さん?」
「君にお義父さんと言われる覚えはない!」
「善利さん!」
「父さん、いい加減にしてくれ!」
その後、娘と妻に絞られた善利さんは拗ねて、リビングの端っこで小さくなっていた。
別に、あのやり取りも面白いからいいんだけどなあ。
「翔一君、私は応援してるからね」
「あはは、ありがとうございます。娘さんは絶対に幸せにしますから」
「し、翔一……」
「嬉しいわねえ。玲羅にこんなかっこいい彼氏ができるなんて」
「私は認めないぞ!」
「あなたはお黙り!」
「しゅん……」
二人が帰宅した後、俺と玲羅は自室に入って今後のことについて話をすることになった。
そして現在、彼女を抱きしめながらベッドの中に入っている。
「ごめん、翔一。巻き込んでしまって」
「いいって。俺と玲羅は、もう家族なんだから」
「ありがとう……本当に優しいな。それに甘えてしまいそうだ」
「別に、好きなだけ甘えていいのに」
「だ、ダメだ……私が駄目人間になってしまう」
「いいのに……」
静かに少しずつ話を進めていくと、彼女は甘く寂しい雰囲気の中で、俺の首筋に吸い付いた。
ちゅうちゅうと何度も吸い付いてくる。彼女の体温や湿っぽさが首から脳へと伝わってくる。
ただそれだけで、脳が蕩けてしまいそうだ。
「ふぅ……しばらくぶりだな。翔一にキスマを付けるのは」
「そうだな。もう消えつつあるな」
「だから、もう一度―――翔一は私の物だという証を……」
「はいはい……」
そうやって何度も俺の体に吸い付く玲羅を、俺は優しく抱きしめながら後頭部を撫でた。
彼女の髪の触り心地も相変わらず気持ちがいい。
毎日、ちゃんと手入れしているしな。
「翔一……ん」
「はあ、いつの間にそんなことを覚えたんだ……」
「いいから―――んー!」
「はいはい」
キスマを付け終えた彼女は、俺に目を合わせると、今度は甘えるような口調で目を閉じて、キス待ちの態勢になった。
俺はそんな玲羅の唇に少しだけ焦らすように口を閉じて口づけをしてみた。
彼女は待っていたとばかりに、舌をこんこんとノックするように俺の唇に当てるが、一向に開く気配はない。
「んん?」
疑問に思った彼女は、先ほどよりも強い力をかけてくるが、それにも俺は動じない。
それを続けていると、我慢ならんとばかりに彼女は口を離した。
「翔一……なんのつもりだ?」
「もう、あとちょっと粘ってほしかったなあ―――」
「んぅ!?」
不用意に唇を離した彼女に、俺は容赦なく口腔内を犯した。
玲羅は少し抵抗するように、俺の胸をどんどんと叩くが、次第に叩く力を失っていき、ついに彼女は力なく俺の胸倉をつかんだ。
それも少ししたら降りていき、彼女は目をハートにしながらなされるがままにされていた。
大丈夫か?失神してないよな?
俺はいつもと違う玲羅の反応に少し戸惑ってしまった。