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夏祭りの終幕

 しばらくして、俺たちは打ち上がり続ける花火に集中していた。


 何度も何度も熱烈なキスを交わし続けた俺たちの距離は、物理的に零になっていた。


 玲羅は、俺の腕を枕にしながら俺の体に抱き着くくらいに近い位置に寝そべっているし、俺も彼女のしがみつくような抱擁を受け入れていた。


 「翔一……」

 「なんだ?」

 「大好きだ……」

 「知ってる」

 「愛してる」

 「嬉しいなあ」


 今までの空気と花火のせいで、お互いに頭が働いていないのか、二人して一言ずつでしか会話ができていない。


 そんな状況を、俺は変えようと玲羅のほうを向いて言った。


 「玲羅、目を瞑って」

 「こ、こうか?」

 「そう、そのまま動かないでね」


 俺は目を瞑って、少しだけ唇を尖らしている彼女の体をつかんで持ち上げた。

 キスを期待していたであろう玲羅は、その浮遊感に一瞬驚いていたが、律儀にもずっと目を閉じていてくれた。


 そのまま彼女をバックハグの形で俺の体の上に乗っけた。


 「目を開けていいよ」

 「どうだ?花火は見えるか?」

 「あ、ああ……花火は見えるな……」

 「ん?なんかダメだった?」

 「ああ、ダメだな」


 そう俺にダメだしする玲羅。

 な、なにがダメだったというのだろうか?


 俺自身でそれについて考えてみるも、答えは見つからない。だが、それを読んだかのように、彼女は体の向きを反転させて、俺と完全に向き合った。


 「あれじゃあ、翔一の顔が見れないじゃないか」

 「……」

 「な、なにか言ってくれ!」

 「なんだそのかわいい反応は……」

 「か、かわいくて悪いか!」

 「いいや。むしろ―――!」

 「っ!?―――ひゃあ!?」


 あまりにも玲羅がかわいかったもので、俺はつい彼女の背中に手をまわして抱きしめてしまった。

 彼女もびっくりはしていたが、あまり拒絶の色は見えないから大丈夫だろう。


 「こんなにかわいい女の子はこうだ!」

 「も、もう……翔一のえっち」

 「どこにもエロ要素なかったろ!」

 「ふ、ふん!翔一はえっちだ!」

 「ひっでえ……」

 「ぷっ……」

 「ふふ……」


 俺たちの言い合いは、すぐさま笑いに変換されて、その場にケタケタと笑う声が響き続けた。


 思えば、ずいぶんと彼女は変わったな。

 最初のころは恥ずかしがり屋のクール娘だったのに。今じゃなんだ?


 デレデレで、独占欲も人一倍強いし、ポンコツで、そしてなにより俺のいじりにも弱いながらも対応してくるようになってきた。

 まあ、それも二人きりとか身内レベルの人の前でしかしないんだが。


 「ほんと、玲羅って変わったよな」

 「そうだとするのなら、翔一のおかげだ」

 「そんなに玲羅の人生に影響を及ぼしたのか、俺」

 「そうだ。私は、翔一好みの女にされてしまったんだ」

 「なんか誤解を生まないか?その言い方」

 「翔一のえっち」

 「そのネタ、まだ引きづるのかよ」


 えっちえっち言っておきながら、俺から離れようとしない玲羅さんのほうがよっぽど変態さんかもしれないですよ。

 彼女はというと、口ではあんなことを言いながら顔を胸にうずめがら「むふーむふー」とかよくわからないことも言っている。


 すっげえかわいいからなんの文句もないんだけど。


 ていうか、お互い浴衣なのに地面に転がってるのマジで笑うわ。

 あとで結乃に絞られそうだな。


 洗うの大変なんだぞ!って


 しばらくすると、花火の数も減ってきて、終わりがちかづいているのが分かった。


 「そろそろ終わりか……」

 「綺麗だったな」

 「ああ……」

 「玲羅が」

 「な!?それだと、私が自分のことを美人って言ってるみたいじゃないか!」

 「実際そうだからいいでしょ」

 「う、うるさい!は、花火はどうだった」

 「綺麗だったよ、って言いたいけど、なんだかんだ玲羅の顔ばっか見てたからなあ。花火はもう雰囲気よ雰囲気」

 「もう……連れてきた意味―――」

 「あるよ。この場に二人きりになれた。だからできたことがある。それ以上意味なんていらないでしょ」

 「む……むぅ?そういうものなのか?」

 「玲羅はいやだった?」

 「そんなことない!」

 「即答……かわいいねえ」


 俺がそう言うと、彼女はまたやられたとばかりに、恨めしそうにこちらを見るが、かわいいが暴走しているのでやめてほしい。


 と、良い感じで花火大会を終えた俺たちは、お互いの浴衣についた草とかを落として歩き始めた。


 木々の中を歩いているときは、少し足元とかが危なくて、あんまりくっついていられなかったが、そこを抜けると俺たちは手をつないだ。

 それと同時に、玲羅は俺の腕に抱き着いてくるのだが、文句も驚きの声も出さない。


 なんせこんなに満足そうな彼女の顔を見て、否定することなんか誰が許すものか。


 そんな俺たちは、多くの人ごみの中に存在する仲睦まじいカップルとして、群衆の中に消えていった。





 ―――自宅前にて


 「ただいまー、って言いたいのに、二人は何してんだ?」

 「あ、お兄ちゃん、いやー鍵を家に忘れてしまってですなあ」

 「しっかりしろよ……」


 家の前には、結乃となぜか美織がいた。

 お前は、隣の家だろ?


 そんな美織は、俺たちを見ると、一言―――


 「なんか玲羅のほうは吹っ切れたみたいね。以前よりイチャイチャして―――ちっ、妬ましいわね」

 「心の声が出てるよー」

 「ふふん!翔一は私のものだからな!私のものってほかの人に言わないと、取られてしまいそうだからな」

 「あ、当てつけのつもりなのかしら?なら、覚悟しなさい!」

 「へ?―――な、なにを!?」


 美織の言葉に身構える玲羅だったが、彼女の思っていた場所とは違うところに、美織の攻撃はやってきた。


 ほにょん


 美織は、玲羅の胸をおもむろに鷲掴みしたのだ。

 ―――は?


 「うひゃあ!?な、なにするんだ!?」

 「ほれモミモミ……柔らかいわね……」

 「みやあ!?……し、翔一!」


 玲羅に呼ばれた俺は、彼女に襲い掛かる美織の腕(魔の触手)をつかんだ。


 「はい、そこまでだ『歩く下ネタ』」

 「はいはい……ってちょっと待って。今私のことなんて呼んだ?」

 「さあ、風邪ひくぞ。家の中に入るぞ」

 「待ちなさい!私のことを、あろうことか『歩く下ネタ』って言ったわね!」

 「本当のことだろ?いやだったら、立派な淑女になりやがれ」

 「お、おぼえてなさい!」


 そう叫ぶ彼女は、耳まで真っ赤に染まっていた。

 珍しいな。美織が耳まで真っ赤にしているの。こりゃいいものが見れた。


 こうして俺たちの夏祭りが幕を閉じた。

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