表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/222

覚醒

なろうのメンテナンスで投稿ができませんでした

 玲羅と別れた場所に戻ると、彼女がいなかった。

 いや、その場に彼女がいなかった。


 少し探せば、神社の裏手の壁に寄りかかっているのはすぐに見つかったのだが。


 なぜか彼女の眼が虚ろだった。


 俺はそんな彼女の肩をもって、揺さぶりながら声をかけた。


 「玲羅!……玲羅!」

 「ん……翔一?」

 「ああ、よかった。だいじょ……!?」


 ガバッ!


 目の色が戻った玲羅は、突然俺に抱き着いてきた。

 あまりにも急なことだったので、俺はフリーズした。


 「い、いや……どこにも行かないで」

 「……?どこにも行くつもりはないぞ?」

 「私を置いていかないで……」


 そう言いながら震えている彼女の言葉を、何一つ理解できない。

 急になんだ?


 よくわからない事態に、俺はどうすることもできない。玲羅がこうなった原因もわからないし、なによりこの悲しそうな雰囲気が理解できない。


 おそるおそる彼女の心を探ってみる。


 「怖い夢でも見たのか?」

 「怖い夢……そうだな。ものすごく怖かった」

 「どんな夢?」

 「翔一が私の手の届かないところに行ってしまう夢だ」

 「そうか」


 ―――本当に見たのかもしれないな。

 俺がいなくなる夢を。じゃないと、夢の話をしながらこんなに肩を震わせられるはずがない。


 彼女はとにかく嘘がへたくそだからな。本当のことがわかりやすい。


 俺は彼女の心中を察し、頭に手をのせて、優しく撫でた。


 髪の毛越しに伝わってくる玲羅の体温。

 ほんのり暖かくて、心地よい温度。人と人のぬくもりとしての相性が最高レベルにいいのだ。


 彼女は頭を撫でられて気持ちよさそうにしているが、俺も彼女の透き通るような長い髪触れていると、なんだか心が満たされているような感覚になる。


 だが、それだけでは彼女は満足しないのだろう。

 先ほどの震えはなくなったが、俺からは一向に離れようとしない。


 それどころか、顔をあげて上気した頬とともに、俺のことを上目遣いで見てきた。


 「翔一……」


 ―――待っていた。

 彼女は俺からするのを待っていた。


 恋人として、今の俺たちの最大の肌の触れ合いを。


 もう彼女は目をつむってそれを待っていた。


 「んぅ……ちゅ……」


 俺はそんな彼女の唇に、己のものを触れさせた。だが、彼女はそれだけでは満足せずに、舌を俺の口腔内に侵入させた。


 「ん……くちゅ……れろ……」


 俺は驚きはしたが、その後はそのすべてを玲羅に委ねて身を任せた。


 ―――どれくらいたっただろうか。

 かなりの長い間、玲羅のキスを受け入れ続けた。最後には、息が続かなくなった玲羅が「ぷはぁ……」と言いながら唇を離した。


 「どう?」

 「気分がいいな。翔一を好きにできるのも」

 「いや、俺がどこにも行かないってわかった?って聞こうと思ってたんだけど」

 「わかってたよ。そのつもりだった。でも、翔一はイケメンだから。いつかいなくなっちゃうって思ったんだ」

 「大丈夫。俺には玲羅しか見えてないから」


 そう言うと、また玲羅は俺を抱きしめる腕の力を強くした。

 だが、今度は悲しみなんて感じない。安心したような、安堵のような、はたまた確信したような空気をまとって、俺の胸に顔をうずめた。


 俺もしばらく、彼女に付き合ってその場を動かなかった。


 ただ動かずに、ひたすら彼女の頭をなでなでし続けた。


 10分くらいその場で動かないでいた。

 その後は、玲羅のほうから離れていった。


 「満足した?」

 「満足はしてない。でも、今は夏祭りだ。もっと楽しんで、最後の花火でぎゅっとすりゅんだ……」

 「噛んだね」

 「う、うるさい!ほらいくぞ!」


 そう言って、彼女は俺の腕をつかんで歩き出した。

 よかったな玲羅。ここが神社の裏手で。じゃないとたくさんの人に見られてたかもね。


 でも、なんでこんなところで眼が虚ろに?


 「どうした?」

 「いや、なんでもない。そうだ!焼きそば食べにいこう!あと、かき氷も!」

 「ああ、さあ行くぞ翔一!」


 神社の裏手から、半分走ってるくらいの勢いで俺たちは屋台に繰り出した。


 焼きそばを買って、一つのパックで食べさせあったり、かき氷で一緒に頭を痛めた。


 その後も輪投げで、俺が全部の輪を最高得点の棒に入れたりと、すごく楽しかった。


 玲羅の先ほどのことがなかったかのように……いや、違うな。

 先ほどのおかげか、彼女からのスキンシップが明らかに増えた。


 腕に抱き着いてる時も、ただ抱き着くだけじゃなくて、彼女の指が俺の腕を這うように動いていたり、しきりに俺に「あーん」をしようとしたり、明らかに彼女のなにかが変わった。


 「あ、翔一、ほっぺに海苔がついてる」

 「まじ?どこ?」

 「おしえなーい。―――私が取ってあげる」


 ちゅ


 玲羅は俺に海苔の居場所を教えずに、俺の頬をキスするように舐めた。

 しかも、こんなにも人目がある場所で。


 「えへ、取れた」

 「人格が入れ替わった並みに変わったな」

 「いいだろ?翔一は、こういう甘えてくる私はいやか?」

 「そんなことはないよ」

 「なら、もっとくっついて……」


 そう言うと玲羅は、俺の肩に寄りかかってきた。

 ものすごくかわいい。もうそれ以上に彼女を表現する言葉がこの世界にはない。もはや、破壊力がすさまじすぎて、俺が耐えられない。


 そんなことをしていると、見知った顔が正面に座った。


 「よう、翔一」

 「なんだよ、なんの用だよ―――徹」

 「天羽さんがこんなに甘えてる……」

 「むふふ……幸せだぞ。好きな人に甘えるのは……」

 「すごい、もう別人だよ」


 正面に座ったのは、徹と奏のペアだった。

 あれ以来、二人はラブラブらしく、学校でも噂されるくらいにイチャイチャしてるらしい。


 「翔一は、どうだ?最近」

 「特になにもないけど?」

 「嘘つけ、じゃないと天羽さんがこんなになる理由がない」

 「私は、理由がないと翔一に甘えちゃいけないのか?」

 「い、いや、天羽さんそういう意味じゃ……」

 「そうだよ徹君。天羽さんだって、恋する乙女。好きな人に甘えたい気持ちはあるんだよ。今まで、クールに過ごしてた分、甘え方を覚えたら覚醒するんだよ」

 「なんだ、その少年漫画みたいな展開は」


 その後も、俺たちは会話に花を咲かせた。


 まあ、二人の夜が、やれ激しいだの。やれ徹がMだの。知りたくもない情報も混じっていたのだが。


 「それでね、それでね!」

 「遥、それくらいにしてくれ……」

 「なに恥ずかしがってんだよ」

 「そりゃ恥ずかしいだろ……夜の情事を全部言っちゃってるんだぞ……」

 「人の家で初めてをヤッたくせに今更だろ」

 「そ、それは、お前がゴムなんて置くから!」

 「シたのはお前らだろ?」

 「うっ……」

 「椎名君も、あの時はありがとうね。なんど言っても言い足りないけど」

 「気にすんな。親友の彼女を守っただけだ」

 「天羽さん……椎名君、かっこいいね」

 「そうだろ!翔一はかっこよくて、イケメンで、私の大事な大事な恋人だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ