覚醒
なろうのメンテナンスで投稿ができませんでした
玲羅と別れた場所に戻ると、彼女がいなかった。
いや、その場に彼女がいなかった。
少し探せば、神社の裏手の壁に寄りかかっているのはすぐに見つかったのだが。
なぜか彼女の眼が虚ろだった。
俺はそんな彼女の肩をもって、揺さぶりながら声をかけた。
「玲羅!……玲羅!」
「ん……翔一?」
「ああ、よかった。だいじょ……!?」
ガバッ!
目の色が戻った玲羅は、突然俺に抱き着いてきた。
あまりにも急なことだったので、俺はフリーズした。
「い、いや……どこにも行かないで」
「……?どこにも行くつもりはないぞ?」
「私を置いていかないで……」
そう言いながら震えている彼女の言葉を、何一つ理解できない。
急になんだ?
よくわからない事態に、俺はどうすることもできない。玲羅がこうなった原因もわからないし、なによりこの悲しそうな雰囲気が理解できない。
おそるおそる彼女の心を探ってみる。
「怖い夢でも見たのか?」
「怖い夢……そうだな。ものすごく怖かった」
「どんな夢?」
「翔一が私の手の届かないところに行ってしまう夢だ」
「そうか」
―――本当に見たのかもしれないな。
俺がいなくなる夢を。じゃないと、夢の話をしながらこんなに肩を震わせられるはずがない。
彼女はとにかく嘘がへたくそだからな。本当のことがわかりやすい。
俺は彼女の心中を察し、頭に手をのせて、優しく撫でた。
髪の毛越しに伝わってくる玲羅の体温。
ほんのり暖かくて、心地よい温度。人と人のぬくもりとしての相性が最高レベルにいいのだ。
彼女は頭を撫でられて気持ちよさそうにしているが、俺も彼女の透き通るような長い髪触れていると、なんだか心が満たされているような感覚になる。
だが、それだけでは彼女は満足しないのだろう。
先ほどの震えはなくなったが、俺からは一向に離れようとしない。
それどころか、顔をあげて上気した頬とともに、俺のことを上目遣いで見てきた。
「翔一……」
―――待っていた。
彼女は俺からするのを待っていた。
恋人として、今の俺たちの最大の肌の触れ合いを。
もう彼女は目をつむってそれを待っていた。
「んぅ……ちゅ……」
俺はそんな彼女の唇に、己のものを触れさせた。だが、彼女はそれだけでは満足せずに、舌を俺の口腔内に侵入させた。
「ん……くちゅ……れろ……」
俺は驚きはしたが、その後はそのすべてを玲羅に委ねて身を任せた。
―――どれくらいたっただろうか。
かなりの長い間、玲羅のキスを受け入れ続けた。最後には、息が続かなくなった玲羅が「ぷはぁ……」と言いながら唇を離した。
「どう?」
「気分がいいな。翔一を好きにできるのも」
「いや、俺がどこにも行かないってわかった?って聞こうと思ってたんだけど」
「わかってたよ。そのつもりだった。でも、翔一はイケメンだから。いつかいなくなっちゃうって思ったんだ」
「大丈夫。俺には玲羅しか見えてないから」
そう言うと、また玲羅は俺を抱きしめる腕の力を強くした。
だが、今度は悲しみなんて感じない。安心したような、安堵のような、はたまた確信したような空気をまとって、俺の胸に顔をうずめた。
俺もしばらく、彼女に付き合ってその場を動かなかった。
ただ動かずに、ひたすら彼女の頭をなでなでし続けた。
10分くらいその場で動かないでいた。
その後は、玲羅のほうから離れていった。
「満足した?」
「満足はしてない。でも、今は夏祭りだ。もっと楽しんで、最後の花火でぎゅっとすりゅんだ……」
「噛んだね」
「う、うるさい!ほらいくぞ!」
そう言って、彼女は俺の腕をつかんで歩き出した。
よかったな玲羅。ここが神社の裏手で。じゃないとたくさんの人に見られてたかもね。
でも、なんでこんなところで眼が虚ろに?
「どうした?」
「いや、なんでもない。そうだ!焼きそば食べにいこう!あと、かき氷も!」
「ああ、さあ行くぞ翔一!」
神社の裏手から、半分走ってるくらいの勢いで俺たちは屋台に繰り出した。
焼きそばを買って、一つのパックで食べさせあったり、かき氷で一緒に頭を痛めた。
その後も輪投げで、俺が全部の輪を最高得点の棒に入れたりと、すごく楽しかった。
玲羅の先ほどのことがなかったかのように……いや、違うな。
先ほどのおかげか、彼女からのスキンシップが明らかに増えた。
腕に抱き着いてる時も、ただ抱き着くだけじゃなくて、彼女の指が俺の腕を這うように動いていたり、しきりに俺に「あーん」をしようとしたり、明らかに彼女のなにかが変わった。
「あ、翔一、ほっぺに海苔がついてる」
「まじ?どこ?」
「おしえなーい。―――私が取ってあげる」
ちゅ
玲羅は俺に海苔の居場所を教えずに、俺の頬をキスするように舐めた。
しかも、こんなにも人目がある場所で。
「えへ、取れた」
「人格が入れ替わった並みに変わったな」
「いいだろ?翔一は、こういう甘えてくる私はいやか?」
「そんなことはないよ」
「なら、もっとくっついて……」
そう言うと玲羅は、俺の肩に寄りかかってきた。
ものすごくかわいい。もうそれ以上に彼女を表現する言葉がこの世界にはない。もはや、破壊力がすさまじすぎて、俺が耐えられない。
そんなことをしていると、見知った顔が正面に座った。
「よう、翔一」
「なんだよ、なんの用だよ―――徹」
「天羽さんがこんなに甘えてる……」
「むふふ……幸せだぞ。好きな人に甘えるのは……」
「すごい、もう別人だよ」
正面に座ったのは、徹と奏のペアだった。
あれ以来、二人はラブラブらしく、学校でも噂されるくらいにイチャイチャしてるらしい。
「翔一は、どうだ?最近」
「特になにもないけど?」
「嘘つけ、じゃないと天羽さんがこんなになる理由がない」
「私は、理由がないと翔一に甘えちゃいけないのか?」
「い、いや、天羽さんそういう意味じゃ……」
「そうだよ徹君。天羽さんだって、恋する乙女。好きな人に甘えたい気持ちはあるんだよ。今まで、クールに過ごしてた分、甘え方を覚えたら覚醒するんだよ」
「なんだ、その少年漫画みたいな展開は」
その後も、俺たちは会話に花を咲かせた。
まあ、二人の夜が、やれ激しいだの。やれ徹がMだの。知りたくもない情報も混じっていたのだが。
「それでね、それでね!」
「遥、それくらいにしてくれ……」
「なに恥ずかしがってんだよ」
「そりゃ恥ずかしいだろ……夜の情事を全部言っちゃってるんだぞ……」
「人の家で初めてをヤッたくせに今更だろ」
「そ、それは、お前がゴムなんて置くから!」
「シたのはお前らだろ?」
「うっ……」
「椎名君も、あの時はありがとうね。なんど言っても言い足りないけど」
「気にすんな。親友の彼女を守っただけだ」
「天羽さん……椎名君、かっこいいね」
「そうだろ!翔一はかっこよくて、イケメンで、私の大事な大事な恋人だ!」