久しぶりの登校
ついに、この日が来てしまった。
あの日から1週間。そう、今日は久しぶりの登校日だ。
登校日と言っても、結局は午前にさらっと終業式をするだけだ。
しょせん、どこかしらの部活の表彰とか校長の話とかだけだろう。
「はあ……今日か……」
「翔一、準備できたか?」
「まあ、行く準備は出来たよ」
「元気ないな?どうした?」
「いや、憂鬱だなー、って」
「そうは言うが、翔一はクラスの恩人なんだぞ?確かに、怖いと思うかもしれないが、面と向かって悪口を言ってくる奴はいないだろ」
「いや、俺はそこを心配してるわけじゃないんだけど……まあ、いいか。学校に行こう」
朝ごはんを食べた俺たちは、学校に向かうために家を出た。
すると、ちょうどか狙ったのかはわからないが、隣の家から美織が出てきた。
「あら翔一、偶然ね」
「ああ……絶対、狙っただろ」
「悪いかしら?別に、先に行くわよ。あなたたちの甘々な空気はそばにいると耐えられないわ」
「そんなに私たち甘々な雰囲気出してるか?」
「出してるわよ。特に玲羅。あなた、本当にデレデレしすぎよ」
「なっ!?そんなに……」
そうは言うが、玲羅自身もデレデレしている自覚はあるからか、いつものように反論はしてこない。
この言葉で、玲羅が甘えづらくなったら、俺は美織―――お前のことを一生恨むからな。
と、朝からだいぶ懐かしいやり取りをしたが、美織はさっさと学校に行ってしまった。
正確には歩法を使って先に走っていった。
「あの走り方、私にもできるのかな?」
「いや、無理だ。一般人にできるようなもんじゃない。透明島二家の奴らは、ただの人間とは話が違うからな」
「そうか、じゃあ、翔一が私を抱えたら速さは感じられるのか?」
「……全力で走らなければ、死なないからいけるんじゃない?」
「死ぬのか!?」
「まあ、どちらかと言えば風圧に耐えられないんじゃない?抱えるときはちゃんと考慮するけど―――やってみる?」
俺がそう言うと、玲羅はわかりやすく目をキラキラとさせた。可愛いなあ
元気よく「やるっ!」って言った玲羅は、おとなしく俺に抱え上げられた。
だが、彼女は俺の抱え方に不満があるのか、小さく抗議の声を上げた。
「し、翔一……これは」
「ん?なんか問題があるか?」
「お姫様抱っこ……」
「なにが問題だ?一番安定するし、密着感も完璧だ。好きな人を運ぶときはいつもこうだけど……」
「いつも……し、しかしだな、嫌じゃないんだが……外でこれは―――」
「ん?」
「―――は、恥ずかしい……」
言いながら彼女は両手で顔を覆った。耳まで真っ赤にしているのだから、そんなことしても意味ないというのに……
ていうか、恥ずかしくなったら顔隠すの最近多くないか?
「玲羅さん、顔隠しても余計に可愛いだけだよー」
「うぅ……翔一が意地悪だ……」
「じゃあ、走るからちゃんと俺の服を掴むなり、体に腕を回すなり、振り落とされないように気を付けてね」
「ああ……ふぇ?」
玲羅が俺の体に腕を回したのを確認して、走り出した。
走り出した瞬間、彼女は素っ頓狂な声を上げたが動き出した電車は次の目的地まで止まらないのと一緒で、一度走り出したら、減速するのが面倒なので一気に駆け抜けた。
玲羅はスピードなんぞ感じてる余裕もなく、目的地である学校の近くの人が少ない場所に着いた。
「玲羅、ついたぞ」
「へ?も、もうか?本当に数秒しか経ってない……」
「ざっとこんなもんかな。玲羅さえよければ、毎日これで登校するんだけど?電車賃浮くし」
「つ、疲れないのか?」
「いや、俺たちにとってほとんど歩くのと変わんないから、大して負担じゃない」
「ほ、本当にすごいな……」
まあ、法力によるドーピングで走ってるから、実質的に法力の負担を無視できるようになれば、そこまで辛いものじゃないしな。
俺たちは、そこからは普通に歩いて、他の登校している生徒たちに交じって歩き始めた。
だが、やはり俺という存在はあれ以来目立つものになっているのだろう。
クラスの奴らが登校している俺を見て、若干の恐怖の視線を向けてきた。
当たり前だ。悪人とはいえ、こいつらの目の前で、俺は人を殺しているのだ。常識的に恐れを感じるものだ。転校しようかな?
そう考えながら、教室の席に着く。玲羅も自分の席に荷物を置くと、早々に俺のところに向かってきてしゃべり始める。
「そういえば、翔一は成績とか大丈夫なのか?」
「それを聞くか?俺が大丈夫じゃないわけないだろ?」
「それもそうだな。なんせ、ここに入るための勉強を見てくれたのは翔一だもんな」
「ああ、てか玲羅は?」
「ふふん!私だって馬鹿ではない。ちゃんと出された課題を提出して、復習もしているぞ」
「へー、勉強してたんだ」
「翔一は私をなんだと思っているんだ?」
「デレデレお姫様」
「なっ!?ここは学校だぞ……少しは控えてくれ……」
と、そんな会話をしていると、俺たちに近づいてくる勇者がいた。
「ちょっといい?」
「なんだ?翔一になにか用か?」
玲羅が返答したが、近づいてきた生徒は俺に用があるようだった。
「その……この間は、助けてくれてありがとう」
「は?」
俺は頭を下げた生徒を見て、一瞬驚いてしまった。
正直、面と向かって悪口を言われるのは覚悟していたが、お礼を言われるのは予想外だった。
だが、俺も返した。
「礼はいらない」
「いいや、そういうわけにはいかないんだ。私たちはあんたに助けられたんだよ」
「だからやめろ。今回の件に関しては、この学校に俺がいなければよかっただけの話だ」
「それって……」
「これ以上の詮索はするなよ?これ以上は、俺もめんどくさい」
そう言うと、色々言いたそうな顔をしていたが、近づいてきていた生徒は離れていった。
今の生徒―――彼女の名前は、新島葵。明らかに染めている金髪に、かなり小柄な体躯が特徴の女生徒だ。まあ、表向きだけなら玲羅と正反対の存在だ。
だが、実際は二次元のオタクに優しいギャルというものだ。
まあ、彼女自身もかなり苦労しているみたいだから、すんなりと感謝の気持ちを伝えられるのだろうな。今日のこの一件は、確実に俺の新島への好感度が上がった。
もちろん、恋愛的な意味ではない。いつか彼女が困っていたら、手を伸ばしてみようと思う。
「翔一……浮気はダメだぞ」
「しないよ。俺は一途だからね」
「……それならいいのだが」
「お?俺の愛を疑うのか?わからせてやろうか?」
「や、やめてくれ!学校でそんなことしたら……」
「はて?なにをすると思っていたのかな?」
「~~~っ!?もう知らないっ!」