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いつも日常

 昨日、学校から連絡網が回ってきた。

 来週の金曜日に終業式だけして夏休みに入るそうだ。


 俺はとりあえず、次の人に連絡を回して電話を切った。


 「どうしたんだ?」

 「いや、来週に一回だけ登校があるらしい」

 「そうか……まあ、翔一のおかげで死人が出ていないから、思ったよりも早くに学校が再開できそうなんだな」

 「まあ、それもあるけど、やっぱ世間的にはテロリストに入られたようなもんだから、夏休みには直行みたいだな。受験生は、今年は特に大変そうだなあ」


 俺たち、今年で卒業しない1年と2年は1学期のテストがなくなったのだが、3年生―――受験生はそういうわけにもいかない。

 評定を出さないと、推薦などの共通テストを受けないで受験する生徒の大半が詰んでしまう。


 それのせいで、3年生は俺たちと違い、3日だけテストを受けるためだけに近くの大学に行っていた。

 そこの講義室かなんかでやっていたのだろう。


 まあ、それでもうちの学校は進学校だ。なんだかんだ、大半の生徒はそれを乗り越えていくのだろうが。


 今の時刻は、ちょうど9時を回ったくらい。

 結乃は中学で登校して、今家には俺と玲羅しかいない。


 「玲羅は今日の昼、なに食べたい?」

 「うーん……」

 「あ、なんでもいいとかはやめてね」

 「翔一……お前は私の奥さんか……」

 「いやいや、俺は玲羅の旦那さんだよ」

 「~~~っ!?」

 「玲羅が恥ずかしがんの?仕掛けたのそっちでしょ?」


 玲羅が恥ずかしいことを言うと、俺はすぐさま切り返しと、彼女は顔を手で覆って耳まで真っ赤にした。

 俺はそんな真っ赤になった両耳を、自身の手で包んで玲羅の顔を少し引き寄せる。


 すると、俺の意図がわかったのか、玲羅は顔から手をどけて目を閉じた。

 心なしか、少しだけ口が“それ”を待っているように見える。


 お互いに顔を離すと、顔こそ真っ赤だが、双方お互いの目線を避けることができない。


 「えへへ……最近は、色々あってこんなゆっくりなんでもないキスもできなかったな」

 「そうだな。こんなに愛おしいのに、近くにいたのに……愛してるよ、玲羅」

 「私もだ」


 部屋の中に、再度湿っぽい音が小さく響いた。


 それからしばらくして、2人はしばらくテレビを見てまったりしていた。

 NETF〇IXとかで、アニメを見ながらゆっくりしている。


 「ガッ〇ュベル、面白いな」

 「そうだな。昔のアニメだからと見ていなかったが、ものすごい傑作だったな」


 そう言いながら、感傷に浸る2人。

 玲羅は言葉の通りに、先日に見たコ〇ルの話で大号泣していた。


 そんな感じで過ごしていると、時間が過ぎるのは早いもので、時刻はもう昼になっていた。


 「じゃあ、昼ご飯作るか……玲羅、なにがいい?」

 「じ、じゃあ、パスタが食べたいな……」

 「いいよ。じゃあ、少し待っててね……ここら辺に、たらこパスタのソースが―――あった!」


 今日のメニューは、たらこパスタに決まりだ。

 いや、他の奴でもいいんだが、時間がかかりすぎる。


 俺は早速、水を火にかけて、具材の調理を始めた。


 と言っても、たらこソースがあるから、たらこの皮を取ってねぎを入れればもはやそれだけで終わりなのだが……

 そういうことで、たらこを包丁で真っ二つに割り、卵の部分をそぐように皮から取っていった。


 「玲羅―」

 「む……なんだ?」

 「口開けて―――あーん」

 「ん!?あ、あーん……」


 俺は卵を取って、残った皮を可愛く口を開ける玲羅にあげた。

 入れられてすぐは、少し驚いていた様子だが、たらこだとすぐにわかった彼女はご満悦な表情になった。


 その顔を見て満足し、すぐに沸騰した水に塩を入れて麺をゆで始めた。

 そこからすぐにパスタソースを開封して、麺に絡めるためのそれを完成させた。


 「翔一の手際が良すぎる……」

 「そうか?結乃もこんなもんだぞ?」

 「私は、翔一と結婚した時は、なにをすればいいんだ?」

 「別に料理だけが女の価値じゃないよ。今時、それも古いしな。俺はただ、好きな人が笑顔になる。それだけで、幸せだから」

 「ああ、好きだ……」


 そう言うと、玲羅は鍋の火を見ていた俺に抱き着いてきた。

 まあ、包丁とかを使ってないし、そんなに怒らなくていいか。―――ちょっと危ないけどな。でも、こういうことをされると同時に申し訳ない気持ちになってくる。


 あの時、玲羅がしようと言ってくれたのに、できなかった自分の不甲斐なさがこみあげてくる。


 俺の背中に押し当てられるたわわを感じながら、胸の方に回された手を取る。


 「ごめんな、玲羅」

 「……どうして謝る?」

 「玲羅のしたいこと、してあげられなくて……」

 「なんのことだ?私は、翔一にしてもらえなかっただなんで思ったことないぞ?」

 「いや、あの時、俺は玲羅に体の関係を求められたのに、できなかった……」

 「―――翔一、こっちを向いてくれ」


 そう言われて、俺は玲羅のいる方向に顔を向けた。

 すると、突然顔を両手で鷲掴みにされて、わりと強引にキスをされた。


 俺はただ呆然として、ねじ込まれている玲羅の舌の感触を感じることしかできなかった。


 しばらくして、玲羅が「ぷはあ……」と言いながらキスをやめると、こう言った。


 「私は、翔一とそういう関係になりたいと思った。それは今も思ってる。心でも体でも、自分の奥深くを翔一に知ってほしい。そうして繋がりたいって」

 「でも、俺にはそれが……」

 「かまわない。私は、翔一に無下に抱かれたいわけではない。大切に愛でるように抱いてほしい。だから、お前が辛いのなら、したくないのなら、私はずっと待ってる。そんな翔一も好きだから」

 「玲羅……」

 「翔一が私を愛して救ってくれるように、私も翔一の傷を癒し続ける。だから、もっともっと私に寄りかかってくれ」


 俺はその言葉を聞いて、玲羅を強く抱きしめた。

 俺だって、俺だって好きでプラトニックでいるわけじゃない。本当はしたい。でも、それを心が拒絶している。もしかしたら、彼女は自殺するから、俺に最後の願いを言っているんじゃないか。


 彼女が自殺願望がないというということを知っていても、俺にとっての肉体関係はそれに直結する。ここまで来て、玲羅を失うのがものすごく怖い。感じたことない、言いようのない恐怖に襲われる。


 でも、俺は玲羅の言葉に救われる。ネガティブな気持ちも彼女に払拭してもらってる。


 ありがたい話だ。


 俺たちはその後、仲良く昼ご飯を食べて、一緒に添い寝をしながら夕方まで過ごした。

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