マッチング
退屈な日常を受け入れていた。
寝ても覚めても変わらない景色。変わろうとする気力もなく、与えられたノルマをこなすように通学する毎日。
心の底ではなんとも思っていないのに友人たちに会話を合わせて笑っているのは我ながら擬態が上手いとも思う。昔から虚無感を裏に隠して、こんな考え方のまま今日まで生きてきたので、時折変化する何かを見つけては体が成長する以外特に変わらない自分が世界から取り残されていく感覚に陥って……それでも奮起せずに諦める。
人生に興味がなかった。
安定という都合のいい言葉に置き換えられた停滞を信仰するつまらない国で、僕が何をしたところで変えられるなんて思わない。だからといって自分が変わろうとすることを真っ先に論外にする思考はおそらく腐っている証拠で、僕が海外に出て環境を変えればいいという別な案も却下。そこまで苦労して刺激的な人生を送りたいとも思えない。
だから、人生になど興味がなかった。
始まる前からすべて諦念に浸って何もする気力が生まれない。
退屈な日常だろうが別に抗うつもりもなく、せめて世間で目立たないよう周りが言うところの平凡な人生でも謳歌して、この退屈を誤魔化そう。
そんな、ダメ人間こそが新城才琉という人間だった。
別に退屈が絶望というほどでもない。死ぬのはなんか怖いし、そこそこ生きて満足して死のう。
そんな呑気な考えをしながら、いつも通りの時間帯に通学バスに乗車した後のこと。
目当てのバス停に到着するまで仮眠でもしようと目を瞑ったとき、世界から全ての音が消え去った。
瞼を上げると、そこには目を疑う光景があった。
音どころか、自分を除いた世界全てが停止し、目の前には異世界物のアニメで見るような立体投影されたパネルがあった。
[あなたは挑戦者に選ばれました]
[挑戦者は十人です]
[与えられた能力を有効に活用して生き残ってください]
[三日後、生存している人間には能力の引き継ぎ、「プレイヤー」の資格、および報酬を与えます]
[なお、報酬は生存者の数だけ分散され、少ないほど報酬のランクは高くなります]
なんだ、これは。
そんなふうに驚いている間に、僕の視界に映るもの全てがテレビのチャンネルを変えた時のように切り替わり、生い茂る草を踏み締めていた。
[ゲームをはじめます]
「……ははっ」
乾いた笑いが口からこぼれる。
僕は頭がおかしくなったのかと周囲を見渡して、木の幹が並ぶ森の中で空を見上げた。
真っ赤に染まった空は、いつだったか見た戦争の時の写真の中に迷い込んでしまったように、僕に死という概念を身近に感じさせることになる。
退屈な日常を受け入れていた。
それがルールなら従おうと、僕はひたすら我慢を重ねて普通を受け入れていたが、この台風が直撃した時のような平時ではあり得ない昂揚感が続くのだとしたら……?
ここには退屈などなく、死の危険があるらしい。
妄想? 幻覚?
それでも結構。この身に起こった現実を僕は信じる。
サバイバルがここのルールであるのなら、それに準ずるまでのこと。
「面白くなってきた……っ」
僕はこの日、我慢をやめた。
この意味のわからないデスゲームをクリアした先に、つまらない世界が消える未来が見えて興奮して仕方がないのだ。
勝ち残ろう。
殺さなくても勝てるこのゲームで、死なないために立ち回ればいいだけのこと。
能力も報酬も、「プレイヤー」の資格とかいうものも、今はすべて不鮮明なものだ。
けれども結果次第で自分が世界に影響を与えることを想像すれば、いつも沈んでいた心がこんなにも浮かれている。
退屈は潰えた。
それを証明するために、世界を変えようと思う。
本日二話投稿。
次回更新 2022/08/19 23時