さすらいのホームレス「公園」
さすらいのホームレス「公園」
ボリボリボリ、
頭がかゆい、
こんなに髪を伸ばしたのは初めてだ…
6ヶ月、
私が家を出て、はや半年。流れ流れて、この公園に着いた。
街の繁華街から歩いて10分。木々があり、遊具があり、少し広い。
住宅地の真ん中の清楚な公園、居心地は最高だ。そして、何より落ち着く。
また、頭がかゆくなってきた。
身体のかゆみは慣れたが、頭はかゆい。
友達の家を出てから何日も風呂に入ってない。虫にも何ヵ所か喰われている。
掻き過ぎて皮膚も痛い。
「ごちそうになります」
毎日、公園の主に挨拶し、炊き出しをもらう。それが新参者の掟だ。忘れると大変なことになる。最大、ここにも居られなくなる。
ここには、ルールもあるし、上下関係もある。それが嫌でホームレスになったのに、
「おいしい、」
野菜たっぷりのぶっかけスープ飯。身体に染み渡る。
今まで、ろくなものを食べてなかった。ゴミ箱には食べられる物は少ない。
水道の水を飲む。
ゴクゴクゴク、腹一杯飲む。
今日の食事が終わった。一日一食。
食事の後は昼寝だ。いつもの所に歩いて行く。トイレの横のダンボールハウス。私の寝床だ。
新人は、ここと決まっている。
少々臭いが、トイレが近いのが楽だ。
ダンボールとブルーシートで作ったハウスは、かなり雨風が防げる。
助かる、
段々、この生活にも慣れてきた。
日常の生活、普通の生活、……の生活、
友人もできた。福沢さんと諭吉さんだ。(笑)どちらも偽名だろう。ここにいる人たちは、みな偽名だ。訳ありの人ばかりだ。
私も「杉ちゃん」と呼ばれている。
何やら、お笑い芸人のスギちゃんに似ているらしい。自分じゃ全く思わないが、まあ、いい、どうせ全てを捨てて来た身なのだから。
今日は天気がいい。
「ゴミでも漁るか、」
福沢さんが誘ってくれた。近くのゴミステーションまで足を運ぶ。
「この枕、使えそうだな」ゴミネットをめくり上げる。
「ちょっと!」
「やめてくれる、」
中年の女性に声を掛けられた。怪訝そうな顔だ。
「警察に言うわよ、気持ちが悪い、」
「すいません〜」慌ててゴミネットを閉じる福沢さん。
クンクン、臭いを嗅ぐ女性。
「臭い!あっち行って、」鼻を摘む姿がまた憎らしい。
「後片付け、ちゃんとやっておきます〜」福沢さんがペコペコと謝った。
「ちゃんとやってね!」
「はい〜」
去って行く女性。
「さて、何か良いものあるかな」
「行かないんですか?」
「そんな訳ないだろう、ハハハ」
福沢さんはベテランだ。この生活も長い。場数を踏んでいる。
「おっ、このラジカセは上物だな。ほとんど新品だぞ、」
「ワシがもらうよ、いいかな?」
「はい、」
収穫は、ラジカセ、枕、毛布、コップ。枕とコップは私がもらった。
その足でリサイクルショップに行く。
「お前〜まだ、ワシよりキレイだから、これ換金してきてくれよ、はい保険証」
クシャクシャな保険証を出す。
「誰の保険証なんですか?」
ニヤニヤしている福沢さん。
私は、ドキドキしながら中へ入った。
リサイクルショップ店内、
「こ、これ換金して下さい」ラジカセを置く。
店員がジロジロと見る。
「はい、では⋯身分証を、」
⋯⋯
⋯⋯
五千円?!
福沢さんに見せる。
「そうやろ」
「凄いですね、」
「そうやろ、そうやろ、」
私はコンビニでコーヒーを買い、福沢さんはタバコを買った。
ベンチでコーヒーを飲む。
美味しい、
久しぶりのコーヒーだ。身体に染みる。
福沢さんも、美味そうにタバコを吸う。
スパーッ、
福沢さんは、たまに関西弁が出る。どうやら、関西出身らしい。後は何も語らない。
みんなそうだ。
公園、
警察官が見回りに来た。
みんな、そそくさと隠れる。私もダンボールハウスに隠れた。
カツ、カツ、カツ、ハウスの前に足音が近づく。
ガサ、
「こんにちは〜」警察官が中を覗く。
「はい、新しい人だね」
「……」
「名前は、」
「……」
「…杉ちゃん…」
「本名を言ってくれ」
「すぎ…杉本…」
「そう、」
「前は、どこにいたの、」
「…」
「まあ、いいや、」
「後で区の人が来るから」
「はい、」
警察官は去って行った。
はぁー、
すぐ、福沢さんがやって来た。
「あいつ、うるさいんだよ、」
「ワシらを目の敵にしているんだよ、」
「そうですか…」
私は、ここに来るまでも何度も警察官に声をかけられた。平気だった。自暴自棄になっていたからだ。どうでもよかった、どうなってもよかった。
「刑務所に入れてくれ」と懇願した時もあった。
…相手にされなかった。
しかし、ここに来てから何故か、普通の気持ちに戻った。
解らない、
何故か、ここの人たちが、みな家族のような気がする。
そんな気がする…
数日後、
「寒い、」
「今晩は、氷点下だぞ、」福沢さんがボヤいた。
みんなは、ダンボールハウスから出てこない。水道も凍っている。
その晩だった。
「寒い、寒くて眠れない、」ブルブル震えてくる。お腹も減ってきた。
「おーい、」
竹下さんの声がした。
明るい光が見える。焚き火だ。
メラメラと炎が燃えている。枯れ枝と枯葉を燃やしていた。
オレンジ色の炎、
昔、子供と一緒に行ったキャンプを思い出した。あの時のキャンプファイヤーのようだ。
メラメラと燃え上がる炎。
楽しかった時を思い出す。懐かしい日々…
「さつまいも、入れといたよ」
竹下さんが、うれしそうに叫ぶ。
高々と燃え上がる焚き火、
暖かい、
皆、焚き火の回りで暖をとる。
「ワハハハハハハ…」会話も弾む。
「早く焼けないかな、」
諭吉さんがワクワクしている。子供のような笑顔だ。
誰かが、お茶っ葉を持って来た。
ヤカンを焚き火に焼べる。竹下さんがコップに注ぐ。
みんなでお茶を飲んだ。
薄いお茶だ。美味しくはない、
でも、美味しい…
ウーウーウー
消防車のサイレン、
真っ赤な赤色灯がみんなの顔を照らす。
「この公園で焚き火は禁止ですよ!」消防士のマイクの声、
ジャーッ、焚き火が消された。
ドロドロの焼き芋が見えた。
「あーっ、」諭吉さんの悲しい顔。
白い煙が上がる…
次の日、
諭吉さんが死んでいた。
寒さでの凍死らしい。
あの焚き火さえあたっていたら…
警察が諭吉さんの身元を調べに来た。
何も解らなかった。
ハウスにあったのは、わずかな食べ物とネコの置物。諭吉さんはネコが大好きだった。
隠れては、炊き出しのご飯をネコにあげていたのを見た事がある。同じ仲間だと思っていたのかもしれない。自分もひもじいのに、
その後、
諭吉さんは、諭吉さんとして火葬された。
ある日、
みんなが騒いでいた。
「ここのホームレス、全員追い出されるらしいぞ!」
「えっ、」
「来月だそうだ、」
私の所にも区の役人が手紙を置いていった。ホームレス緊急一時宿泊施設(通称、シェルター)、そこに行くらしい。
近所からの苦情だった。
みんな、家族や兄弟に知られたくない。そこに行ったら、連絡される。
嫌だ、絶対嫌だ!
高齢の人以外、他の場所に行く事になった。
みんなとの別れ、福沢さんとの別れ、
短かったけど楽しかった日々、うれしかった。
退去の前日、
福沢さんが、やって来た。
「ほい、小遣い」クチャクチャの一万円札を渡された。
「何ですか、いりませんよ」
「持って行け、」
「ワシは、シェルターに行くよ、」
「もう、金は要らないんだ」
……
「いいんですか、家族にバレますよ、」
「いいんだよ、もう死んでるよハハハハハ、」
「そうですか…大金なのに…」
「ありがとうございます」
「またな、」
「はい、」
次の日の朝、
私は、少ない荷物を持って、この公園を出た。
涙は出ない、
足は重い…




