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さすらいのホームレス「公園」

作者: ヨッシー@
掲載日:2022/05/11

さすらいのホームレス「公園」


ボリボリボリ、

頭がかゆい、

こんなに髪を伸ばしたのは初めてだ…

6ヶ月、

私が家を出て、はや半年。流れ流れて、この公園に着いた。

街の繁華街から歩いて10分。木々があり、遊具があり、少し広い。

住宅地の真ん中の清楚な公園、居心地は最高だ。そして、何より落ち着く。

また、頭がかゆくなってきた。

身体のかゆみは慣れたが、頭はかゆい。

友達の家を出てから何日も風呂に入ってない。虫にも何ヵ所か喰われている。

掻き過ぎて皮膚も痛い。


「ごちそうになります」

毎日、公園の主に挨拶し、炊き出しをもらう。それが新参者の掟だ。忘れると大変なことになる。最大、ここにも居られなくなる。

ここには、ルールもあるし、上下関係もある。それが嫌でホームレスになったのに、

「おいしい、」

野菜たっぷりのぶっかけスープ飯。身体に染み渡る。

今まで、ろくなものを食べてなかった。ゴミ箱には食べられる物は少ない。

水道の水を飲む。

ゴクゴクゴク、腹一杯飲む。

今日の食事が終わった。一日一食。

食事の後は昼寝だ。いつもの所に歩いて行く。トイレの横のダンボールハウス。私の寝床だ。

新人は、ここと決まっている。

少々臭いが、トイレが近いのが楽だ。

ダンボールとブルーシートで作ったハウスは、かなり雨風が防げる。

助かる、

段々、この生活にも慣れてきた。

日常の生活、普通の生活、……の生活、


友人もできた。福沢さんと諭吉さんだ。(笑)どちらも偽名だろう。ここにいる人たちは、みな偽名だ。訳ありの人ばかりだ。

私も「杉ちゃん」と呼ばれている。

何やら、お笑い芸人のスギちゃんに似ているらしい。自分じゃ全く思わないが、まあ、いい、どうせ全てを捨てて来た身なのだから。


今日は天気がいい。

「ゴミでも漁るか、」

福沢さんが誘ってくれた。近くのゴミステーションまで足を運ぶ。

「この枕、使えそうだな」ゴミネットをめくり上げる。

「ちょっと!」

「やめてくれる、」

中年の女性に声を掛けられた。怪訝そうな顔だ。

「警察に言うわよ、気持ちが悪い、」

「すいません〜」慌ててゴミネットを閉じる福沢さん。

クンクン、臭いを嗅ぐ女性。

「臭い!あっち行って、」鼻を摘む姿がまた憎らしい。

「後片付け、ちゃんとやっておきます〜」福沢さんがペコペコと謝った。

「ちゃんとやってね!」

「はい〜」

去って行く女性。

「さて、何か良いものあるかな」

「行かないんですか?」

「そんな訳ないだろう、ハハハ」

福沢さんはベテランだ。この生活も長い。場数を踏んでいる。

「おっ、このラジカセは上物だな。ほとんど新品だぞ、」

「ワシがもらうよ、いいかな?」

「はい、」

収穫は、ラジカセ、枕、毛布、コップ。枕とコップは私がもらった。

その足でリサイクルショップに行く。

「お前〜まだ、ワシよりキレイだから、これ換金してきてくれよ、はい保険証」

クシャクシャな保険証を出す。

「誰の保険証なんですか?」

ニヤニヤしている福沢さん。


私は、ドキドキしながら中へ入った。

リサイクルショップ店内、

「こ、これ換金して下さい」ラジカセを置く。

店員がジロジロと見る。

「はい、では⋯身分証を、」

⋯⋯

⋯⋯

五千円?!

福沢さんに見せる。

「そうやろ」

「凄いですね、」

「そうやろ、そうやろ、」

私はコンビニでコーヒーを買い、福沢さんはタバコを買った。

ベンチでコーヒーを飲む。

美味しい、

久しぶりのコーヒーだ。身体に染みる。

福沢さんも、美味そうにタバコを吸う。

スパーッ、

福沢さんは、たまに関西弁が出る。どうやら、関西出身らしい。後は何も語らない。

みんなそうだ。


公園、

警察官が見回りに来た。

みんな、そそくさと隠れる。私もダンボールハウスに隠れた。

カツ、カツ、カツ、ハウスの前に足音が近づく。

ガサ、

「こんにちは〜」警察官が中を覗く。

「はい、新しい人だね」

「……」

「名前は、」

「……」

「…杉ちゃん…」

「本名を言ってくれ」

「すぎ…杉本…」

「そう、」

「前は、どこにいたの、」

「…」

「まあ、いいや、」

「後で区の人が来るから」

「はい、」

警察官は去って行った。

はぁー、

すぐ、福沢さんがやって来た。

「あいつ、うるさいんだよ、」

「ワシらを目の敵にしているんだよ、」

「そうですか…」

私は、ここに来るまでも何度も警察官に声をかけられた。平気だった。自暴自棄になっていたからだ。どうでもよかった、どうなってもよかった。

「刑務所に入れてくれ」と懇願した時もあった。

…相手にされなかった。

しかし、ここに来てから何故か、普通の気持ちに戻った。

解らない、

何故か、ここの人たちが、みな家族のような気がする。

そんな気がする…


数日後、

「寒い、」

「今晩は、氷点下だぞ、」福沢さんがボヤいた。

みんなは、ダンボールハウスから出てこない。水道も凍っている。

その晩だった。

「寒い、寒くて眠れない、」ブルブル震えてくる。お腹も減ってきた。

「おーい、」

竹下さんの声がした。

明るい光が見える。焚き火だ。

メラメラと炎が燃えている。枯れ枝と枯葉を燃やしていた。

オレンジ色の炎、

昔、子供と一緒に行ったキャンプを思い出した。あの時のキャンプファイヤーのようだ。

メラメラと燃え上がる炎。

楽しかった時を思い出す。懐かしい日々…

「さつまいも、入れといたよ」

竹下さんが、うれしそうに叫ぶ。

高々と燃え上がる焚き火、

暖かい、

皆、焚き火の回りで暖をとる。

「ワハハハハハハ…」会話も弾む。

「早く焼けないかな、」

諭吉さんがワクワクしている。子供のような笑顔だ。

誰かが、お茶っ葉を持って来た。

ヤカンを焚き火に焼べる。竹下さんがコップに注ぐ。

みんなでお茶を飲んだ。

薄いお茶だ。美味しくはない、

でも、美味しい…


ウーウーウー

消防車のサイレン、

真っ赤な赤色灯がみんなの顔を照らす。

「この公園で焚き火は禁止ですよ!」消防士のマイクの声、

ジャーッ、焚き火が消された。

ドロドロの焼き芋が見えた。

「あーっ、」諭吉さんの悲しい顔。

白い煙が上がる…


次の日、

諭吉さんが死んでいた。

寒さでの凍死らしい。

あの焚き火さえあたっていたら…


警察が諭吉さんの身元を調べに来た。

何も解らなかった。

ハウスにあったのは、わずかな食べ物とネコの置物。諭吉さんはネコが大好きだった。

隠れては、炊き出しのご飯をネコにあげていたのを見た事がある。同じ仲間だと思っていたのかもしれない。自分もひもじいのに、

その後、

諭吉さんは、諭吉さんとして火葬された。


ある日、

みんなが騒いでいた。

「ここのホームレス、全員追い出されるらしいぞ!」

「えっ、」

「来月だそうだ、」

私の所にも区の役人が手紙を置いていった。ホームレス緊急一時宿泊施設(通称、シェルター)、そこに行くらしい。

近所からの苦情だった。

みんな、家族や兄弟に知られたくない。そこに行ったら、連絡される。

嫌だ、絶対嫌だ!


高齢の人以外、他の場所に行く事になった。

みんなとの別れ、福沢さんとの別れ、

短かったけど楽しかった日々、うれしかった。


退去の前日、

福沢さんが、やって来た。

「ほい、小遣い」クチャクチャの一万円札を渡された。

「何ですか、いりませんよ」

「持って行け、」

「ワシは、シェルターに行くよ、」

「もう、金は要らないんだ」

……

「いいんですか、家族にバレますよ、」

「いいんだよ、もう死んでるよハハハハハ、」

「そうですか…大金なのに…」

「ありがとうございます」

「またな、」

「はい、」


次の日の朝、

私は、少ない荷物を持って、この公園を出た。

涙は出ない、

足は重い…

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホームレス生活の厳しさ・哀愁。 そしてその中で生まれた絆。 こういったものがよく伝わってきました。
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