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2.遠征

「子爵領の討伐作戦にミスティリアも参加するのかい…?」

「はい。フロレンス団長にはこれから許可を頂きに参ります。」

「うぅん…そうか…。」


 悩む様な声を出すのは、アズラティカ公爵家長男であり、次期公爵のアンク・アズラティカ様。


 イール様と同じ雪の様な白さを持った髪を短く切り揃え、涼しげな目元には燃えるような赤い瞳を携えている。

 スッと通った鼻筋と薄い唇にきめ細やかな肌と、綺麗に配置された顔のパーツは、数々の御令嬢の視線を独占する美貌の持ち主。

 何よりその手腕は皇帝陛下の目にも留まっているらしく、次期宰相の打診が来ているとの噂だ。

 齢23で独身ということもあり、数々の御令嬢の注目の的であるのも納得してしまう。


 トントンと指先で執務机を叩く様子ですら絵になってしまうこの人。

 言わずもがな、夢に出てきた遊戯の登場人物の一人である。


 夢の中に出て来た遊戯というのも、私には少し理解しにくい物で、多数の男性から一人だけ選んで恋をするという物だった。

 その中の面子には見覚えがあり、カイネル王太子殿下とフロレンス魔法騎士団長、アンク様と、何故かルイ。

 あと3人ほど居た気がするが、私に面識が無いため覚えられなかった。


 ドキドキと緊張を隠す様に表情をキッと固く結ぶと、ふと上げられた、アンク様の表情はとても明るく柔らかい。


「フロレンスに許可を取りに行くんだっけ?」

「はい。」

「では、許可出来ないね。」

「………え?」


 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 その勢いのままアンク様の顔を見ると、そこにあったのは冷たい瞳。

 なぜ、と声を出す前にアンク様は悪戯っ子のように目を細めて楽しそうに笑っていた。


「どうかイール様とのご同行の許可を…!」


 思わず声を荒げて訴えてしまった私の姿を見て、尚の事楽しそうにクスクスと笑うアンク様。

 訳が分からないが、反対を押し切ってでも私は行くつもりで睨み付けていると、アンク様はその綺麗な口をそっと開いて愉悦そうに言い放った。


「一人で行くなら許可しないよ。私と一緒にフロレンスの所まで行こうミスティリア。」

「…アンク様には執務がお有りでは?」

「丁度キリもいい所だったんだ。息抜き程度に抜け出す事くらい誰も咎めやしないよ。」


 アンク様側近のジークが頭を抱えると思いますが…?なんて事は口に出来ず、オドオドとしているとノック音が聞こえる。

 振り返るとそこに居たのは、私の主人のイール様。


「兄上、意地悪が過ぎますよ。彼女がとても困っています。そろそろ私の可愛いミスティリアを解放してやってくれませんか。」

「イール、君の可愛いミリィが同行する事に異論は無いのか?」

「彼女の主人及び上司としては不在の間の警護も含め一任したいところではありますが、私個人としては共に来てくれる方が嬉しいですかね。」


 何があっても私が守りますし、と得意気に笑うイール様。

 そんなイール様を見て観念したかの様に肩を上げたアンク様は一言。


「5日で帰宅する様に。これは次期公爵命令だ。」

「「はっ。」」


 アンク様の前から下がった後、遠征のための準備をし馬に積んでいる時に、ふとイール様は私に話しかけて来た。


「実際、私一人で問題ない任務だったけれど…何か君を不安にさせてしまったのかな?ミリィ。」

「いいえ、決してそんな事は。」

「ではなぜ今日に限って無茶をしてでも着いてこようとしたんだい?」


 確かに今までだったら、お見送りをして終わりだったかもしれない。

 颯爽と出立するイール様に手を振りながらいつもの様に。


 でも今回は違う。

 神様が下さったチャンスなのかは分からないが、主人が死んでしまう未来を避けるためにも、今日は同行をしなければいけなかった。

 誰が嘘の証拠をでっち上げたのか、そいつを詰めて、あの救国の聖女という皮を被った女狐と繋がるまでは。


「…ミリィ?」

「!すみません、考え事をしてしまいました。同行については、私個人で少々調べたいことが有りましたので。」

「………そうか。君の事だから何か考えがあってのことだろう。」


 では向かおうか、というイール様の一言を皮切りに我々魔法騎士団は動き出す。

 メンバーは皮肉にもあの時、嘘の証言を溢した第二騎馬隊の面々。


「ミスティリア、顔が怖いぞ?悩み事ならさっさとイール様にご相談された方が良い。」

「それもそうだ。ミスティリアの悩みなんて大抵イールが関わっているんだからな!」

「…ご忠言ありがとうございます。」


 何も知らなければ笑えてたはずの会話も、今となっては誰が怪しいのか見抜くために警戒し、怪しい笑いになってしまう。

 そんな私の異変を感じ取ったのか、首を捻る彼らにはほんの少しだけ申し訳なさが芽生えると同時に、あの時の主人を裏切った光景が瞼の裏側に蘇ってくる。


 忘れるわけにはいかない。

 何があっても、私だけは、あの方をお守りするために。

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