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プロローグ

初投稿です。

拙いところもあるかと思いますが精一杯描かせていただきますので、評価やコメントなどお待ちしています。

 戦場に咲く一輪の花


 白百合の様な姿は、血生臭い戦場に咲くにはあまりにも不釣り合いで、それでいて美しい。

 特注で作られた白銀の甲冑姿からも分かる凛とした立ち姿。

 敵味方関係無く人々はその姿を見ると口々にこう言った。


『まるで白百合の騎士だ』と


 ある日別の人は言った。

 白百合の騎士は婚約者と親しい友人の女性へ嫌がらせを行っていると。

 鍛えた力という力を使ってその女性を貶めようとしていると。

 気が付けば平和が訪れていた時勢に残されたのは、力を保ちすぎた者への無慈悲な誹謗中傷。


 また別の人は言った。

 白百合の騎士が嫌がらせを行っている女性は、異世界からやって来た救国の聖女であると。

 救国の聖女と懇意にしている婚約者の姿に嫉妬をしているのだと。


 膨れに膨れた噂や誹謗中傷を真と印象付けてしまう事が、遂に終戦のパーティーが行われた際に起きた。


『イール・アズラティカ、私は今この場を持って貴様の悪事を断罪し、婚約を破棄させてもらう!』


 一人の麗人が国王陛下から表彰され壇上を降りようとしたまさにその時、見せ物にするかの様に王太子付の近衛兵が彼女を取り囲んだ。

 国王陛下の制止の声も聞き入れず声高に叫んだ一人の美丈夫。

 あまりに突然の出来事について行けない観衆に脇目もくれず、中央にかがむ様に抑えられた麗人を見下ろす様に現れたのは第二王太子殿下と救国の聖女リサ。

 そして公開処刑かのように告げられたのは婚約破棄。


『白百合の騎士と持て囃されているこの女は、救国の聖女であるリサを暗殺しようと企てたのだ。』

『失礼ながら王太子殿下、私はその様な事を企てた覚えがございません。』

『ではなぜ、昨晩貴様の家紋が刻まれたナイフがリサの枕元に有ったのだ。十分な証拠ではないか?』


 カランと目の前に落とされたのは、確かにアズラティカ家の家紋が刻まれたナイフ。

 しかし国有数の名家であるアズラティカ家の家紋の捏造はそれなりに容易いのは王太子である彼も承知な筈だ。


『この家紋が本物か鑑定に回して下さい。そうすれば自ずとお分かりになるかと。』

『でっでも……私、昨晩見たんです…!イール様と同じ位置の黒子と、その瞳の色を!』


 カタカタと小動物のように震えるリサ。

 そんな彼女を可哀想にと、見せつけるように抱き寄せキッと主人を睨む王太子殿下。

 ううっと可愛らしく縋りついてみせるその姿は、まさに庇護欲を掻き立てるような愛らしさである。


見る人が見ればそう思うだろう。


『私は貴様と婚約破棄後、リサと婚姻を結ぶ。つまり貴様は王家に逆らったと見做しこの国から追放する!』


 何を馬鹿なことを言っているんだと、会場中の全員が思ったはずだ。

 婚姻が認められなければ王家の一員でも無い。

 何より血筋を大切にする王家に、未だ功績を挙げていない“救国の聖女”という、利益に成り得るかも分からない者との婚姻は到底認められるはずが無いのだ。


 そんな無茶が罷り通るものかと誰もが思うと同時に、国内の勢力バランスを覆えしかねない力を排除出来る好機を、この場に居る卑しい貴族たちが見逃すはずもない。


騒つく会場の中でも静かに響き渡る主人の声。


『私は王国に背くようなことを何一つ行っておりません。』

『そうでしょうか、イール副団長。』


 そこに立って居たのは王国軍魔法騎士団の第二騎馬隊長であった男。

 続けて何度も死地を共にした仲間たちが次々と証言を語り出した。


『この女は聖女リサを暗殺しようと企てるだけで無く、国家転覆を目論んでいたのだ!』

『これがその証拠と、族とのやり取りをしていた時の契約書です。』


 嘘の証拠まで揃えているのだから、聡い主人はすぐに気が付いたのだろう。

 仲間に裏切られていた事、全て仕組まれていたことだと。

 そのとき初めて、私は主人の悲しそうな顔を見た。


『お前たち……そうか…。


そうだな、私は……全て国のため、我が主のため、そして…いつか婚姻を結ぶカイネル殿下の助けになればと思っていたが………やり方を間違えてしまったようだ。』


 しっかりと主人の顔が見れる位置に立って居た私は力無く項垂れる姿に嫌な予感がした。


『イール様…一体何を…!』


 瞬間、主人は押さえつけられている奴を振り解き、ドレスとは思えない程に恐ろしい速さで今度は兵士を押さえ込んだ。

 主人は凛とした美しい声を、戦場かの如く張り上げて叫ぶ。


『国家転覆の容疑を掛けた罪人を、陛下の御前で断罪する意味、その深刻さを貴様らは分かっているのだろう?


知らぬとは言わせぬぞ魔法騎士団!


私の陛下から賜った剣を持って来い。私は、逃げも隠れもしない。』

 

 その瞬間先程まで動揺して煩わしかった野次馬達も静まりを見せ、その場にいる騎士達は緊張に顔を固く引き結ぶ。


 私は、周りの人達の騒めきなんて耳に入って来なかった。

 今から主人が何をしようとしているのか、なんとなく分かってしまったからだ。

 白百合の騎士という呼び名に恥じない、清廉潔白とした美しい生き方をしていたお方だ。

 令嬢としては間違った道だったのかもしれないが、いつでも王家に忠誠を誓い、国の為ならと心身を削っていた方だ。


 やめて下さいイール様。


 そう願った時、耳に聞こえて来たのは聞き馴染みのあるカシャンとした金属音。

 軽い作りなのに丈夫なそれは、日頃から丁寧に手入れされている事が見て取れる美しき白銀の宝剣。

 そっと手に取って鞘から刀身を抜き取る主人の顔は嫌に穏やかで、慈愛に満ちていた。

 瞳には静かな泉の様な、静けさを纏って。


『国家転覆…か……物は言いようとも取れるが…招いたのは私自身の行い。


…間違えたのだな、私は。』

『そうだ、貴様は全て間違えたのだ。何をするつもりかは知らぬが無駄な抵抗はやめて罪を認めろ!この、醜悪な魔女め!』

『魔女…私の姿はそのように見えていたのか…。はは、そうか…。


 魔法騎士団一同、名を呼ばれたら前に出ろ。


 ……ダスマン、サリー、シムラティオ…フロレンス団長、世話になったな。

 女の私を受け入れ慕ってくれた貴殿らを忘れはしない。

充分強い貴殿らを私が心配するのは少々気が引けるが、後は任せたぞ。


 カイネル殿下、平和を愛する民達を守りながら更なる国の発展を願っています。

 無茶をしすぎず、お身体を大事にして下さいませ。殿下なら豊かな国にできると信じております。


 陛下……私はこの国を愛しています。私の手で民の笑顔を守れる事が唯一の幸せでした。』

『何を言うのだ、アズラティカ嬢…!』


 この場で初めて口を開いた陛下の顔に浮かべられたのは悲壮感に溢れた顔。

 ついていけない周りを嫌に静かな瞳をしながら見渡して、柔らかく笑う主人。

 思わず飛び出そうになった私を押さえ付けるのは王太子殿下付の近衛兵。


『イール様ッ!!!!』

『私は、この国と白百合の騎士という名に誇りがある。

これまでの功績と今回の騒動について、裁量を図るおつもりだった陛下には大変申し訳ない事をしてしまうと自負しております。


 しかし、私にとって、私の愛した国に疑われ、己の虚偽の罪で裁かれた挙句、生き永らえる事ほどの苦痛はない。


 陛下、折角の催し物を傷にしてしまう罪も含め、このイール・アズラティカが身をもって全責任をお取ります。』


 最後に私と目が合った主人は、何処か申し訳なさそうに眉尻を下げて笑った。

 耳には届かなかったが僅かに揺れた唇は、私に向けて放たれた言葉の様だった気がする。

 捕らえろ!と響き渡る陛下の声よりも数刻早く、美しく綺麗に笑った主人は己の首に刃を突き立て首を断った。

 本当に首を断つとは思っていなかったのか、目を見開いて呆然と立ち尽くすカイネル殿下。

 悲鳴が上がる会場の中で、慌ただしく指示を出す陛下と、現実を受け入れられないとでもいうように駆け寄り亡骸を抱いて嘆く旦那様と奥様の姿。


 その姿をどこか愉悦そうにほくそ笑んでいた貴族の奴らの顔は忘れない。

 事ある毎に自分の領地がと縋って来た子爵家の奴等も、どこか嬉しそうに笑っている。

 何よりも、殿下の胸で泣いている女。

 主人が首を断つその瞬間笑っていた救国の聖女。


 私はしっかりと見たのだ。

 あの女が、主人が首を断つ瞬間にニヤリと笑ったのを。


 国が危機の時は白百合の騎士と言って持て囃し、力を乞うて使い潰した挙句の果てにはこんな仕打ちをするなんて許さない。

 こんな世界は間違っている。


 そんな思いを胸に剣を手に取ろうとしたその瞬間、私の視界は真っ黒に染まった。

評価などしていただきますと非常に糧になります!

目指せ完結!

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