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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

全ては○くなる!

作者: おまつ

丸井叶恵(まるいかなえ)は、ドッジボールを真っ直ぐに愛してる。

井上警護(いのうえけいご)は、彼女を不器用に守る。

天上英(てんじょうすぐる)は、彼女らの邪魔をする。

白瀬このみ白瀬このみ(しらせ    )は、彼女を目指す。


そんな、3人の幼なじみと1人の新入生が織り成す青春物語開幕ーーー!


果たして、彼女ら彼らは無事に仲間を集められるのか…!?










それは、初めての経験だった。

私の視界を青い春に染めた、彼女の一投は…

私の世界を変えてくれた!



僕は嫌いだった。

彼女と彼の存在が邪魔で仕方なかった。

僕が、僕であるために。



俺は、彼女が心配だった。

一人で突っ走る性格はまるで猪のようだ。

守りたい、そんな対象だった。



わたしは、ドッジボールがすきだ。

力の限り、思いっきり、真っ直ぐに進むボールに憧れた。

この夢は、この想いは、誰にも止められない…!




これが、「私の」「僕の」「俺の」「わたしの」ドッジボールだ!



「丸井さまーーー!!!」

トタトタと、軽快とは言えない足音が廊下に響く。

その声と音に振り向くと、後輩の白瀬このみが近づいてくる。

わたしは声をあげた。

「やぁ、白瀬。そんなに急いでどうしたんだい?」

「大変なんです!部室が!!私と丸井さまの愛の巣が!!!」

愛の巣…、ドッジボール愛のことかな?

わかるわかる「ドッジボール愛」の巣だよな!部室は!

何が起こったのかはよくわからないが、大変なのは彼女の上下する両手でよくわかる。パタパタと手首を動かす様はまるで鳥の雛だ。

「とりあえず、来てください!」

そう言うと、彼女はわたしの手首を握り駆け出した。

廊下は走るものではありません。

まぁ、走ると言ってもわたしから見たらただの早歩きだが…。

身長差の歩幅が理由か、それとも彼女の軽快とは言えない足運びが原因か…?

そんなことを考えながらわたしは足を運んだ。

問題の起こった、部室とやらへ。






その事件現場には、見知った2人の男子生徒がいた。


ひとりは、井上警護(いのうえけいご)。わたしの幼なじみだ。

もうひとりは、天上英(てんじょうすぐる)。こちらも、わたしの幼なじみだ。


「なんだって、こんなことをした!?」


天上の胸ぐらを掴んだ井上は、額がくっつくのでは?という距離で天上を責め立てる。

井上は噛みしめた唇を開き、震えた声を出した。


「そんなの、僕が知りたい…」


井上の釣り上げた天上の身体は、かかとが揺れた。


我がドッジボール部の六畳ほどの部屋に、割れた花瓶が水をキャンバスに、

花を散らしていた。


この花は、白瀬が持ってきてくれたものだ。


井上さんみたいですね、と話していたのを覚えている。


大きなひまわりは、確かにどっしりと、いつも見守っていてくれる井上に似ている。大きな身体に、大きな心。小さくて可愛いものが好きな、そんな彼に。


井上は、彼女が選んで持ってきてくれた。それだけで嬉しかっただろうに、そんなことを呟いた彼女にまた愛が重くなった模様だった。白瀬への愛が。


これは、まぁ…地雷だろうな。


「丸井さま…どうしましょう…」


不安そうな表情を浮かべた彼女を安心させるように、にっと口角を上げた。


「よし!ドッジボールをしよう!!」


「…は?」「え、?」「丸井さま!!?」




「どーゆーことだってばよ!?あ、思わず…あのへりふが、…失礼、かみました」

「それ、いろいろアウトじゃないか?白瀬」

「俺、最初のは知ってるけど、後半のは知らねぇな…?今度、その作品教えてくれないか?白瀬さん。もっと、君のことが知りたいんだ。君が好きだからさ。」

「よくそんな恥ずかしいこと素面で言えますね。そんな素敵にはにかんでも、私は丸井さまのモノなので、無理ですね。」

「そんなことは百も承知だ。それでも言いたかっただけさ(笑)」

「井上、お前本当に白瀬のこと好きだなぁ…」


「ぼくをむしするな!!!!!」


昼休みの体育館に、天上の声が響く。


わたし達がいつも通りの会話を繰り広げていると、我慢ならないと割り込んできた彼はツカツカと近づいてきた。

「で、どういうことだ。ドッジボールって。」

10センチ上から見下ろす彼は、普段他の人達に見せる顔とは違って見える。

それにしても、大きくなったものだ。幼い頃はあんなに小さかったのになぁ…。

良い成長をしたな、天上!!


「ドッジボールをするということは、勝負に決着をつけるということだ。どっちも後腐れなく、全力でボールをぶん投げれば良い!真っ直ぐとな…!!ドッジボールは良いぞ!!!」


「丸井、それ単にお前がやりたいだけじゃないか?」


井上の言葉にギクリとする。さっすが井上!わっかってるぅ…!!(目を逸らす)

生まれたときからのお隣さんは違うな、やっぱり…。

目を逸らしたまま遠くを眺めるわたしの腕を白瀬が軽く触れる。


「さすが、私の丸井さまです!やりましょう!!ドッジボール!!!私達、ドッジボール同好会ですし!」


きらきらと輝く宝石のような、翡翠の瞳がこちらを期待の眼差しで見つめる。

それを見た井上が、羨ましげにこちらを見ている。


「いいだろう、やってやろうじゃないか。ドッジボールなんて、子供の遊びに付き合ってくれる僕に感謝するんだな!」


天上があげた声に思わず目に力が入る。


「は、?今なんておっしゃった?わたしの空耳か?」


ギシリと拳が音を溢す。

わたしの、愛するドッジボールがバカにされたと言う現実と向き合わねばなのか?


「子供の遊びだと、言ったんだよ。ドッジボールなんて、」


「いいだろう!この勝負、受けて立つ!!!!!」


荒波が背後を応援するかのように、私は腕を組んで宣言した。

これ以上、ドッジボールが汚されるわけにはいかない。

ドッジボールの良さを、こいつに叩き込んでやる!!!


「いや、お前がやるんかい…」

「さっすが丸井さまです~カッコいいですーーー!!!!」


井上の呆れた声に、白瀬のハートの声が私を応援する。

井上、白瀬!お前らの(かたき)も取ってやるからな!

一番はドッジボールだけどな!!


「さぁ、いよいよ始まりましたね!解説の井上さん!この決戦、どちらが勝敗を決するのか、とても楽しみですね!なんと、こちらのお二人、幼なじみだそうですよ!そういった情報が入っております。」

「ああ、俺達は幼なじみだ。実況の白瀬さん、俺のことをもっと知って欲しい」

「そうなんですねー。(棒読み)…それにしては、余りご一緒してるところを見かけませんね?」

「天上はいつも忙しそうだしな。」

「ああ、有名人ですし、いつも誰かしらに捕まってますよね。そう言えば、先日私のクラスの子が告白したらしいですよ。モテますね~」

「流石の情報力だな」

「いや、これくらいは常識ですよ」



井上と白瀬の茶番劇をBGMに、私はコートの上に立つ。

今回は、お互いに、外野(がいや)はいない。

一対一、全力でぶつかるためだ。

わたしたちの闘いに、外野は必要ない。

(たま)拾いを井上と白瀬に頼むことは必要だがな。


「それでは、丸井さまVS天上さん、スタートです!」


ピュイーーー!!!!


白瀬の首にぶら下げた笛が開始の合図を告げる。


わたしは、その合図とともに体の重心を後ろにずらし、脚を開き、

腕をおおきく、振りかぶった!


ビュンーーーーー


風を切り、真っ直ぐと飛んだボールは、天上の顔の横を過ぎ去った。


「ひっ、!!!??」


天上は、思わず右目を見やり、そのまま後ろを向いた。


ズバンーーンーンー!!!! 


壁にブチ当たったボールは、そのまま跳ね返り体育館を駆け回る。


「キャーーーー!!!!!丸井さまーーーーー!!!!!」


「おお、今回もよく飛んだなぁ…」


白瀬の黄色い歓声に、井上の関心したかの声が耳に届く。


そして、





そのままヘタリと、座り込んだ彼は。






ポロポロと、涙を溢した。



それは、まるで、昔の彼のように。






「なんでだよ…、なんで、お前らは…僕がいないのに…楽しそうなんだ…っ、なんで!!!!!僕を誘ってくれないんだよ!!!!!」



まるで、心が決壊したかのような、それは魂の叫びだった。


 








「馬鹿だなぁ…お前。少しは成長したかと思えば、全然変わってなかったんだな。…もっと、側で見ていればよかったな」



井上の、思わずと言った言葉に、私はおおきく、頷いた。


「本当だ。わたしたちが馬鹿だった。こっちこそ、もうわたしたちはお前には必要ないと思っていたんだ…」


腰に手を当てて、当時に思いを馳せる。



幼い頃は、何をするにもわたしの後をついてきていた、天上を思い出した。


左手首に嵌め込んだ、思い出の欠片、赤いリストバンドをした手を彼へ差し出す。



「一緒に、ドッジボールをしよう」



差し出された手を見て、彼は当時の笑顔で笑った。



「青い、春…。青い春ですよ…。感動です。でも、丸井さまの手を握りしめていいのは、私だけなんですからね!!!!」


パシン!と白瀬が天上の手をはたいた。


しかし、固く握られたお互いの手は離れないままだ。


それを見た白瀬が頬っぺたを膨らませて両手で離そうとする。


重なった手を見て、井上が呟く。


「まるで、円陣を組んでるみたいだな。」


そう言って右手を白瀬の上に重ねた。


「え、?!」


白瀬がビックリして井上を見上げる。

かなりの身長差から、首がおおきく曲がっている。

…見上げるの、疲れそうだな。


そんな風に思っていたら、空気が漏れた。


「…っぷ、」 

「…笑えるだろう?」

「え、?何がですか!!?」

「可愛かろう(ドヤ)」


そんな言葉を交わしていたら、ぎぃ…と重いドアの開く音がした。



「おお?やってるね~~!練習はどうだい?少し休憩をしないかな?いなり寿司を作ったんだ…!」


ひょこひょこと、両手にタッパーを抱えた顧問が登場だ。その後ろには彼の飼い猫がチリチリと鈴を鳴らしながらついてくる。しっぽはピンと伸びており、ご機嫌そうだ。


彼の名前は森考史(もりたかし)。古文の非常勤であり、御歳(おんとし)67歳の大ベテランだ。


この暑いのに、長袖、セーターと余計に暑くなりそうな格好だ。

好好爺然とした雰囲気でにこにこと目尻にしわを作りシワの刻まれた顔を綻ばせている。よほど、機嫌が良いようだ。


「君は新しい同好会メンバーかな?ついに、4人揃ったのだねぇ~!これで部に昇格できるね!」



「「「あ!!!」」」


3人同時に声が揃った。すっかり、その条件を忘れていたのだ。


「天上!もちろん、我が愛するドッジボール部に入るのだよな!!?」

「天上さん、これは今絶対入るチャンスですよ!貴方が欲しかった、チャンスですよ!!!私たちのヒーローになれますよ!!!!!」

「おお!ヒーロー、お前憧れてたものな!良かったじゃないか!!」



私たちの猛プッシュに押されて、彼の左足が一歩うしろに下がった。


そして、



「…いなり寿司食べてから決める。」



「うお!ツンデレ!?これ、リアルなツンデレですか!!!?」

「うるさい!!!!!」


よしよし、すっかり仲良しだな!これでドッジボール部の未来も安泰だ!!

そして、もっと仲間を集めて、全国に行くんだ!!!!!






わたしたちの「夏」は、まだ始まったばかりだ…!





「うちの奥さんが作った、沢庵もあるよ!しっかり食べてね!!」









「夢はでっかく、全国大会にしよう!」

白瀬「丸井さま、!?さすが過ぎます!!!!!」

天上「いや、大き過ぎないか?まずは部員集めだろ?」

井上「いなり寿司、美味いな…」

森「少年よ、太志を抱け!て言うからね~いいんじゃないかな?あ、こっちも良かったら食べてね!うちの奥さんが漬けてくれた沢庵なんだけど、これがまた美味いんだ!さすが、私の愛する奥さんでしょう???」



そして、私たちの日常も始まった。




気が向いたら続きます。

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