キャラミ・ストライキ珍道中
(注)この小説は、事実に少しフィクションを混ぜたものです。読者の方々のご理解を、お願い致します。
1982年1月21日、所は南アフリカ、キャラミ・サーキット近くのホテルである。
そのホテルの一室に、フェラーリのピローニ、リジェのラフィー、マクラーレンのラウダらが集まり、何やら話をしている。
「では・・・やるか?」
「おう!」
「やるとも!」
・
「確かに、最近の奴のやり口には我慢ならん」
「上層部の暴走を止めるのだ!」
「よし、決まりだ!明日の7時に、みんなを集めるんだ。そこで、発表をする。抜かりなく行くぞ。」
「では、今回のストライキの成功を目指して、乾杯だ!」
ストライキ?なにやら物騒なことになりそうだ。ちなみに、「奴」というのはバーニー・エクレストン、F1界のボスである。
かなりのやり手であるが、強引なやり口のため、敵も多い。
ともあれ、82年のF1シーズンは、この一件で幕を開けることになる。
翌朝・・・
ドライバーたちは、一様にホテルの大広間に集合した。
「こんな朝っぱらから、何の話だよ。」
「どうせ、ミーティングだろ。」
「でも、何もこんな早くにやらなくても・・・」
ドライバーたちが雑談をしていると、GPDA会長・ピローニがやってきた。
「えー、みなさん。今回ここに集まってもらったのは、ミーティングのためではありません。ストライキの会議のためです!」
「なんだって!」 「ストライキィー!?」
「そうです。理由は、我々ドライバーに対する弾圧と、上層部の不正に対する抗議です。」
「すんませーん、イマイチピンと来ないんですが。」
「つまり、上層部が、私たちに対して力で押さえつける、言わば独裁政治を行っている手段をとっていること、そして、この事について不満を言った者はレース資格を奪うという暴政に対しての抵抗ということだ」
「そいつはひでーな。じゃあ、俺もその話、乗らせてもらうわ。」
口を開いたのはネルソン・ピケ。奔放な性格で、たびたび他のドライバーにたいして「口撃」を行っている。
実は彼は、先のシーズンのチャンピオンであり、先ほど話したバーニー・エクレストンのチーム・ブラバムでエントリーしているが、ピケも彼のやり口に
疑念を持っている者の一人であった。
「ありがとう、ネルソン。では、ストライキに賛同の人、挙手!」
実に、20数人程が手を挙げた。
「では、ここをストライキの本部とします。何か動きがあった場合は、すぐに言いに来るように」
「ヘーイ。わかりました。」 「それでは、後でもう一回賛同メンバーの確認を行いますので、ニキ(ラウダ)の部屋に来るように。時刻は・・15時30分です。」
「オッケー、15時30分だな。しかし、ワクワクするな。俺たちでストライキだなんて」
「遊んでるんじゃないんだぞ。これは、俺たちの自由を賭けた、バーニー達との駆け引きなんだ。」
「駆け引き」とはいえ、ドライバー一同には、まだ旅行に行く前のような、少し浮かれた気分が漂っていた。
ドライバー達は、とりあえず今日は休日ということになる。バレないように変装して、外に食べ物を買いに行く者や、
暇な者は親しいドライバーを訪ねて、雑談をしたり。
ところでピケの部屋では、もし今日の予選が通常通り行われていたならば、誰がポールを取ったか予想するということもやっていた。
「ところでさあ、普通に予選がやってたら、誰がポールとってたかなあ」
「ルネ(アルヌー)じゃない?あいつぁ速いし、ルノーターボも良いし、ここは高速サーキットだし」
「いや、俺はブラバムのどっちかだと思ったけど。リカルド(パトレーゼ)はアロウズでポール取ったし、ネルソンもいいドライバーだし」
「このお、照れるじゃないかぁー」 「そういうネルソンは、誰が取ると思ってたの?」
「やっぱ、俺!って言うのはおいといて、俺はアラン(プロスト)だと思うけどなあ。凄く速いし、凄く成長してるし」
そこへ、また一人ドライバーがやってきた。フェラーリのジル・ヴィルヌーヴである。
「何だあ、興味があったから聞いてみれば、俺の名前が一向に挙がらないじゃないか」
ヴィルヌーヴは少しガッカリした表情で言った。
「何だよ、立ち聞きしてたのか。仕方ないだろ。あのへぼマシンから1年しかないのに、とてもポールを争えるほどに良くなってるとは思えない」
「まあ、そうだけど・・・」
「それに、万一ポールだったとしても、レースではたいていポシャらすだろ!」
「何だって〜〜!」ヴィルヌーヴは怒って、ピケを追っかけまわした。
何か気楽な雰囲気が漂う中、いよいよストライキが幕を開けた。
果たして、結果はいかに・・・
F1小説4作目になります。「hevens’formula1」よりは
短編です。それでは、これからも頑張ります!